第3話 実は俺もゲーム好きでさ
「皆、元気かー。ちっす、おっす、よーっす、さてぃふぉだよー。今日も動画配信やっていくよー。今日は《大激戦マジックファイターズ》やっていくよー」
その夜。
今日もさてぃふぉの動画が更新されていたので見ることに。
《大激戦マジックファイターズ》とは、子どもを中心に人気を集めている乱闘系のアクションゲームだ。
激しいアクションゲーム×さてぃふぉはファンの間では鉄板の組み合わせである。
「うわっ! ちょっと待って! お相手氏、めっちゃ上手いんだけど! エグすぎっ! エッグタルト大盛りじゃん! うわっと、やられた!」
今宵はランクマッチの実況動画であるが、相手がプロレベルということもあり、さてぃふぉは手も足も出ない。
実況動画というのは自分が勝つ動画のみを厳選していくことが多いが、さてぃふぉはこうやって負け試合でも構わず動画化するのが特徴だ。
それに関して賛否はあるが、さてぃふぉはゲームの上手さではなく、トークを売りにしているので、賛の声の方が多い。
上手い人のプレイを見たければ、プロゲーマーの配信動画を見ればいいからな。
むしろ、さてぃふぉが苦しむ姿を見たい、という変態紳士が湧いているのが現状。俺もその一人である。
「『しょうゆ』さん対戦ありがとうございました~。『しょうゆ』氏めっちゃ上手かったね! 師匠と呼ばせてください! 『しょうゆ』師匠! 私は弟子の『みそ』になります!」
更にさてぃふぉの良いところを挙げるとするならば、決して相手を蔑まない。
ゲーム実況をあげている人の多くは、興奮してついつい相手を罵ったり、暴言を吐いたりすることが散見されるが、さてぃふぉの場合はむしろ相手を褒め称える。
その人の良さが人気の秘訣の一つである。
《【速報】さてぃふぉちゃんねる、みそちゃんねるに改名》
《5;12 エッグタルト大盛り頂きました~》
《今日も生き甲斐、ありがとう》
《ボコボコにされた試合もあげる、ゲーム実況者の鑑》
↑《それな。最近の実況者の動画って勝ち試合しかあげないからイマイチ盛り上がらないんだよなあ》
《最近ネタ切れ感半端なくね?》
《さてぃふぉ、今日も可愛いよ》
↑《男だよー》
相変わらずコメント欄は大盛況。
まだアップロードしてから一時間も経っていないのに、この盛り上がりっぷりは人気の証左だろう。
動画を見終わり、さてぃふぉちゃんねるからブラウザバックして、改めて一ノ瀬さんの声をリフレインさせる。
……やっぱり少し似ているような。
テンションこそ全く違えど、その根幹の声質がどことなく似ている。一ノ瀬御世とさてぃふぉ。やっぱりこの二人は……。
それだけではない。よっちゃんオレンジを好んでいるところも一致している。
……待てよ。
そもそも『さてぃふぉ』の名前の由来って。
もしかして俺は核心に触れてしまったのかもしれない。
☆
翌朝。
真偽を確かめるべく、一ノ瀬さんに探りを入れることにした。
人見知りで話しかけるが躊躇われるが、それよりも彼女の正体を詳らかにしたいという好奇心が勝った。
「おはよう、一ノ瀬さん」
机に突っ伏していた一ノ瀬さんが、ゆっくりと重い腰を上げた。
「おはよう?」
一ノ瀬さんは声をかけられたのが意外だったのか、怪訝そうな表情で首をひねった。
……ヤバい。話しかけたのは良いけれど、二の句が継げない。
いきなり、「一ノ瀬さんはさてぃふぉですか?」なんて聞くのはマズいし。
なぜか話しかけた方が会話に困るという最悪の展開の中、俺は頭をフル回転して何とか話題を振り絞る。
「一ノ瀬さん、よくゲームやっているよね。実は俺もゲーム好きでさ。何やっているの?」
……ふー、何とか質問することが出来た。
「大激戦マジックファイターズ」
一ノ瀬さんは静かにそう呟いて、俺に携帯ゲーム機の画面を見せてきた。
……相変わらずいい声だなぁ。
それは偶然にも、昨日さてぃふぉちゃんねるで取り扱ったゲームと同じである。
やっぱり、彼女の正体は……。
が、余りにもテンションが違いすぎる。
さてぃふぉちゃんねるのあのハイテンションと正反対のローテンション。
あの動画を見る限り、さてぃふぉはコミュ力バケモノの陽キャだと思っていたけれど、一ノ瀬さんは正反対の陰キャである。
……やっぱり違うのかな。
頭が混乱していると、
「大激戦マジックファイターズ好き? あの……えっと……ごめんなさい、名前覚えていない」
今度は一ノ瀬さんが話しかけてくれた。
「あっ、二宮吾郎だよ。よろしく」
「二宮君は大激戦マジックファイターズ好き?」
「うん、好きかな。でも、あんまりやったことなくて、どちらかというと見る専かな。よく実況動画とか見ているよ」
「へー。私も実況動画好きだよ。誰の動画、見ているの?」
よしっ、いい質問きた。
ここで一個、ぶっこむか。
「さてぃふぉちゃんねるとか。顔出し無しの声だけの実況者なんだけど、トークが面白いんだよね」
……さて、どう反応するか。
俺は一ノ瀬さんの一挙手一投足に注目をよせる。
「そう」
だが、一ノ瀬さんは予想外にも無反応だった。
……あれ、やっぱり俺の思い違いなのだろうか。