第54話 だからさっ、私する。顔出しで動画配信
『御世ちゃん: 久しぶり。吾郎君に謝りたいから、ウチに来てもらえるかな?』
授業後、何気なくスマホを開くと、御世ちゃんから久しぶりにメッセージが届いていた。
……ずっと、待っていた。彼女から連絡が来ることを。
俺は居ても立っても居られずに、荷物をまとめて教室を飛び出した。
入れ違いで担任が教室に入ってきたものの、構うものか。
俺にとって、御世ちゃん以上に大切なものなんて存在しないんだから。
「おい、二宮! 帰りのホームルームが残っているぞ!」
「すんません、体調不良で早退します」
「体調不良の奴がそんなダッシュで走れるか! おい、二宮!」
「すんません!」
「……二宮、青春してるじゃねえか。行ってこい」
廊下側の後方に座る七山がすれ違い様に、全てを察したのか、そんなことをボソッと呟いた。
心がイケメンすぎるだろ、この男。
☆
久しぶりの御世ちゃんの家だ。
相変わらず豪華な家。中庭の芝生が青々と茂っていて、草花も鮮やかに彩りを放っている。
インターホンを鳴らし、家の中から誰が来たのか確認しているのか、やや間があって、俺だと分かったタイミングで玄関の扉が開いた。
そこには御世ちゃんが立っていた。
俺の大好きな人がそこに立っていた。
「御世ちゃん……」
「吾郎君……」
俺と御世ちゃんは対面するや否や、抱き合った。身体が自然と求め合っていたようだ。
ああ、柔らかい肌だ。俺の大好きな人の肌。
肌と肌が触れ合うって、こんなにも幸せな事だったんだ。
「ごめん、ごめんね、御世ちゃん。俺、御世ちゃんの人生を滅茶苦茶にしちゃった」
「私の方こそ……ごめん! 吾郎君を拒絶しちゃって! 本当は吾郎君のこと大好きなのに!」
「御世ちゃん……っ。ううう……。こんな俺のことをまだ大好きでいてくれるの?」
「当たり前だよ! 逆に私のことをまだ大好きでいてくれる?」
「勿論だよ! ずっと好きだ! 一生好きだよ!」
「うう……私もぉ……ずっと会いたかった……」
「俺もだよ。ここ毎日、ずっと御世ちゃんと一緒に居た時のことを思い出してた」
「えっ、吾郎君も? 私もだよ。私も、ずっと考えていた」
「御世ちゃん……」
「ねえ。これからもまたずっと、吾郎君と一緒に思い出、作りたい」
「俺も、作りたい。また一緒に作っていいの? そんな幸せなことしていいの?」
「勿論だよ」
御世ちゃんは俺の胸に飛び込んでくる。御世ちゃんの涙で、俺の服がぐちょぐちょに濡れる。
その様子を見下ろすように俺の涙が、御世ちゃんの後頭部に落ちる。
お互い、涙で感情がぐちゃぐちゃになる。
俺と御世ちゃんは示し合わせたように、指を絡ませながら手を繋ぐと、階段を上り彼女の部屋に向かう。
部屋についた瞬間、俺たちはため込んでいた欲望を放出させるように、狂うように口づけを交わす。
ちゅ。ちゅ。ちゅ――。
欲望のままに、そして愛を確かめ合うように、俺たちは熱いキスを交わし続ける。
そして、ボルテージが極限まで達した俺は、舌を出し、御世ちゃんの唇につける。
御世ちゃんはそれを受け入れるように、口を開け、舌を伸ばす。
俺と御世ちゃんの舌が触れ合う。それを皮切りに、舌と舌を濃厚に絡ませ合う。
ベッドに横たわると、抱き合ってお互いの温度を確かめ合う。
そんな態勢でまた舌と舌が絡ませ合う。
抱き合いながらのディープキス。
御世ちゃんの大半が、俺とくっついている。
ああ、なんて幸せなんだ。
「好きだよ、御世ちゃん」
「私も好き。吾郎君♡」
こうして、俺たちは流れに身を任せて、一夜を共にしたのだった――。
☆
翌日。
昨晩のいちゃらぶは一旦水に流し、今日は『さてぃふぉちゃんねる』の今後の方針についての真面目な話し合いだ。
「私ね、さてぃふぉちゃんねるの今後、色々考えたんだ」
「うん」
「確かに今までは顔バレするのが怖かった。身バレした動画配信者がストーカー被害に悩まされている、なんて最近よく聞くし。でもそれは、今まで私が一人だったから。でも、今は違う。守ってくれる人がいる。ねえ、吾郎君。もし、何かあったら私を守ってくれる?」
その問いに、俺は力強く答える。
「勿論だよ! 俺は命を懸けて、御世ちゃんを守る! 御世ちゃんに集ってくる虫は全て取り払う!」
胸に手を当てて宣誓したが、そんな俺を見て御世ちゃんはクスッと笑った。
「ふふっ。相変わらず大げさだね~、吾郎君。でも、ありがとう。凄く嬉しいよ」
なんだか、付き合ったばかりの時の、空気感に戻った気がする。
そして、御世ちゃんは決意を胸に、口にした。
「だからさっ、私する。顔出しで動画配信」
それを聞いた俺は目を丸くした。
「本当にいいの? 無理していない?」
「大丈夫。実はね、このスタイルに限界感じていたんだ。勿論、吾郎君のおかげで、少しずつ再生数と登録者数が増えてきたけど、このペースでは満足できない自分がいて。私ってこう見えて欲深いから、もっともっと登録者数増やして有名になりたい。それこそ二十万、三十万、夢の百万人に。その為には、やっぱり顔出し無しが障壁になっている。世の百万人とかいっている動画配信者のほとんどが顔出しだしね。より高みに行くには、身を削るしかないって。自分なりに分析して気づいちゃったんだ。
だから、これは既定路線ってやつだから。吾郎君には引き続き、私の裏方をやってほしい。編集作業に企画立案、それに加えて私のボディーガードも。勿論、報酬は弾むよ。
だから、お願いします、二宮吾郎君」
「こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします、一ノ瀬御世ちゃん」
「よーし、そうと決まれば、自分を映す用のカメラ買わないと!」
「じゃあ一緒に、いいカメラ選ぼうか」
「そうしよっ!」
☆
そして、一緒に準備をして、ついにその日がやってきた。
『さてぃふぉちゃんねる』再開の日である。
約一ヵ月という間の投稿休止は、『さてぃふぉちゃんねる』にとっては異例中の異例だ。
SNSをやっていないせいで、ファンの反応は分からないが、寂しがっているに違いない。
ネット通販で購入したウェブカメラを設置して、パソコンを起動して、録画ソフトを開く。
席についてヘッドセットを装着すれば、御世ちゃんはさてぃふぉへと様変わり。約一ヵ月ぶりのさてぃふぉ復活の瞬間である。
「皆、元気かー。ちっす、おっす、よーっす、さてぃふぉだよー。今日も動画配信やっていくよー。
いやー、皆久しぶりー。本当に元気にしてた? 今日は皆に大切なお知らせだよ。
動画見てもらったら分かるように、この動画から私、さてぃふぉは顔出しで動画を投稿します。いやー、私ってこんな顔なんだよ。どう可愛い系? かっこいい系? いやー、皆に素顔を晒すのはなんだか恥ずかしいねー。でも、意外にスッキリしているかも。なんか、顔出ししないのって、皆に隠し事しているようで、ちょっとモヤモヤしていたから。
これから、新生さてぃふぉちゃんねるをどうぞよろしくー。
さあ、記念すべき顔出し一発目の企画はというと――」
次回で最終回です!!




