第48話 もう金輪際、お化け屋敷や心霊スポット系に行くのはやめます。
「次、どこ行こうか」
「う~ん、そうだな~」
俺と御世ちゃんは遊園地内にあるレストランのテラス席でランチを取りながら、マップを広げ、次に乗るアトラクションを吟味している。
俺と御世ちゃんは仲良くレストランのおすすめであるオムライスとパフェを注文した。
「お化け屋敷とか、吾郎君行けるの?」
「うん、全然問題ないよ」
「じゃあ、行ってみる?」
「御世ちゃんがいいなら、俺はどこでも大丈夫だよ」
「おー、優男ー。ここで二宮吾郎選手、彼氏にしたい男ランキング一位に躍り出ましたー」
「なんか知らないノリが始まった」
「というかオムライス美味しいね!」
「うん、フワトロのたまごと、ホクホクのライスがたまらないよ~」
「あとケチャップの甘さも良いよね。ねえ、気づいた、このオムライスのケチャップ、最初ハートマークだったんだよ」
「えっ、そうなの……? 全然気付かなかったんだけど……」
「店員さんの心遣いを無下にするとは、まったく罪な男よ。ここで二宮吾郎選手、彼氏にしたい男ランキング、三位に落ちました」
「それでも、まあまあ上だな」
「しっかり記録に残しておいてから、見て」
「うわっ、本当だ」
御世ちゃんはスマホを開き、俺に画面を見せてくる。そういえば、食べる前、パシャリしていたような気がする。
確かに写真には、ハートマークが描かれたオムライス写っている。
オムライスが美味そうすぎて、ガチで全く気付かなかったな。これが花より団子というやつなのか。
今になって、急に恥ずかしくなってきた。
俺たちがカップルであることを見透かされていたということか。
まあ、年の近い男女二人で遊園地に行くなんて高確率でカップルだからな。
「うんまっ! ねえねえ、吾郎君パフェも食べてみて! 美味しいよ!」
御世ちゃんはもうオムライスを平らげたみたいで、一足早くパフェを堪能している。
パフェはソフトクリームがたっぷり入った贅沢な逸品。見るからに美味しそうだ。
俺も御世ちゃんに倣いオムライスを平らげると、パフェを頂く。
「ほんとだ! これは美味しいな!」
たっぷりのソフトクリームが口いっぱいに広がる。一年分のクリームを摂取したみたいだ。
美味しさのあまり、俺たちはつい会話も忘れて、一心不乱にパフェを平らげていく。
「ふぅ~。食った食った。ごちそうさま」
パフェが入っていたカップを空にして、手を合わせる。
「あっ、吾郎君、こっちに来て」
御世ちゃんがなぜか手招きをしてくる。
俺はわけも分からないまま、彼女に近寄っていく。
「どうしたの、御世ちゃん」
すると、御世ちゃんは、舌を出し俺の頬を舐め回した。
「~~~~ッッ⁉⁉」
「クリームがほっぺにくっついていたよ。手が焼けるんだから、吾郎君は」
こうして俺たちは、恥ずかしくも、幸せなランチを過ごした。
☆
俺たちが入ったのは廃校をモチーフにしたお化け屋敷だ。
朽ち果てたような学校の外観はリアリティが物凄く、「何かが居る」という雰囲気があふれ出している。
薄暗い館内を手探りで練り歩いていく。
俺はわりと平気なタイプだから、平常心を保っているが、どうも隣で一緒に歩いている御世ちゃんの様子がおかしい。
御世ちゃんは絡みつくように、俺の右腕を両腕でがっしりとホールドしている。
ホールドしている両腕が小刻みに震えている。
「御世ちゃん……大丈夫……?」
「よゆー、よゆー。ひゅひゅひゅ~」
余裕のアピールとして口笛を吹いているつもりだが、その肝心の口笛に音色が出ていない。
といっても、お化け屋敷を提案したのは彼女だし、遊園地側に迷惑をかけたくないので、このままいくしかない。
学校をモチーフとしたお化け屋敷ということで、理科室のような場所へたどり着いた。
うめき声が時折入った、不気味なBGMが恐怖を演出し、ぴちょぴちょ、という水音が恐怖を助長させる。
「ひい……ひい……なんか声が聞こえる気がする……」
「大丈夫だから、御世ちゃん。ただの演出だから」
「う、うん……」
まだ、何の仕掛けも喰らっていなのに、意気消沈している御世ちゃん。
中に入るにつれ、御世ちゃんの密着度合が徐々にエスカレートしていき、彼女のデリケートな部分が思い切り押し付けられていく。
俺は別の意味で、心臓の動悸が止まらない。
進んでいくと、理科室ということで、いかにもな人体模型が置いてある。不思議とこちらを見ている気がするが……。
――すると、人体模型がかくかくと動き出し、「うあああああ」という呻き声を発した。
「ぎゃあああああああああああ‼‼」
人体模型の何倍もの叫び声を発した御世ちゃんは、真正面から全身で俺に抱き着いてきた。
俺の身体と御世ちゃんの身体が示し合わせたように、完全にリンクする。
人体模型に襲われたことで人体の神秘を味わった。……って言っている場合か。
結局、出口まではこんな感じで、各仕掛けに御世ちゃんは大騒ぎをして、その都度、俺に異常なまでにホールドした。
そのせいで、俺は別の意味で心臓の負担が半端ないことになってしまった。
「ぜえ……はあ……ぜえ、終わったと思った……おわこんどるぱさぁ……」
お化け屋敷を出た御世ちゃんは、顔面蒼白になっており、肩で息をしていた。
「もしかして……御世ちゃん、お化け系苦手?」
御世ちゃんは、力なくこくりと頷いた。
そういえば、さてぃふぉちゃんねるってホラー系の実況を全くやってないんだよなあ。ゲーム実況のホラゲといえば鉄板であるが、さてぃふぉは不思議なくらい手を付けないので、それがファンの間で謎だったのだが、こういうからくりがあったわけだ。
「どうして、お化け屋敷に行こうと……?」
「怖いのは苦手だけど……ちょっと興味はあったんだよ」
「あー、『怖いもの見たさ』ってやつか」
「そう。それに、吾郎君が一緒なら大丈夫かなって」
「なるほど。それでどうだった? 俺が居て」
「うん、吾郎君が居たからなんとかなったかな。吾郎君はどうだった?」
「俺は別の意味で心臓がバクバクでしたよ」
「そうなんだ。といっても無理なものは無理でした。もう金輪際、お化け屋敷や心霊スポット系に行くのはやめます。あと、ホラゲも絶対にやりません」
「うむ。潔い宣言だ」




