表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/20

第9話 私の家を自由に使っていい権利と、私が作る料理を好きに食べていい権利の二つ!

 なんてこった。


 俺が推しの裏方をやる……だと……⁉

 

「裏方って言うのは、そのつまり、編集をしたり、企画を考えたりするアレだよね?」

「そう、アレ」

「急になんで?」

「私さ、一人でやってるんだよ、編集も企画も」

「やっぱりそうなんだ。すげえ」


 登録者10万人規模の動画配信者は優秀な編集や作家がついているケースがほとんどだろう。

 出演するのは一人でも、そこに多くの人が関わっているというのが動画配信のリアル。


 さてぃふぉちゃんねるは、その常識を覆し、一人で全てをやっているのではないか、とファンの間で憶測が回っているのだが、本当だったとは恐れ入った。

 確かに、編集は作業量が少なそうなシンプルな構成だし、企画も基本的に真っすぐゲームをプレイするだけなので、一人でやっていることにも合点がいく。

 だからこそ、登録者10万人いっているのが異常なのだけれど。


「でももう無理。きつすぎ、しんどい」


 一ノ瀬さん、いな、さてぃふぉの弱気な発言に驚愕する。

 動画では全ポジティブ全ハイテンションのさてぃふぉが、裏でこんな悩みを抱えていたとは。

 やはりさてぃふぉも生身の動画配信者であることを実感する。


「でも、なんで俺?」

「私の正体を知っているのって、二宮君しかいないし」

「それもそうだけど、さてぃふぉちゃんねるの収益だったら、プロを雇えるでしょ」

「そうすると、その人に正体がバレるし、その人から私の正体が拡散される恐れがある。それに、見ず知らずの人間を家に入れるのは怖い。私、一人暮らしだし」


 それもそうか。

 協力者を得るということは、同時にリスクでもあるのか。


「といっても、俺を雇ってもあんまり役に立てない気がするが」

「七山君と話していたのちらっと聞いちゃったのだけど、二宮君って動画配信しているんでしょ?」

「い……や、まあ……」

「どうしたの? 歯切れ悪いけど」


 そりゃあ、歯切れ悪くもなるよ。


 こちとら、さてぃふぉちゃんねるの視界にも入らない、登録者一桁の底辺配信者だ。十万人超の登録者を持つ人の前で、動画配信者と名乗るのはあまりにも恥ずかしい。


「俺なんてほら、最底辺配信者なんで」

「一応、自分で編集しているんでしょ?」

「そうだけど。素人に毛が生えた程度だぞ。いや、毛すら生えてない。産毛くらい」

「それだけでもありがたい。ずっと一人でやっていたから」

「うーん……」


 その提案に思わず首を傾げてしまう。


 勿論推しの動画配信者の裏方をやるなんて、素晴らしいことだ。

 だが、だからこそ、そのプレッシャーに耐えられる気がしない。

 もし編集が悪いと叩かれれば、それは編集担当である俺のダイレクトな責任になる。俺のせいで推しの評判が下がるなんて、あってはならないことである。


 一ノ瀬さんは「それに……」と、まだ何か言いたそうな口ぶりをする。


「企画、なーんにも思いつかない」


 一ノ瀬さんはあっさりと激やばなことを告白した。


「企画……か」

「思い当たる節があるんだね」

「大変心苦しいけれど……」

「私のコメント欄って基本的に平和でポジティブなことばっかり言ってくれるんだけど、最近、マンネリ化したのではないか? さてぃふぉはオワコン的な意見がチラチラ目に入って……。そ・れ・に、いつぞやの朝、二宮君たちもそんなこと言っていたよね!」


 どんどん声のトーンが大きくなって、動画内でよく聞いているさてぃふぉの感じに近づいていく。

 疑っては無かったけど一ノ瀬さん=さてぃふぉというのを改めて実感する。


「待てって! あれは七山が勝手に言っていただけで、俺は言っていない!」

「じゃあ、私のファンの二宮君に聞くけど、さてぃふぉは企画のネタを豊富に持っていると思う?」

「う、うう……。それは……申し訳ないけれど、あんまり思わない」

「ほら、そうじゃん! だから、企画も考えてよー。二宮君、ゲーム実況動画色々見ているんでしょ?」


 一ノ瀬さんは泣きそうな顔で俺に懇願してきた。

 さすがにここまで頼まれて断るのは、心苦しい。


「分かった。やってみる。一ノ瀬さんの助けになりたいし」


「本当⁉ ありがとう! ガチ神だね! 神社だね!」


 おなじみのさてぃふぉ語録を口ずさみながら、一ノ瀬さんは俺の手を握ってきた。

 急に柔らかい手の感覚が伝わるものだから、思わず顔が沸騰しそうなくらい熱くなってしまう。


「勿論、やるけれどさ……差し出がましいようだけれど、報酬とかって……どうなるのかな?」


 推しの裏方をやれるのだから贅沢言うな、と言いたいところだが、残念ながら俺は仏ではなく、損得勘定を持った人間なのだ。

 自分の時間を誰かのためにささげるのだ、その対価は欲しい。


「それは当然考えているよ。れっきとした仕事だしね。あと、口止め料もあるしね」

「さらっと怖いこと言うな。だからバラさないって!」

「普通にお金渡しても良いのだけれど、ほら、うちの高校って、アルバイト禁止だし、高校生同士の金銭の受け渡しってあんまりよくないと思う」

「それは同感。思わぬトラブルとかもありそうだしね」

「だから私はこれを提案します」

「うん」


「私の家を自由に使っていい権利と、私が作る料理を好きに食べていい権利の二つ! どう?」


「え……えええええええええええええええええええ⁉(本日二回目)」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ