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第44話 明日のデート、何も決めてないじゃん

 家に戻った俺と御世ちゃんは、夕ご飯の時間まで彼女の部屋で適当にだらだら過ごす。


 昨日、動画投稿を頑張ったおかげで、今日はだらだら過ごすことが出来る。

『未来の私たちを楽にさせる』か。

 昨日、御世ちゃんが言っていた言葉が強烈に突き刺さる。

 俺の彼女は本当に尊敬できる人である。


 窓を眺めると、いつの間にか日が落ちていた。

 部屋の壁時計を流し見ると、もうすぐ午後六時になろうとしている。 


「そろそろ作るね」

「うん。御世ちゃんのかつ丼楽しみだ」


 二人で階段を降り、リビングに向かった。


 御世ちゃんはいつものように、ゲームキャラクターが描かれたエプロンを着て、キッチンに向かう。

 レシピを見ているのか、ホルダーに設置したスマホを凝視しながら、俺が買ってきたとんかつと玉ねぎを一口サイズに切り、調味料を、計量スプーンを使いボウルに投入する。

 鍋をガスコンロに設置して、調味料と玉ねぎを投入。

 中火でじっくり煮て、玉ねぎに十分に火が通ったことを確認し、とんかつを鍋に投入。

 この工程まで来ると、ダイニングテーブルで待っている俺の鼻にも、油にまみれたとんかつの良い匂いが届く。

 ちなみに待っている俺はというと、さてぃと戯れていた。

 ありがたいことに、さてぃは俺になついてきてくれたようだ。

 どうやら、俺と御世ちゃんの仲をさてぃに認められたみたいだ。


「お待たせ~」


 そうこうしているうちに、料理が出来たようで、御世ちゃんがどんぶりを乗せたおぼんをダイニングテーブルに持ってきた。

 黄金色に輝くとんかつの下には、焼いたタマゴと玉ねぎが白米を隠すように敷かれていて、とんかつの上には上品に三つ葉が乗っている。

 とんかつ専門店で出されても何もおかしくない見た目である。

 加え、豆腐とわかめの味噌汁に、たくあんの漬物も添えられている。

 文句の付け所が無いラインアップである。


「めちゃくちゃ旨そう」

「ほんと? えへへ、嬉しいな」

「じゃあ、早速頂こうかな」

「どうぞー。いただきまーす」

「いただきます」


 口に入れた瞬間、サクサクの衣とジュワッとした肉のハーモニーが襲い掛かる。

 追い打ちをかけるように、とじたタマゴと玉ねぎの甘さ、白米のしっとりとした食感が波状攻撃をかける。

 これ! これ!

 この野菜、肉、白米、一度にあらゆる食材を堪能できる食の祭典こそが、かつ丼の醍醐味だ。

 昼から食べたかったこともあって、美味しさはひとしお。

 そんな大好物にありつけたのは、ひとえに俺の可愛い彼女、一ノ瀬御世ちゃんのおかげである。


「俺の彼女になってくれてありがとう、御世ちゃん」

「なに、急に……。ちょっと困るよ……」


 そう言ってはぐらかす御世ちゃんだが、顔を真っ赤にしている。


「ささっ、よっちゃんオレンジも飲んで」


 メニューがかつ丼だろうと、やはり当たり前のようにテーブルに置かれているよっちゃんオレンジを、御世ちゃんは俺のコップに注いでくれている。


「ヤバい……。俺もよっちゃんオレンジ無しで生きられなくなってきたかも……」

「だしょー? 吾郎君もよっちゃんオレンジ信者になろーよ。よちゃ神様~」

「よちゃ神様~」


 俺たちは1.5リットルペットボトルに手をすり合わせる。

 オレンジジュースを教祖とする宗教。どんな宗教よりもヤバそうである。


「ふー、食った食った」

「おー、完食だー。どう、美味しかった?」

「うん、めちゃくちゃ美味しかったよ!」

「ほんと⁉ 実は私、かつ丼初めて作ったんだよね」

「マジか! 才能の塊じゃん」

「そうかな? レパートリーに加えようかな」

「ぜひ加えて! 加えないともったいないよ」

「また、吾郎君の喜ぶ顔が見たいから、加えておこう」

「嬉しいなあ。よーし、夕ご飯食べ終わったし、次、何しようか?」

「あれれ? もしかして、吾郎君、例のブツ忘れてる?」

「ブツ? なんか物騒な言い方だな。なんかあったっけ?」


 御世ちゃんは一旦、ダイニングテーブルを離れると、キッチンの上に乗っかってるエコバックに手をかける。

 その動作で思い出した。

 そうだ……。そのエコバックの中には例のブツが……。


「おやつパーティーじゃああああ!」

「うおおおおおおおお!」


 さっきスーパーで買ってきた欲望塗れのおやつたちがエコバックから次々登場する。

 興奮した俺たちは、ライブで推しが出てきたような大盛り上がりを見せる。

 夕ご飯という食の祭典は、まだまだ終わりそうもない。


 最高の夕ご飯(+おやつ)を終えると、昨日と同じようにお風呂と着替え、歯磨きを済ませ、寝支度を整える。

 今日は私物を家から持ってきておいたので、御世ちゃん家から色々借りなくて済んだ。

 こう、毎日のように寝泊まりするのは幸せなことだが、流石に申し訳ない気持ちも出てくる。

 当たり前のように、昨日寝た和室には、二人分の布団が用意されていた。


「今日も一緒に寝るのね……」

「なに、嫌なの?」

「嫌なわけないよ! 嬉しいに決まってるじゃん!」

「うんうん、素直でよろしい。よしっ、今日はさっさと寝よう」

「うん。うん……? ちょっと待って、明日のデート、何も決めてないじゃん」

「あ……」


 デートの予定が前日の夜まで、何も決まっていなんて前代未聞である。


「今日決める予定だったけど、色々あってすっかり忘れてたね」

「だね。よーし、今決めちゃおう」

「うん。それで、どこにしよっか……」

「どうしよっか……」


 俺たちは言葉に詰まった。


「マズい……何も思い浮かばない……」

「私たち、初めて同士だし、デートもしたことないからね……」

「デートって普通、どこに行くものなんだ。教えてくれ、世のカップルたち」

「スマホで調べる?」

「しかないね」


 前日の夜にデートスポットを彼女と決めるなんて、突貫工事も良いところである。8月31日に夏休みの宿題に手を付け始める小学生もびっくりだろう。


 スマホを開いて【デートスポット 初デート】と検索。

 やけに恥ずかしい検索履歴が俺のスマホに刻まれてしまった。絶対に七山に見られてはない。


「どう、吾郎君? 良いところ出てきた?」

「映画館、動物園、海……色々あるなあ」

「ねぇ」


 うつ伏せの態勢で肩を並べて、デートスポットを一生懸命調べる。変な時間だが、これもこれで楽しいかもしれない。

 ピンとくる場所がないまま、調べ続けていると、「あ!」と御世ちゃんが声を上げた。


「ここ良くない?」


 御世ちゃんはスマホの画面を見せてくれる。

 表示されていたのは新しくできた遊園地だ。

 遊園地か。

 テーマパークのトップランナーであり、子どもの頃に行ったことあるから馴染みもある。

 楽しむ、ということに関してはこれほど適切な場所は無いかもしれない。


「うん、良いんじゃないかな。ちなみに、場所は……おっ、ここから電車使って一時間以内で行けそうだな」

「完璧じゃない⁉」

「だな! 明日、楽しみになってきた!」

「ね、じゃあお休み。最後にチュッ」

「~~~~ッッ⁉ …………幸せ」


 不意の頬へのキッスで、夢へと誘われた。


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