第43話 私は吾郎君の食べたいものを食べさせてあげたい
俺と御世ちゃんは、商業施設の一階にあるスーパーに訪れていた。
入り口に置いてあるカートを手に取り、カゴをカートに設置する。
今日の夕飯の材料を買い込むために、カートを引きながら、二人手をつなぎながらスーパーに陳列されている商品を眺めている。
もはやカップルを通り越して夫婦感すらある。
「ごめん。料理無知すぎて、初歩的な質問するけど、かつ丼の材料って何?」
「うーん、私もあんまり作ったことないから調べるね」
「御世ちゃん、俺のためにかつ丼作ってくれるのは嬉しいけど、無理はしなくていいよ」
「もーう、無理してないって! 料理担当は私っていう決まりなんだし、それに、彼氏に手料理振る舞えること自体が幸せだから」
「御世ちゃん……」
御世ちゃんの無尽蔵の優しさに、涙が溢れ出そうになる。こんな素晴らしい人を彼女にできて本当に幸せものだ。
俺がカートを引いている横で、御世ちゃんはスマホの画面を凝視している。
どうやら俺のために材料を調べてくれているみたいだ。
「そういえば、吾郎君はタマゴをとじるかつ丼とソースかつ丼どっちが良い?」
「どっちも好きなんだよなあ。簡単なほうで大丈夫だよ」
「そうやって気遣ってくれるのは吾郎君の優しさだと思うけど、私は吾郎君の食べたいものを食べさせてあげたいから、本当に自分が食べたいものを言って欲しい!」
「ありがとう。じゃあ、タマゴをとじるタイプのかつ丼で!」
「よーし、そうと決まれば、食材買い込むよ!」
「おう!」
最初に訪れたのは、肉コーナーだ。
ところ狭しと、美味しそうな肉がずらりと並んである。
改めてスーパーって本当に美味しそうに陳列されているよなあ。
「うひゃあ、これだけ肉あると何買えばいいか迷っちゃうね!」
「ちなみに、かつ丼で使う一般的な肉って何なの?」
「えーとね、豚ロースが一般的みたいだよ」
「じゃあ、豚肉コーナーだね」
「あっ、こお豚ロース、とんかつ用って書いてある」
「えっ、もう間違いないじゃん」
「よーし、けってーだ」
手に取ったのはパックに「とんかつ用」と書かれた3枚入りの豪快な豚ロース肉。美味しいこと間違いなしだ。
肉をカートに入れ、タマゴ、玉ねぎ、調味料と、二人で吟味しながら、かつ丼の材料をカートに入れている。食材を相談しあって決める。そんな親といつでもやっていそうなことでも、彼女とすると格別だ。
かつ丼の材料を買い揃えたはずだが、御世ちゃんはレジに向かおうとしない。
「まだ、買い忘れたものあるの?」
「せっかくだから、おやつとか買わない? 寝る前に食べまくろうよ!」
「なんという贅沢……! ぜひやろう!」
レジに並ぶ前に、俺たちはおやつコーナーに足を運ぶ。
チョコレート、クッキー、ポテトチップス、グミ、せんべい……こちらを誘惑してくるおやつが大量に並んでいる。
「吾郎君、好きなものを好きなだけ買っていいからね」
「本当にいいの?」
おやつなんて、誕生日や記念の日にしか買ってもらえなかった貧乏の俺にとっては、まさに夢にまで見たシチュエーションだ。ああ、桃源郷は本当にあったんだな。
コンソメ味のポテトチップスお徳用パック、魔法の粉が味付けされているおせんべい、チョコレートを挟んだウェハース等々、欲望のままに俺が好きなお菓子をカゴにぶち込んだ。
これでようやくレジに進むと思われたが、御世ちゃんは別の売り場に赴いた。
「まだ、なんか買うの?」
「ふっふっふ。吾郎君はもう忘れたのかな? 私と言えば、これでしょ」
「……はっ、そうか! よっちゃんオレンジ!」
「だいせーかい! よっちゃんオレンジのサブスクに加入しているから、月に一回箱が届くんだけど、ほら、吾郎君が家に来るようになってから消費量激しくなっちゃって、不足気味だったから」
「オレンジジュースのサブスクに入っている人、あんまり居ないのよ……」
呆れながらツッコむと、御世ちゃんは「えへっ」とはにかんだ。
そんな彼女の仕草にドキッとしつつ、俺は棚に陳列されているいつも飲んでいるよっちゃんオレンジ1.5リットルを一本取り出してカゴに入れる。
「せっかくだからもう一本入れよう」
と、遠慮なく御世ちゃんはもう一本追加でカゴに入れる。
なかなか持つのが大変になりそうだが、御世ちゃんのためなら一肌脱ごう。
ようやく、レジに並び清算を済ませた。思った以上の買い物になってしまったな。




