第28話 やるよ! 名付けて『動画撮影合宿』!
「さてぃ。ご飯だよ~」
「みゃあ」
「……本当に猫って寿司食べるんだな」
夕食を摂り終わった俺たちは、部屋でくつろぎながら、一ノ瀬さんの飼い猫であるさてぃの食事を眺めている。
風呂に入って、飯食って、だらける。しかも隣には俺の推しである一ノ瀬さん。
なんて幸せな時間なんだ。一生続け、この時間!
てっきり今日は仕上がったと思ったのだが、なぜか一ノ瀬さんはゲーミングデスクに向かうと、PCの電源を入れ始めた。
「一ノ瀬さん⁉」
「二宮君。まさか、『あとは寝るだけ』なんて思っていないよね?」
「違うの?」
「腑抜けないで! 二宮君は登録者10万人超のさてぃふぉちゃんねるを背負っている自覚はある?」
「うぐっ」
「やるよ! 名付けて『動画撮影合宿』!」
「え……。え?」
「これを機に、動画のストックを増やしておくの。未来の私たちを楽にさせるためにね」
「なんてこった!」
意識が高すぎる……!
これが登録者10万人越えの配信者のバイタリティか。
『未来の私たちを楽にさせる』……か。
地味に名言だよな、この言葉。
正直、俺は明日の俺とかどうでもいいから、いかに今日の俺が楽になるかしか考えていない。
そのマインド見習わないと!
本当に一ノ瀬さんといると、何から何まで勉強になる。
まるで人生の先輩だ。
……はっ、もしかして一ノ瀬さんは強くてニューゲームしているとか⁉
なんて冗談はさておいて、大将が「動画を撮る」というなら、下っ端の俺は従うしかない。
「さて、大将、今回はどんな動画をおとりでい?」
「大将……? そしてなぜ江戸口調?」
「ごめん。つい脳内が漏れ出して」
「なんか、怖いこと言ってる。このモチベ高いうちに、『マジテマオンライン』溜め撮りしよう!」
「いいね! 何本溜め撮る?」
「四本行ってみよ~!」
「地獄の千本ノックならぬ地獄の四本ノックだ」
「もっと増やす?」
「いや、四本で大丈夫です」
言うが早いか、ヘッドセットを装着し、ゲーム画面を開く。一ノ瀬さんがさてぃふぉへと変貌を遂げる。
「皆、元気かー。ちっす、おっす、よーっす、さてぃふぉだよー。今日も動画配信やっていくよー。
さぁ、今日は昨日上限開封してゲットしたカードを使って、デッキを構築していくよ。構築したデッキで、ランキング戦にさてぃふぉ乱入! アツいよね、その展開⁉ 太陽神アポロなんとかくらいアツいよね!
よーし、早速デッキ組むよ~。私の相棒《―始祖幻獣― 覚醒天使キリノラディオス》のデッキを組むなら、どの子が良いんだろ? あ! この《天使猫キリノ》っていう猫ちゃん、キリノラディオスを呼び出せるじゃん! この子、可愛くてお気に入りだし、最高じゃん! これを当たり前のように4枚手に入っているので、上限の4枚入れて~…………
よっし! デッキ完成した~! 達成感半端ないね! もう、これで満足かも! 今回はここまで! 次回から早速対戦やっていくよ~! 以上、さてぃふぉでした! また見てね!」
さてぃふぉがヘッドセットを外すと、一ノ瀬さんが戻ってきた。
「ふー。一本目終わった~」
「お疲れさん。相変わらずのトーク量だ。デッキ構築であれだけ喋れる実況者なんてほとんどいないよ」
「どうも。しかし、これをあと3本もやるとなると、気が遠くなりそう」
「きみから言い始めた物語でしょうが」
「そうでした」
「普通にやめる? 俺も編集気が遠くなってきたし」
「ダメだよ。その意識の差が、登録者10万人行くか行かないかの違いだよ」
「ごもっともです」
一ノ瀬さんの意識の高さは見習わないといけないところである。
「じゃあ、気合入れて二本目行くよ~」
そう言って、一ノ瀬さんは元気よくゲーミングデスクに向かうのであった。
「皆、元気かー。ちっす、おっす、よーっす、さてぃふぉだよー。今日も動画配信やっていくよー。
いよいよ今日からランキング戦行くよ~。こっからさてぃふぉの『マジテマオンライン』最強の道が始まるんだね! よっし、記念すべき初戦、気合入れていくよ!
えっと、先行で~。魔力カードをチャージしてターンエンド……? あ! テイマー召喚するの忘れてるじゃん! えっ、直接攻撃される⁉ 終わっとる! おわこんどるぱさーじゃん!
……あー、負けちゃった~。よっし、切り替えて二戦目行くよ~。あ! マッチングした!
対戦よろしくお願いします! おっ、手札いい感じじゃん! 魔力カードをチャージして、
今回は忘れずにテイマーを召喚するよー! 見て、成長しているよね⁉ さてぃふぉはやれば
出来る子なんよ! よっし、見ててよ皆~、私の切り札《―始祖幻獣― 覚醒天使キリノラデ
ィオス》! 神展開きちゃああああ! 神社展開きちゃああああああ! 勝った! 勝った
よ! 二戦目にして初勝利! 軌道に乗ってきたんじゃない⁉
次回は一気に駆け上がっていくよー! 今回はここまで! さらばだ、皆!」
録画ボタンを切り、ヘッドセットを外すと、一ノ瀬さんは煌びやかな目で俺のことを見つめていた。
「見てた⁉ 勝ったよ!」
「勿論。おめでとう」
「待って! 私カードゲームの才能あるんじゃない」
「うん。あるかも」
俺に褒められて嬉しかったのか、一ノ瀬さんは子どもみたいにぴょんぴょん跳ね回っている。
正直、可愛すぎる……。
「よーし、三本目も行っちゃうよー!」