第47話 でも、大丈夫。御世ちゃんが一緒だから
「シートベルトをしっかり締めてくださいね。アクセルは右足、ブレーキは左足にあります。間違いないように気を付けてくださいね」
「「はい」」
「それではいってらっしゃーい」
係員の説明を受けて、いよいよ俺たちのゴーカートが始まろうとしている。
「《3、2、1、スタート》の掛け声で、同時にスタートだよ」
「もう、それは『クリオカート』なのよ」
「《3、2、1、スタート》!」
「あっ、ずるっ」
俺と御世ちゃんは同時にカートを走らせる。
実は、ゴーカートをするのは初めてで、当然運転免許を取れる年齢じゃないので大苦戦。
何度も壁にぶつかりながらも、何とか前方に進めていく。
一方その頃、御世ちゃんはというと、『クリオカート』仕込みの走法で、快調にカートを操縦し、俺の前方にいる。
「ちょっと、吾郎君~。これじゃあ、レースにならないよ~」
「『クリオカート』と違って逆転アイテムとか無いし、これは負けそうだ……」
なんとなく敗北を察していると、前方を走る御世ちゃんのカートの前には大きなカーブが待ち受けていた。
しかし、御世ちゃんは俺が居る後ろを向きながら走っていため、カーブに気づいておらず、カートが直線に向かっている。
「御世ちゃん! 危ない!」
「えっ――」
ゴンという衝撃音が響くと同時、御世ちゃんのカートが壁に激突した。
普通の道路と違って壁際が柔らかい素材で出来るため、怪我は無さそうだが、かなり衝撃的な映像だ。
「うわー、やっちゃったー」
御世ちゃんがカートの態勢を整えようと四苦八苦している中、ようやく俺のカートが追い付いた。
「『クリオカート』みたいな逆転要素だ。これは神を通り越して神社的展開!」
「ちょっとー、私の決め台詞取らないでよ~」
コースは最後の直線を迎えていた。
俺と御世ちゃんのカートは、見事に横並びで並走している。
アクセル全開。デッドヒートだ。
すると、御世ちゃんのカートが俺のカートを押し込むような形に向いていた。
見ると、御世ちゃんがハンドルを俺のカートの方に切っている。
「まさかの直接攻撃⁉」
「アツい展開きたよ! アッツアッツ、気分は真夏の太陽!」
上機嫌に自分の語録を惜しげもなく出す御世ちゃん。
生で語録を聞くと、さてぃふぉと一緒にゴーカートをやっている気分になる。その言葉に嘘はないのだが。
《クリオカート》仕込みの押し込みが功を奏し、御世ちゃんのカートが僅かに前に出て、ゴールした。
「やったー、私の勝ちー。『クリオカート』実況者としては負けられなかったよ」
「さすがだよ。完敗」
俺たちはゴーカートを後にして、次に乗るアトラクションを吟味していた。
やってきたのは絶叫マシンエリア。
ジェットコースターをはじめとする、思わず叫びそうになるヤバそうなアトラクションがたくさんある。
「吾郎君は絶叫系行ける?」
「正直、遊園地あんまり行ったことないから分からないけど、多少ならまあ。御世ちゃんは?」
「ガチで危険なやつ以外なら大丈夫だよー」
「じゃあ、比較的マシそうなジェットコースター行ってみる?」
「ジェットコースターが比較的マシなエリア、恐ろしすぎる……」
「確かに。まあ、無理しなくていいと思うよ。陽キャがよくやる『ビビってるんじゃないの~?』的なノリ、苦手だし」
「分かる、それ~。しかも、あれって同調圧力で嫌って言えない感じも辛いよね~」
「うんうん。陽キャじゃないから、そのノリに実際出くわしたことないかけどね」
「右に同じ」
「やっぱり、俺のことを理解してくれるのは御世ちゃんしかいないよ」
「ほんと⁉ 私も吾郎君しかいないよ~」
「ははっ」
「えへへ」
自然と手を握り合う俺と御世ちゃん。
急にいちゃらぶが発動する。
周りに家族連れが居るが、お構いなし。
以前までは、人目をはばからず手を繋ぐ世のカップルに、敵意をむき出したことがあったが、いざ当事者になるとその気持ちは痛いほど分かる。
俺はもう世のカップルの味方だ。
俺と御世ちゃんはジェットコースター乗り場に並ぶ。人気のアトラクションなのか、平日にも関わらず、いくらかの待ち時間があった。
順番が回り、いよいよジェットコースターに乗車する。
勿論、俺と御世ちゃんは隣同士。
スタッフの人が順番に乗客の安全バーを降ろす。
安全バーが降ろされ、身体に接着すると、妙な緊張感に襲われる。
「吾郎君、もしかして不安?」
「ちょっと……ね。でも、大丈夫。御世ちゃんが一緒だから」
確かに一人だと不安だったかもしれない。
でも、俺は御世ちゃんと繋がっている。
安全バーで身体が固定され、手こそ繋げないが、心は繋がっている。
それがどれほど心の支えになるだろうか。
これが彼女なんだ。一人でやらないといけないことが、全部二人で出来る。
「まあ、私が居るからね。よゆーよよゆー。よゆー&はっぴー!」
その謎の言葉。どうやら今の御世ちゃんは、さてぃふぉ人格も混じっているらしい。
そういえば、今日の御世ちゃんは遊園地に入ってから、テンションがさてぃふぉ寄りだよなあ。
遊園地というエンターテインメント空間が彼女をそうさせているかもしれない。
俺と一緒にいる時の優しい御世ちゃん、学校にいる時のクールな御世ちゃん、さてぃふぉ人格のテンションが高い御世ちゃん。
どの御世ちゃんも好きだ。
「いってらっしゃーい」
スタッフさんの掛け声で、ジェットコースターが動き出す。
開始早々、ジェットコースターは上に傾き、上昇気流を描く。
どうやら初っ端からクライマックスらしい。
ガタガタと小刻みに揺れながら、ジェットコースターはゆっくりとレールに沿って上昇する。
上昇し続けていたジェットコースターが停止したと同時に、今まで前方に見え続けていたレールが見えなくなった。
……いよいよ、来るんだ。
本気で後悔してきた俺は、ふと右隣を見る。
御世ちゃんの顔が俺の瞳に映った。
……大丈夫だ。
彼女の顔を見ると、俺の心は安心感で満たされた。
ガタンと、ジェットコースターが下に向いた瞬間、急加速。
猛スピードで下降し始めると、ぐるっと一回転する。
心臓が浮遊し、身体と頭が反転する。もうめちゃくちゃ状態。
「ひぎゃああああああ!」
高校生にもなって情けない声で絶叫してしまう。
隣に恋人がいるシチュエーションを考えたら、恥ずかしくて死にそうだ。
「神通り越して神社! エッグタルト大盛り! 草刈つくされてもはや森! エッチだあああああ!」
一方の御世ちゃんは、なぜかさてぃふぉ語録を連呼していた。
……最後のは語録なのか?
なぜか聞いたことのないさてぃふぉ語録も飛び出しながら、御世ちゃんはいつもの実況みたく自分の語録を言いまくっている。
その滑稽さに、乱れまくっていた心身が落ち着きを取り戻す。
そうこうしているうちに、あっという間に、ジェットコースターがゴールにたどり着いた。
「楽しかったね、吾郎君!」




