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第31話 ここまで話せる人、二宮君が初めてだよ

「ふー。やっぱり慣れないことやるの疲れるな~ あれ、どうしたの、二宮君?」


 俺は今回のさてぃふぉちゃんねるの動画収録に震えていた。


 見切り発車でやった、『視聴者の質問に答えてみた』だが、予想以上の成果になったと思う。

 さてぃふぉは持ち前のトーク力から質問返しが上手だし、特に最後の質問は、身バレが心配になるくらいの魂から答えていた感じが伝わり、鳥肌ものだった。


 しかし、一ノ瀬さんにこんな過去があったなんて。ほぼ全てのさてぃふぉちゃんねるを視聴してきたが、こんな話は聞いたこと無かったな。

 辛い幼少期を乗り越えて、自分らしく活動しているその生き様に感動すら覚えた。


「一ノ瀬さん……俺はきみに一生ついていくよ!」


 感極まって、ついとんでもない発言をしてしまった。これ半分プロポーズだろ。


「どうしたの、二宮君? 収録中、私に隠れて変ななお薬でも飲んだ?」

「飲んでないよ!」


 しかし、さてぃふぉが動画配信を始めるきっかけとなった動画配信者ってどんな人なんだろう?

 登録者10万人超のおばけチャンネルを生み出した、生みの親といっても過言ではない。俺はその人にノーベル動画賞でもあげたい。そんなノーベル賞ないけど。


「じゃあ、あとは編集作業よろしく。本日はたっぷり四本立て!」

「いくらなんでも気が遠すぎる……」


 げんなりしながらも、俺は編集作業をするために、一ノ瀬さんのゲーミングデスクに座った。


 ☆


 どれだけの時間が経っただろうか。


 部屋にかかっている壁時計で時刻を確認すると、日付が変わっていた。

 とりあえず、《マジテマオンライン》シリーズの三本の動画を終えた。


「ふー」


 リクライニング式のゲーミングチェアを目いっぱい倒し、背もたれに寄りかかり両腕を伸ばす。


「もしかして、終わったの? お疲れ様~」


 ベッドで寝そべりながら、スマホを弄っていた一ノ瀬さんが労いの言葉をかけてくれた。


「《マジテマオンライン》の三本は終わったよ。あと、質問返しの一本は残ってる」

「そーなんだ。ラストスパートだね」

「わざわざ待っていてくれてありがとね」

「当たり前じゃん! 裏方より先にリーダーが寝ちゃダメでしょ」

「優しすぎる……天使だ……」


 疲労が溜まっているせいか、思わず訳の分からないことを口走ってしまう。

 というよりも、理性というフィルターをかけず、本能のままに言葉を紡いでしまっているという言い方の方が正しいかもしれないが。


「ちょっと、変なこと言わないでよ、二宮君!」

「ごめん」

「でも、ちょっと嬉しかった。ありがとう」

「なんだか俺、どんどん素になっている気がする。一ノ瀬さんに相当心許しているんだと思う」

「私もそうかも。ここまで話せる人、二宮君が初めてだよ。といっても、さっき動画で話した通り、今まで友達居なかっただけなんだけど」

「一ノ瀬さん……」

「二宮君、いえい!」


 俺と一ノ瀬さんは絆の印として、ハイタッチを交わす。そういえば、以前もしたことあるよな。

 着実に一ノ瀬さんと友好が深まってきて、嬉しい限りだ。


 配信者と裏方という関係だけではなく、一ノ瀬御世という一人の女性ともっともっと深く知りたいと思った。


「よっし、気合入れて最後の編集作業に向かうぞー!」

「あっ、その前に、休憩しよう。ちょっと待ってて」


 一ノ瀬さんはいつものようにミニ冷蔵庫からよっちゃんオレンジ1.5リットルを持ってくる。

 ローテーブルに放置されていたグラスに、再びオレンジジュースがなみなみと注がれた。

 音頭は一ノ瀬さんがとってくれた。


「編集作業の成功を祈ってかんぱーい」

「かんぱーい」

「くわぁ! よちゃ神様~!」


 極楽浄土にでも行ったのか、と思うくらいご満悦のお嬢様。

 かくいう、俺も満足度は高く、オレンジジュースのエキスが五臓六腑に染み渡っている。

 深夜にオレンジジュースというのも、なかなか背徳感あるな。


「これなら、ラストスパート行けそう!」

「うむ、頑張って! 応援しているからね!」


 目いっぱい倒したゲーミングチェアを元の角度に戻し、作業に戻る。


 ……うーむ。どうしたものか。

 早速壁にぶち当たってしまう。


 いつものさてぃふぉちゃんねるはゲーム画面を垂れ流しているだけなので、カットと音のボリュームの編集だけで、特にこちらが考えることはない。

 が、今回はゲーム実況ではないのでゲーム画面がない。

 無編集でさてぃふぉのデスクトップを全世界に公開するわけには当然いかないので、こちらで背景を編集しなければならない。

 とりあえず、大将に聞いてみよう。


「一ノ瀬さん、背景どうした方がいいかな?」

「私のパソコン画面が晒されなければなんでもいいよ。裏方さんにお任せ!」

「ですよねえ。頑張ってみます」


 いろいろ考えた末、過去のさてぃふぉちゃんねるの実況映像を無音化させて、それを背景にし、質問内容のテキストを表示させる、という無難な方向で進めることにした。

 頑張ればもっと凝った編集も出来るとは思うが、こっちの負担もあるし、何よりシンプル編集がウリのさてぃふぉちゃんねるらしくない。

 あんまり使ったことのないテキストボックスをドロップし、その中に質問内容のテキストを打ち込む。そして、ボリュームの調整を加える。


 慣れない作業で時間がかかったが、なんとか形になった。

 こう見ると、動画編集ソフトって色々な事が出来るんだな。俺が知っているものなんて氷山の一角なわけで。


 そして約一時間、四苦八苦しながらも、ようやく四本全ての動画の編集作業が終わった。

 時刻は深夜一時を回っていた。


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