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第46話 ごめん! 俺もう、御世ちゃんしか見ないから!

「ねえねえ、まずは何乗る?」

「うーん、迷っちゃうな~」


 俺たちはまず、入り口にある園内マップを眺めていた。


 観覧車やジェットコースタ―、コーヒーカップ、メリーゴーランド、フリーフォール等、遊園地にありそうなアトラクションはほとんど揃っているようだ。


「コーヒーカップとかどう?」

「おっ、いいかも。最初の定番って感じ」

「ねっ! 行こっ!」


 御世ちゃん俺の手を握りながら、コーヒーカップがある場所へと向かう。

 自然と指と指が絡み合い、いわゆる恋人繋ぎの形になる。


「いやっほーー‼」

「待って待って! 回しすぎじゃない⁉」


 御世ちゃんはコーヒーカップのハンドルを、前のめりになりながら、思いっきり回している。


「いやっはー! 面白すぎる! 草刈つくされて森なんだが!」

「三半規管がおかしくなっちゃううう!」

「ひやっはあああああ!」


 【悲報】俺の彼女、一ノ瀬御世ちゃん、壊れてしまう……。

 遊園地のアトラクション一発目で、こんなテンションになるなんて聞いてないよ。


 終始、御世ちゃんがおかしなテンションで周りの子どもよりもコーヒーカップをぶん回したのであった。

 ……まあ、御世ちゃんが楽しいならいいか。


「いやー、めちゃくちゃ楽しかったね、吾郎君!」

「う……うん」


 楽しかったからいいものの、コーヒーカップの回転速度に身体が耐え切れず、軽いめまいに襲われていた。


「だ、大丈夫⁉ ……ごめん、調子に乗りすぎたみたい」

「いや、ちょっとフラフラするけど、大丈夫だよ」

「ほんと? 少し、休もうか」

「ううん。治ってきたよ。こうして、御世ちゃんが手を握ってくれているからかな?」

「ほんと? 嬉しい。えへへ」


 御世ちゃんは俺のことを心配してくれたのか、ぎゅっと手を握ってくれた。

 大切な彼女の身体に触れることにより、俺のめまいは不思議なくらい治っていった。

 ……これが、愛の力ってやつかな? クサい言葉は俺らしくないので、これ以上はやめておこう。


「次はどれ乗ろうか?」


 そう俺が提案すると、御世ちゃんはとある方向を指さした。

 そこはゴーカートのエリアだった。


「やっぱり、私と言ったらこれでしょー」

「さすがは『クリオカート』実況者。面構えが違う」

「『カート』という文字を見るだけで、私の血と肉は踊りだす」

「もう末期じゃん」

「レースしようよ~」

「さてぃふぉとカートレースが出来るだけでファンとしては幸せだけど、シンプルな疑問だけど、これって俺たちでも出来るの? 小さい子どもがやるイメージだけど」

「当たり前じゃん、何言っているの? ……出来るよね?」


 なんだか泣きそうな表情で俺を見る御世ちゃん。

 どれだけゴーカートやりたいんだよ。そういう純粋なところも可愛いけど。


「聞いてみよっか」

「うん」


 ゴーカート乗り場の前に、遊園地の制服と思しき派手なジャケットを着たお姉さんが居たので、話しかけてみることに。

 二人で聞こうと思ったが、なぜか御世ちゃんは俺の背中に隠れ小刻みに震ええている。


「……どしたの?」

「人見知り、発動!」

「そんなトラップカードみたいに言わないでよ」

「裏方なのだからお願いします」

「裏方ってこんなこともするの⁉」


 最近、ほとんど二人きりで過ごしていたから、すっかり失念していた。 

 御世ちゃんの社会不適合成分。

 俺も陰キャだが、知らない人に道を聞いたり、こういうケースでスタッフに尋ねたりすることはできるからな。陰キャにも度合があるらしい。


 今後、御世ちゃんと末永くお付き合いするとなれば、必然、こういうケースは俺が出張らないといけないわけか。

 俺も得意な方ではないから、こういうことは億劫ではあるが、御世ちゃんのために頑張らないとな。

 背中にいる御世ちゃんを引き連れて、意を決して遊園地のスタッフさんに話しかける。


「すみませ~ん」

「はいっ、何でしょう?」


 スタッフのお姉さんは、きらっきらの笑顔で対応する。

 おそらく、俺たちの三つ四つ上くらいなので、女子大生のアルバイトという感じだろうか。

 これが営業スマイルというやつか……。正直、破壊力ヤバい……。

 

「あのー、ゴーカートって俺たちでも出来ますか……?」

「はいっ、大人用のものもございますので、ご安心ください!」

「ありがとうございます」

「お楽しみくださいね~」


 効果音に、キラリ、と入りそうなくらいの溢れんばかりの笑顔で応対してくるお姉さん。

 オトナのお姉さんの色気。陰キャ高校生には、余りにも刺激的である。


 ……いかんいかん、何を考えているんだ俺は!

 御世ちゃんという最高の彼女がいながら、他の女性に現を抜かしているなんて。

 と、背中から、どす黒いオーラのようなもの感じた。


 振り返ると、御世ちゃんが見たことのないような、淀んだ顔でこちらを睨んでいた。


「むううう」

「み、御世ちゃん……」

「あのお姉さんに鼻の下伸ばしてたでしょ~」

「うぐっ。いや……まあ……」

「否定しないんだ。はーあ、今後が思いやられるよ」


 マズいな……。

 付き合いたてほやほやなのに、早くも倦怠期が訪れてしまいそう。

 ここは彼女の不安を取り除くためにも、男らしくしっかり言わないと。

 俺は決意を胸に、彼女の両肩を掴み宣言する。


「ごめん! 俺もう、御世ちゃんしか見ないから!」


 真剣な表情で宣言する俺の顔を見て、御世ちゃんは「ぷはっ」と噴き出した。


「分かったって。分かったよ。あー、面白いね、吾郎君は。なんだかからかいがいがあるよ」

「なんかめっちゃ恥ずかしいんだけど」

「仲直りもしたし、いざゴーカートへレッツゴー!」

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