第29話 もう無理……《マジテマオンライン》もうやめる……
意気揚々と三本目を撮り始めたさてぃふぉだったが、思わぬ試練が立ち塞がる。
「えっ……ちょっとお相手氏、うますぎん? なんか二十手先くらいまで読んでない? もしかして、お相手プロカードプレイヤー? いやー、これは勝ち目ないですね。完敗です! 負けを素直に認める私! 人間出来ているでしょ? 対戦ありがとうございました。気を取り直して、二戦目行くよ~!
あれ、ちょっと待って! 手札ひどすぎない? こういう時のためのマリガンだよね! うそ……もっと手札悪くなったんだけど……。ちょっと運悪すぎない……。いや、逆に明日運が良くなるという布石⁉ 今はそんなこと良いんだよ……今日のランク戦を勝ちたい……! あ……負けた。まあ、これは手札悪すぎたから次!
あれ……なんか調子出ないんだけど……。さてぃふぉの時代って既に終了しちゃった系? もう言葉でも出ない。当然のように負け……。もう逆に連敗記録目指そうかな。
……ここまでご視聴いただきありがとうございました。それではさらば」
まさかの破竹の三連敗を喫することに。
あれだけ息巻いていたさてぃふぉだったが、すっかり意気消沈している。
録画ボタンを切って、ヘッドセットを外して、いつものようにさてぃふぉ人格から一ノ瀬さん人格に戻っていく。
その一ノ瀬さんはというと、俺に視線を合わせるや否や、涙目になっていた。
「お疲れ様。どうした?」
「勝てない……もう無理……《マジテマオンライン》もうやめる……」
「ちょっとちょっと!」
なんという弱気発言。
つい十数分前に『私カードゲームの才能あるんじゃない』と言っていた人の発言とは到底思えない。
人はここまで変わってしまうのだろうか。
なぜかこんなところで人の恐ろしさに気づく。
「一ノ瀬さん、落ち着いて! 誰だって調子が悪い時はあるよ!」
「多分、調子の良し悪しの問題じゃない。普通にプレイングもデッキ構築もへたっぴなんだ」
「そんなことないって! ほら、最初の方はちゃんと勝てたじゃない!」
「……私、調子乗ってた。持ち前の財力を振りかざして、レアカードたくさんゲットしたら、最強になれるものだと思っていた。でも違うの。皆、この『マジテマオンライン』に命を懸けている。軽い気持ちで始めちゃダメなんだ、このゲームは。プレイヤーに失礼。だから私、やめるよ」
「いや、ゲームなんだから軽い気持ちで始めてもいいでしょう……」
まずい……。
思った以上に重症のようだ……。
そういえば、さてぃふぉって意気揚々と始めた新企画が、なぜか急にやらなくなって音信不通になることあるよな。
それは、この熱しやすく冷めやすい性格から来ているんだな。
完璧超人に見えたさてぃふぉの意外な弱点だ。
視聴者からも、「〇〇シリーズから逃げるな」みたいなコメント貰うことあったっけ。
「とにかく、メンタルやられたから、ひとまず『マジテマオンライン』はやらない」
そう言って、ぷいっとそっぽを向く一ノ瀬さん。
家庭環境も相まって傍若無人の限りを尽くすお嬢様にしか見えない。
しかし、このワガママお嬢様、どうしたものか……。
といっても、俺は親でも教師でもない、ただの裏方。説得して、『マジテマオンライン』をやらせる、というのは違うよな。
裏方らしく大将の考えに沿わなければならない。
「とりあえず、今日は休む?」
「……まだ、あと一本撮らないと」
この状態でも『動画四本撮り』の公約をまだ守ろうとするのか……。
何が何でも自分が言ったことは絶対にやり遂げる、という強い意志を感じる。
「どうする? 何の動画撮ろうか?」
「裏方さん、なんかいいアイデアある?」
「ううむ」
思わず唸ってしまう。
そりゃあ、俺が裏方として加わった新生さてぃふぉちゃんねるの、ぶっとい柱になる予定だった《マジテマオンライン》が、こんな形でへし折られてしまったからな。
途方にもくれるわけで。
とはいえ、最高の衣食住を提供してもらっている一ノ瀬さんに対して、俺の全身全霊をかけて力になりたい、という意思は揺るがない。
脳をフル回転して、アイデアを絞り出す。
とりあえず、先行きが不安定な長期企画ではなく、単発企画をやりたい。
今のさてぃふぉは、ゲームをやりすぎて疲れている感がある。
視聴者的にもそろそろさてぃふぉの新たな一面が見たいはず。それは、一視聴者である俺の率直な意見でもある。
ゲーム以外が好ましい。
ゲーム以外で、よく動画のネタである感じで、さてぃふぉがあまりやっていないようなもので、顔出ししなくてもできるような素晴らしい企画なんて……。
「あった」
「え?」
「あったよ! 一ノ瀬さん! さてぃふぉがあまりやっていなくて、他の動画配信者がよくやっている企画!」
「その企画。なぁになぁに?」
「名付けて『視聴者の質問に答えてみた』!」