第1話 スキル:マルチリンガル
「俺のスキル、これだけ……?」
俺の視線はずっと、半透明のウィンドウに釘付けだった。
⸻—————————————
名前:進藤 旺真
スキル:《全言語理解》(マルチリンガル)
あらゆる言語を瞬時に理解・翻訳・発話が可能
文字の読解も可能
ステータス:
•MP:100
•STR(筋力):28
•VIT(耐久):34
•DEX(器用):94
•AGI(敏捷):31
•INT(知力):68
•LUK(運):77
————————————————-
「どういうことだよ、これ……」
周囲ではクラスメイトたちが歓喜や困惑の声を上げている。
「やったぜ!『雷速閃』ってめっちゃかっこよくね!」
「私、回復系だ!なんか特別っぽい?」
「『鉄身化』……すげぇ、筋肉硬くなるのか?」
みんなが夢中になって自分のスキルに沸く中、俺だけがぽつんと取り残されていた。
異世界転生――本当に、マンガやゲームみたいなことが起きるなんて、夢みたいだった。でもその夢は、残酷な形で現実になった。
———————————————————————-
――界正高校 2年3組 教室
その日は、いつもと変わらない、ありふれた一日になるはずだった。
チャイムが鳴る寸前、窓際の席では男子がうとうとしていたし、前列では誰かがテスト範囲のプリントを読んでいた。
教室のあちこちで友達同士が何気ない会話を交わし、椅子のきしむ音や筆箱を開ける音が、騒がしさの中に混ざっていた。
そんな日常の只中――突如、空間が揺れた。
「……え?」
まるで空気そのものがねじれたような、耳鳴りのような“圧”が、教室全体を包む。
時間が、音が、感覚が、スローモーションになる。
「なに、今の……」
「地震……? じゃない、これ――」
生徒の1人が言いかけたそのとき。
教室の床に紫がかった光の魔法陣のようなものが浮かび上がった。
「え……?なにこれ、ホログラム……?」
「やばいってやばいって! 先生!!先生どこ!?!?」
ドン、と空気が爆発したような衝撃。
風も吹いていないのに、プリントが宙を舞い、ブラインドが激しく揺れた。
「う、うそ……うわぁぁぁ!!」
叫ぶ間もなく、足元が消えた。
まるで床がなくなったかのように、身体がふわりと浮かぶ。
引力が逆転したような感覚。息ができない。目がくらむ。
「おいっ!! これ、なに!?!」
「誰かっ、助け――」
そのまま、クラス全員が転送された。
机も椅子も、教科書も何もかもを置いて。
教室の中は数秒で無人となり、ただ風の音だけが残った。
ふと目を開けると、そこは……石造りの荘厳な大広間だった。
「……え? なにここ……」
「夢? てか、床冷たっ……!」
制服姿のままの生徒たちが、30人ほど、玉座の前に集められていた。
「誰かふざけてんの? ドッキリ番組? カメラどこ?」
「いや、これヤバいやつだって! 本物のファンタジー空間だろコレ!」
「え……なんで、こんな……!」
「スマホ使えないんだけど!?圏外!?」
「落ち着けよ、落ち着けって!……って、俺が落ち着けてない!うわぁああ!!」
悲鳴、ざわめき、怒号。
パニックと混乱が大広間を支配していた。
誰かが泣き出し、誰かがしゃがみこむ。
一部の男子は冷静を装おうとするが、目が泳いでいる。
「だ、誰だよこんなとこに俺らを連れてきたやつはぁ!!」
「ふざけんな! 帰してくれよ! 俺、まだバイトのシフト残ってんだけど!」
中には教師を探してきょろきょろしている子もいれば、友達の名前を必死に呼びかける子もいた。
「異界の者たちよ、落ち着きなさい。お前たちは、我が王国エルディアの未来を守る希望である……」
声の主は――年老いた、威厳ある男性。
長い白髪に深紅のマントを纏い、杖を持つその男は、王冠を戴いていた。
「希望ってなに!? 連れてこられただけだよ!?」
「人さらいじゃんそれ!冗談キツすぎる!」
「異世界に来たのか……」
そう呟いたのは俺――進藤旺真。
半ば呆然としながらも、頭の片隅で冷静に現状を整理しようとしていた。
「我が国には今、闇が迫っている。予言が語る、“黒き龍”の目覚め――それを止めるには、お前たちの力が必要なのだ」と王がゆっくりと話す。
「えっ、戦えってこと!?」
「無理無理無理!剣も魔法も触ったことないし、てか俺バスケ部だし!」
「私、せっかく志望校決めたとこだったのに……どうすんのよ……」
「ねぇ、これ本当に現実? 誰か夢って言って……」
1人、また1人と現実を受け入れきれず、膝をつく者もいた。
そんな中――
「おい、落ち着けって!!怖いのはみんな一緒だろ! けど、今は話を聞こう!」
教室で委員長をやっており、リーダー格だった神城 蓮の声が響く。
周囲の空気が少し静まった。
「……ありがたい。では、続けよう」
「紹介が遅れて申し訳ない。余はこの国――エルディア王国の王、カリオス・エルディア七世である」
王は一歩、壇上から前へと進み、穏やかに語る。
「汝らは『予言』に従い、この世界を救ってもらうために我らが召喚した“異界の勇士”……。転移の際、神の加護により、そなたたち一人ひとりには“スキル”が与えられておるはず。まずはその内容を各自で確認していただきたい。ウィンドウと唱えれば出てくる。」
そう言った瞬間、王の前に淡い光が浮かび上がった。空中に浮かぶ半透明の四角い“画面”に、見たこともない文字列が次々に表示されていく。
「さあ、そなたたちも試してみるがよい」
しばしの沈黙の後、ひとりの男子生徒がそっと呟いた。
「……ウィンドウ」
その瞬間、彼の目の前に光のパネルがふわりと現れた。
「うおっ、なにあれ……ホログラム?」
「マジでRPGのステータス画面じゃん……」
次々と生徒たちの前に、光の画面が浮かんでいき、誰もが自分のステータスを食い入るように見つめ始めた。
そんな中、進藤旺真はひとり、ウズウズと心を弾ませていた。
(剣とか、魔法とか……異世界っていったらそういうのだろ。俺にも、何か派手なスキル、来てたりしないかな……!)
(いや、むしろ……)
(炎の剣を操るとか、雷をまとって戦うとか──むしろ今まで地味だったぶん、こういうとこでドカンと!お願いします、神様、女神様、仏様、そして最近お星様になった隣の家のポチ、どうか!!)
そんな妄想が脳内で爆発しながら、両手を胸の前に揃えて、緊張と期待を込めて言う。
「……ウィンドウ」
パァッと、目の前に薄青く発光する半透明のステータスウィンドウが開いた。
息を飲みながら、それに目を通す──
『スキル:《全言語理解》マルチリンガル』
これから物語を進めていきます。
拙い文章なので読みにくいかもしれませんが、よろしくお願いします!
楽しんで読んでもらえると幸いです。