表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/55

第33話 私もここで寝るね

 一ノ瀬さんと共に、歯磨きする用の洗面所に向かう。

 バスルームの隣にある一階の洗面所だ。歯磨きをするときは、ここで行うらしい。  

 二階にも洗面所があるせいで、非常にややこしい。

 家も広ければいいってもんじゃないんだな。9割9分、広い方がいいけど。


「これ、来客用の歯ブラシだから使ってね」

「ありがとう」


 一ノ瀬さんが手渡したのは、いわゆる使い捨て歯ブラシである。

 ホテルに置いてあるような、袋詰めされているアレ。中にちっこい歯磨き粉もついている。

 なんかこういうのって、開けるのに抵抗あるよな。俺が貧乏性なだけだろうか。


 そんな余計なことを考えて、おずおずしていると、一ノ瀬さんは何の抵抗もなく袋を裂いて、歯ブラシ本体を手渡してきた。


「何してるの? はい、これ」

「うん。ありがとう……」


 こうして、二人肩を並んで歯磨きをする。

 鏡に映る俺と一ノ瀬さん。パジャマ姿で歯磨きする様子は、どこからどう見てもカップルにしか見えない。


 鏡に映った二人の姿を見ると、否が応でも想像してしまう。俺と一ノ瀬さんがカップルになった時を――。


 もし、そうなったら、どれだけ幸せなのだろうか……?


「一緒に歯磨き、楽しいね!」

「そ、そうだね……」

「どうしたの? あっ、もしかして、変な事考えたでしょ?」

「バッ! 違うって!」

「あー、その反応、図星だね。何考えていたの? ほら、お姉さんに言ってごらん」

「いや……流石に言えない……かな」

「もーう、何なの本当に……って、歯磨き粉垂れてる!」

「あっ」


 一ノ瀬さんの指摘により、歯磨き粉が襟元に垂れてしまっていることに気づく。

 最悪だ。人の歯磨き粉を、人のパジャマに垂らすなんて。

 完全に嫌われてしまったかもしれない。


「ほら、タオルで拭くからじっとしていて」

「どうも……」

「なんか様子おかしくない? まあ、あれだけ編集作業頑張ってくれたから仕方ないか」

「ありがと」


 こんな俺でも一ノ瀬さんは悪態をつかず、甲斐甲斐しくタオルで拭いてくれる。

 こんな子が彼女だったら、どれだけ幸せなのだろうか。

 

 ――この時俺は、一ノ瀬さんを女性として意識していることに気づいた。


 ☆


「ようやく、あとは寝るだけだね」

「もうすぐで深夜2時か……凄い時間だ」

「明日学校休みで助かったよ」

「だね。学校あったら、俺たち生きていけないよ」

「じゃあ寝る……?」

「ちょちょちょ、ちょっと待って! そういえば、俺ってどこに寝ればいいの?」


 一ノ瀬さんのベッドはダブルサイズくらいあり、普通に二人並んで眠ることは可能だが……。

 さすがに、付き合っていない高校生の男女二人が、同じベッドで寝るのは倫理的にあり得ない。

 

「あー、そっか! そのこと、すっかり忘れてたー!」


 右手を後頭部に置き、「てへっ」のポーズをする一ノ瀬さん。そんな可愛いポーズで誤魔化したってゆる……しましょう!

 こう見ると、やっぱり抜けているところあるよな、一ノ瀬さん。

 まあ、俺も人のこと言えないけど。

 そう考えると、俺たちって案外似たもの同士かも。


「それでどうすれば……」


 一ノ瀬さんは口に手を置き考える仕草をすると、何か思いついたように手をポンと鳴らした。


「そういえば、一階の部屋、和室の客間があって、そこに布団があったはず」

「マジかよ……」


 さすがは大豪邸。

 和室の客間なんて存在するのかよ……。

 もう、ホテルでも開けよ……。

 もうとっくに時効だけどさ、この豪勢さでやっぱり人に貸す傘が無いなんておかしいよなぁ……。


「案内してあげるよ」

「ありがとう」


 一ノ瀬さんの先導で、階段を降り、客間へと向かう。


 扉を開くと、そこは本当に和室だった。優美な印象を受ける綺麗な和室で、床の間には掛け軸が吊るされてあり、造花が花瓶に刺さっている。


「本当に凄いな一ノ瀬さんの家は。もう一種のテーマパークだよ」

「うーん。やっぱり普段使わない部屋だから、埃っぽいね。窓開けよう」


 障子になっている窓を開けると、一ノ瀬宅の中庭が広がっていた。

 ざー! と、強い音が聞こえ、湿っぽい空気が外から流れる。


「まだ降ってるんだ」

「天気予報通り、朝までやまないみたいだね」

「……じゃあ、布団しくね」


 押入れを開けると、確かに敷布団、掛布団、枕の一式セットが二人分揃っていた。

 余りの設備の良さに半ば呆れながら、一人分の一式セットを押入れから引き出し、畳にセットする。

 俺の家も普段ベッドだから、畳に布団はなんだか新鮮な気分になる。このスタイルが日本人って感じだよな。


「ん? 何しているの、一ノ瀬さん?」


 なぜか一ノ瀬さんが、もう一人分の布団も用意し始めた。


 誰の分を用意しているんだ……?

 はっ、まさかこの部屋に座敷童が住んでいるとか⁉


 勝手な妄想をして震え上がっていると、一ノ瀬さんが違う意味で震え上がることを言ってきた。


「私もここで寝るね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ