第30話 いやー、ちょっと話しすぎちゃったね
「視聴者の質問に答えてみた?」
一ノ瀬さんはピンと来なかったのか、コテンと首を傾げている。
「そう。よくあるじゃん。動画のコメント欄やSNSで質問を募集して、動画内で答えるやつ」
「あー、それかー。でも、募集なんてしてないし、SNSもやっていないし、現実的じゃないんじゃないかな?」
「ところがどっこい。俺、さてぃふぉちゃんねるの大ファンだからさ、よくコメント欄みるんだけど、質問的なのちょくちょく来てるよ」
「えっ、そうなの⁉」
「もしかして、さてぃふぉってあんまりコメント欄見ていないの?」
「昔はよく見ていたけど、最近は時間なくてね。あんまり見れていないかな」
「忙しいもんね」
「でも、再生数は結構見てるよ。収入に大きく関わるからね」
「なんて現金な人だ」
「とにかく、視聴者の質問は純粋に気になるかも」
「でしょ? だからやってみない?」
「私は良いけど。コメント欄に届いた質問ってどうやって見るの?」
「それは俺が過去のさてぃふぉちゃんねるのコメント欄漁って、見つけてくるから」
「それ、二宮君の負担にならない?」
「心配しないで! 俺はさてぃふぉちゃんねるの裏方なんだから! さてぃふぉちゃんねるのためならなんだってやる所存だよ!」
「ありがとう。やっぱり二宮君にさてぃふぉちゃんねるの裏方を頼んでよかったよ」
「そう言ってもらえるとやる気が出るよ」
俺はスマホを開いて、過去のさてぃふぉちゃんねるの動画を見て、片っ端からコメント欄を漁る。
そこから身バレに関するものを省きつつ、さてぃふぉが答えやすそうな質問をピックアップ。
それから数十分後。
「決めたよ!」
「うおっ、びっくりした! それでどんな感じの質問かな?」
「一応、さてぃふぉが答えやすそうなものをピックアップした感じだよ」
「どれどれ?」
「これは動画撮る前に予め見せておいた方がいいと思うから、見せておくね。この三つだよ。『独特なワードが特徴のさてぃふぉちゃんねるですが、気に入っているワードとかはありますか?』『動画配信で心掛けていることは何ですか?』『どうして、動画配信を始めたのですか?』」
質問内容をテキストにして、一ノ瀬さんのスマホに送る。
「うんうん。これなら、私でも答えられそうだよ。さすが、私のこと分かってるじゃん」
「そりゃあ、ずっと見てたから」
「私のこと大好きすぎるでしょ」
「うっ……そ、それは」
急なカウンターパンチが来るものだから、童貞特有のキモい、きょどりを見せてしまった。
「ふむふむ。この質問はこうで……この質問は……こうしよう」
一ノ瀬さんは真剣に質問内容を読み込んで、質問に対しての答えを考えている。こういう真面目なところは本当に好感が持てるなあ。
「よし、答え決めたよ。忘れないうちに、さっさと撮っちゃおう」
「うん。楽しみにしているよ」
一ノ瀬さんはヘッドセットを装着し、録画ボタンを手にかける。デスクトップにゲーム画面が無く、いつもとは違う新鮮なさてぃふぉの姿だ。
「皆、元気かー。ちっす、おっす、よーっす、さてぃふぉだよー。今日も動画配信やっていくよー。
今日はいつもと違ってゲームは無しだよ。何をやるかというと、『視聴者さんの質問にさてぃふぉが答えてみた』だよ! コメント欄に届いている、質問に答えていくよ。いやー、いつもと違う試みで緊張しちゃうなー。ちゃんとできるかなー? 弱気になるな、さてぃふぉ! 一人で出来るもん!
それでは一つ目、『独特なワードが特徴のさてぃふぉちゃんねるですが、気に入っているワードとかはありますか?』。ふむふむ。確かにさてぃふぉは独特なワードが特徴だよね! って自分で言うな! コホン、せっかくの真面目に答えないと。全部好きだけど、特に『神通り越して神社』かな。私的には結構深い言葉なんじゃないかなって思っているよ。この調子でどんどん答えるよ~。
二つ目、『動画配信で心掛けていることは何ですか?』。ひやー、なかなか深いところ聞くね~。とにかく、ありのままを見せることかな。うまくいったところだけを切り取って、皆に見せるのもいいと思うけど、私的には失敗した時も視聴者の皆に見せた方が楽しんでもらえるかなって思っているよ。
よーし、最後の質問だ。『どうして、動画配信を始めたのですか?』。ふーむ、それ聞いちゃう? まあ、聞いちゃうよね。動画投稿を始めたきっかけだよね。それはね……。私さ、両親が海外で仕事している関係で、幼い時から一人だったの。その影響で、昔から人付き合い苦手で、友達が出来なかった。誰とも関わらず、楽しくない日々を過ごしていた。
中学の時かな。何気なく見ていた一人の動画配信者の動画にハマり、それがきっかけで自分も動画配信をやってみたいと思うようになったんだ。そして『さてぃふぉちゃんねる』を開設して、動画配信が楽しくて、友達が居なくても、画面の奥に私と関わってくれる人が居たから、毎日が楽しくなったんだ。だから、私きっかけをくれた動画配信者のことは、ずっと感謝しているんだ。
いやー、ちょっと話しすぎちゃったね。好評だったらまた質問コーナーやっていきたいかも! それでは今日はこの辺で! さらば!」
さてぃふぉは満足したように、そっとヘッドセットを外し、録画ボタンを切ったのであった。




