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第23話 変態の裏方さん

 視界に入ったものが余りにも刺激的過ぎて、フリーズしてしまった。


 湯上りで髪が濡れてぼさぼさになっている一ノ瀬さんの可愛らしい水色のブラとパンティが、くっきり網膜に刻み込まれる。

 この先、忘れようにも忘れられないだろう。走馬灯が流れたら、真っ先にこのシーンが多分思い浮かぶ。


「…………ッッッ⁉」


 ようやく事態の重大さに気づいたのか、一ノ瀬さんの顔がみるみる紅潮していく。


 こういう時、アニメでは物なんかを投げられ、追い出される……というのが定石だが、リアルでこういう状況に遭遇すると、何もされないらしい。

 ……否、固まって何もできないという表現が適当な気がする。


「す、すみませんでした!」


 誠心誠意謝罪をして、早々に立ち去ろうとすると、


「……見た?」

「……ほんと、すみません」

「わざとじゃないんだよね?」

「……はい」

「なら、しゃーなし」


 どうやら許されたらしい。

 一ノ瀬さんはやっぱり優しい。天使、女神という言葉が一番相応しい女性だろう。


「変態の裏方さん」


 扉を閉めると同時、そんな言葉が聞こえてきた。

 俺にとっては褒め言葉である。


 ……というか、トイレはどこ?


「はぁ~。スッキリした~」


 やっとのことでトイレを見つけた俺は、ようやく用を足すことに成功した。


 さっきから一ノ瀬さんの下着姿が脳裏にこびりついて離れない。こんな人間は変態と罵られても仕方がない。 


 必死で煩悩と格闘していると、不意にトイレのドアが開いた。

 そもそも、どうして俺は鍵をかけていなかったのかも理解不能だが、それよりも理解不能なことが起こった。


 なんと、用を足している最中に、一ノ瀬さんが入ってきたのだ。

 花柄の水色の可愛らしいパジャマを着ており、髪は整いきれておらずぼさぼさ。一ノ瀬さん(ラフの姿)である。


「あっ」

「えっ?」


 びっくりして、思わず振り返ってしまったのが運の尽きだった。

 そう。履くよりも先に、振り返ってしまったのだ。

 俺の立派なゾウさんを一ノ瀬さんに見せつける形になってしまった。


 お互い、本日二度目のフリーズ。


「このような不謹慎なものを見せてしまい、本当に申し訳ございません!」

「もしかしてわざとだったりしないよね? 場合によっては通報するかも」

「もちろん、わざとではありません! 警察にだけは通報しないでください!」

「分かった。私に免じて許してあげよう」

「ありがたき幸せ!」

「二宮君は、ラッキースケベのスタンプラリーでもしているのかな」


 優しい口調で、キレッキレのことを言い放つ一ノ瀬さん。

 こういうところで、さてぃふぉの片鱗を見せなくても。


 二度の不祥事があって、やや気まずくなってしまう俺と一ノ瀬さん。


「本当にごめんね」

「悪気がないのは分かっているから大丈夫だよ」

「やっぱり優しいね、一ノ瀬さん」

「あ……うう……そんなことは……ないけれど」


 恥ずかしそうに耳元の髪かき上げると、真っ赤になっている耳が現れる。


 あれ、もしかして意外にチョロインだったりする? 


 まあ、裏方とはいえ、クラスの男子を家に上げるどころか、泊まらせてあげるあたり、チョロインの波動は隠しきれていないのだが。


「お風呂でも入って、気分転換したら」

「えっ、風呂入らせてくれるの?」

「当たり前でしょ。それとも外の雨をシャワー代わりにでもするの?」

「ありがたく入らせていただきます!」

「洗濯物は洗濯カゴに入れて」

「了解。ありがとう……あっ」


 俺は致命的なことに今頃になって気づいてしまった。


「そういえば、着替え持ってないじゃん」

「あー。……そういえば、来客用に買っておいた男性用の着替えがあった気がするから、持ってくるね」

「なんというVIP待遇。感謝しかない」

「先、入ってね。二宮君がお風呂入っている時に、洗面所においておくから」

「何から何まで、本当にありがとう」


 来客用の着替えまで用意されているのに、来客用の傘がないってそんなことあるのか?

 なんて些細な疑問を持ちつつ、先ほど誤って入ってしまった洗面所に、合法で入る。

 豪奢な洗面台の鏡には、くっきりと自分の姿が見える。

 そういえば、自分の姿をはっきりと見る機会ってあまり無かったな。

 俺って、こんな顔しているんだっけか。パッとしない顔だ。登録者一桁が相応しい底辺配信者顔だ。

 こんな人間が、登録者10万人オーバーで性格も顔もSランクの完璧少女と釣り合うのだろうか。


 ……バカバカ。何を考えているんだ。俺はあくまでさてぃふぉちゃんねるの裏方。それ以上の関係はない。


 そんなことを考えつつ、服を脱ぎ、洗濯かごに入れる。

 クラスメイトの女子の家で全裸になる、という背徳感を覚えつつ、俺はバスルームへと歩を進めた。

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