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第4話 ご飯食べないの?

「おっす、二宮!」


 一ノ瀬さんと会話途中、背後から騒がしい声が聞こえてきたと思ったら、両肩に思い切り手を乗せられた。

 陰キャなのに陽キャみたいな絡み方をするでおなじみ七山である。


「七山。おっす」


 七山は周囲の状況を見ている。


 一ノ瀬さんに向いている椅子、そして俺の方に体を向けている一ノ瀬さん。


(もしかしてお邪魔だったか……?)


 七山は俺に一ノ瀬さんに聞こえないように耳打ちしている。


 邪魔とかそういうのではないが、会話をぶった切ってしまい一ノ瀬さんに申し訳が立たない。

 恐る恐る一ノ瀬さんの方を見ると、彼女は「私はもういいので」と言わんばかりに、再び机に突っ伏して自分だけの世界に入った。


「大丈夫みたい」

「本当に会話していたんだなぁ」

「隣の席なんだから会話ぐらいするだろ」

「そりゃあそうか。いやー、でも成長したな二宮も。女子と会話するなんてな」

「お前は俺の何を知っているんだ。女子の一人や二人、会話くらいするだろ」

「はっ、まさかお前、非童貞か⁉ 俺たちの敵なのか⁉」

「悲しいが童貞だよ、バカ野郎」

「ナカーマ。良かったぁ。もし二宮に先立たれたら、俺立ち直れなかったよ」

「童貞卒業=死みたいに言うな!」

「……話変わるけど、昨日のさてぃふぉちゃんねる見た?」

「勿論見たよ。面白かったよな」

「……面白かったけどさぁ、ぶっちゃけ、最近のさてぃふぉネタ切れ感ない?」

「急になんてこと言うんだ、お前は! 反転アンチかよ!」

「ファンゆえにだよ。最近のさてぃふぉちゃんねるの動画見漁っていたけどさ、《クリカ》か《マジファイ》しかないんだよ」

「マジか。……確かに言われてみれば、その二つしか見ていないような」

「だろ。実は10万人達成から一向に伸びていないんだよ」

「いや、10万人行くだけで凄いから。と、登録者一桁の俺が申しております」

「二宮と一緒にするな。お前は別次元だから、逆の意味で」

「じゃあ、七山やってみろよ! 大変さ分かるから!」

「俺は見る専だからな。とまあ、色々言ってしまったが、俺はさてぃふぉには更なる高みへ行ってほしいだけなんだ。全肯定ファンより、ダメなものはダメというファンの方がありがたいって言うだろ」

「まあ、そうかもしれないけどさぁ」


「ゴホッガハッ! あー、聞こえない聞こえない」


 急に隣の席で寝ていたはずの一ノ瀬さんは咳込むと、立ち上がり独り言を呟きながらどこかへ行こうとしている。


「一ノ瀬さん、どうしたの⁉ もうすぐ、一限目始まっちゃうよ!」

「トイレ」


 それだけ言い残し、一ノ瀬さんは教室を出てしまった。


「七山! お前が余計なことを言うから、一ノ瀬さんの体調が悪くなっちゃったじゃないか!」

「えっ、俺のせい……? 今の会話と一ノ瀬さんにどんな関係があるんだよ」

「それは……分からないけど」

「つーかさ、一ノ瀬さんとはいつから会話する仲になったんだ?」

「今日から」

「いいなあ、羨ましいなぁ。実は一ノ瀬さん、陰キャ男子集団から地味に人気あるんだよ」

「いつも昼休みにデュエルやっている、あのグループ?」

「そうそう。結構、一ノ瀬さんの話題出るぜ」

「へー、あいつらデュエルだけやっているわけじゃないんだな」

「案外可愛いし、ゲーム好きで陰キャっぽいし」

「それ遠回しに陰キャの俺でもイケるんじゃね? みたいなことだろ。失礼な奴らだな」

「でも、いつも寝ているかゲームやっているかで話しかけられないんだよ。陰キャは漏れなく人見知りだからな」 

「まあ、話しかけづらいというのはあるね」

「お前がついにその壁を取っ払ったというわけか……」

「そんな、大げさな」

「いいなー。俺も話かけよ」

「えっ⁉」

「なんだよその反応! さてはお前、一ノ瀬さんのこと狙ってるな」

「狙ってないわ。一ノ瀬さんのことは――!」


「私がなに?」


「ひぎゃっ!」


 いつの間にか俺の背後にはトイレから帰ってきた一ノ瀬さんが立っていた。

 どこから聞いていたかによって、物凄く一ノ瀬さんに失礼なこと話していなかったか?

 急に冷や汗が出てくる。


「ど、どこから、聞いていたの?」

「最初から」

「最初から⁉」

「嘘。全然聞いていない」

「そっか。良かったー」


 一ノ瀬さんは何事も無かったかのように自分の席に戻っていった。


(一ノ瀬さん、あんな冗談言うんだな。性格も好みかも)


「お前ははよ、席戻れ」


 戯言を耳元で抜かす七山をとっとと席に戻した。


 ☆


 昼休み。


 いつも俺の席に来る七山だが、今日は最初から陰キャ集団にお呼ばれしているらしく、反対側の席でデュエルに勤しんでいる。

 相変わらず楽しそうだな。

 といっても俺はカードゲームをやらないから、あの輪の中に入れないけれど。そういえば、あのカードゲームのアプリ版が最近リリースされたんだよな。

 少し興味あるな。


 そして俺の席の周りにいる生徒も、どこかへ出ているようだ。

 ということで、俺の近くには現在、一ノ瀬さんしかいない。つまり二人きりである。

 隣の一ノ瀬さんはというと、やはり弁当の類は置いておらず、その代わりにストローが突き刺さったよっちゃんオレンジの紙パックが置いてある。


 一ノ瀬さんは机に突っ伏しているわけでもなく、ゲームを見ているわけでもなく、ぼっーと、ストローをちゅうちゅうと吸っている。


「一ノ瀬さん、ごはんは食べないの?」


 せっかくの機会なので、また話しかけてみることに。


「少食だから。昼は食べなくていい」

「そっか。でも身体に悪いから、昼食は摂った方がいいと思うよ」

「……そう」


 一ノ瀬さんは無表情に答えた。


 ……マズい。余計なこと言って怒らせちゃったかも。そうだよな、食事なんて人それぞれだもんな。

 一ノ瀬さんは鞄から携帯ゲームを取り出すと、ヘッドフォンをつけてゲームをやり始めた。もう質問を受け付けないと主張するように。


 ……はーあ、やらかしちゃったかもなあ。


 少々気落ちしながら、俺は仕方なく独りぼっちで昼食を摂ることに。


 昼休みも終わりに差し掛かる頃。


 何をするわけでもなくぼっーと過ごしていると、隣から激しいボタンを押す音が聞こえてくる。

 隣に目を向けると、いつも無感情な一ノ瀬さんの表情が熱を帯びているように色づいていた。

 いつもの一ノ瀬さんとは明らかに違っていた。

 そして思わず感情が昂ってしまったのか、独り言のような声が聞こえ始める。そして隣の席にいる影響で、はっきりと聞き取れてしまった。


「神展開きた……。神を通り越して神社じゃん……」


 そのワードは……。


 俺が散々動画内で聞いてきたさてぃふぉ語録。

 そしてそれを知っているだけはない。その発音や音圧、抑揚は間違いなく本人のそれだ。


 一ノ瀬さんはつい口走ったことに気づいたのか、ハッとヘッドフォンを外し、周囲を見渡す。そして一ノ瀬さんのことをつい見てしまっていた俺と目が合ってしまう。

 彼女は焦ったように、机に突っ伏して寝たふりを開始する。


 俺はここで確信した。一ノ瀬御世はさてぃふぉである――。


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