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第51話 ああ。それはお前の責任だな

「ななな……なんのことだ……ははは」


 動揺しすぎて、舌足らずが過ぎる。これではまるで、白状しているようなものではないか。


「お前……分かりやすいな。スパイとか絶対に向いてないから、なるんじゃねえぞ」

「くっ……」

「正直、あの動画だけではさてぃふぉが一ノ瀬さんだって判断つかなかったが、その反応を見て確信を持った」

「図ったのか……」


 策士すぎるだろ、この有能オタクめ!


 七山にバレてしまったのは仕方ないとはいえ、今はできるだけこのボヤを小規模に抑えておくことが重要だ。


「七山、俺はお前のことを信頼していて、親友だと思っている。だから、約束してほしい。このことは誰にも言わないでくれ。お願いします」


 俺は親友に頭を下げる。


「コーヒー一杯、奢ってくれよ」

「ありがとう。やっぱり持つべきものは、七山だ」

「よせやい。しかし、推しがこんなに近くに居たなんて、思ってもみなかったぜ。そう思うと、確かに一ノ瀬さんの声って、さてぃふぉに似てるな。声聞く機会ほぼ無かったから、気づかなかった」

「そうだよね」

「それで、お前がその反応をしたということは、当然お前はさてぃふぉが一ノ瀬さんだって知っていたわけだ」

「そう……なる」


 ごめん……御世ちゃん。


 七山に正体をバラしてはいけないという、約束を果たせなくて……。


「誰にも言わないと約束するから、俺に全て話してくれないか?」

「…………分かった」


 もう、後戻りはできない。


 ――俺は全てを七山に打ち明けた。


 最初に俺が御世ちゃんの正体を見破ったこと。それで、さてぃふぉちゃんねるの裏方をさせてもらって、彼女の家に行くようになり、付き合うことになり、公私ともにパートナーとなったこと。


 それらすべてを打ち明ける。

 七山は信頼できる人、とそう判断したからこそ、だ。

 自分勝手な判断であることは十分承知だ。

 この行動によって御世ちゃんを深く傷つけるかもしれない。


 でも、自分の無力さを知っているからこそ、このトラブルは俺一人で解決できないことは分かっているし、御世ちゃんのことを出来るだけ早く助けたい。

 だからこそ、第三者の助けが欲しい。


 そう思い、俺はSOSの意味を込めて七山に打ち明けた。


「……だから、俺のせいなんだ。俺のせいでの正体が」


「ああ。それはお前の責任だな」


 憔悴する俺に向かって、きっぱりと、七山は断言した。


 変に慰めるより、こうやってちゃんと言ってくれる方が俺にとってはありがたい。

 やっぱり七山は、俺にとってもったいないくらいの親友だ。


「ぶっちゃけ、友達として二宮に協力したい気持ちはあるが、これは部外者の俺には何もできない。この問題は責任をもって、お前が何とかするしかない。一ノ瀬さんを救えるのは、お前だけだ。行ってこい、二宮」

「ありがとう、七山!」


 イケメンすぎるセリフを七山から貰い、俺は一目散に愛すべき彼女、御世ちゃんのもとへ向かった。


「遅いよ、二宮君。お昼ごはんは食べたの?」


 教室に戻ると、御世ちゃんが俺の帰りを待っていてくれていたようだ。ちなみに、学校では他の人にバレたら面倒ということで、お互いのことを「一ノ瀬さん」「二宮君」と呼んでいる。


「食べてない」

「えっ、どうするの? もう、昼休み終わっちゃうよ?」

「あとで食べるから……それよりも、ちょっと大事な話が」

「なんのこと?」


 コテン、と首を傾げる御世ちゃん。


 その反応を見るに、まだ自分自身の身に何が起こっているかは知らないようだ。

 忙しくてコメント欄は見れていないって言っていたからな。


「ここじゃあ、アレだから。あとで」

「???」


 御世ちゃんは再度、首を傾げる。


 そうこうしていると、担当教師が教室にやってきて、午後の授業が始まった。


 正直、御世ちゃんとさてぃふぉちゃんねるのことで頭が一杯になり、講義の内容は全く頭に入らない。

 加え、病は気から、というように、体調もなんだか悪くなっている気がする。特に、お腹周りの調子がすこぶる悪くなる。


 放課後。

 腹痛が限界に達し、一目散にトイレに駆け込む。

 とりあえずお腹だけはスッキリさせ、小走りで御世ちゃんのもとへと向かった。


 ……が、教室に戻ると、よろしくない光景が広がっていた。

 御世ちゃんの席に、三人組の男子生徒が集まっていた。しかも、どの男も知らない人だ。どうやら、他クラスの男子生徒のようだ。


 他クラスの男子生徒が御世ちゃんに用があるとするならば……。

 それは、例の件でしかない。

 その推論を証明するように、男の一人の声が聞こえてきた。


「ねえ、きみがさてぃふぉなんでしょ」

「ガチでうちの学校に居たなんてな」

「ねえ、いつもの言ってよ。『神通り越して神社』って」

「ふはっ、本人の前で言うとか勇者じゃん」

「つーか、いつも聞いてるさてぃふぉの感じと随分違くね?」

「確かに、本当に本人か?」


 御世ちゃんはひどく困惑しているようで、静止画みたくフリーズしている。

 どうやら、想像以上に拡散されているらしい。

 明らかに事態は悪い方向に進んでいる。


「一ノ瀬さんっ‼」


 俺は今まで学校で出した声の中で一番の声量で、彼女を呼んだ。

 御世ちゃんは反射的に、俺の方を振り返ると、集まっている男子生徒を振り切って、ダッシュでこっちへ駆けていった。


 そうして、俺たちの逃避行は始まったのだ。

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