第20話 動画の反応見た?
翌朝。
俺はいつもより、早く登校した。
昨日アップロードした動画の反応を見そびれていたので、授業前のこの時間を使って確認するためだ。
初めて俺が企画した動画。動画の反応のほとんどが俺にダイレクトに伝わってくる。
反省を踏まえ、昨日は念入りに動画のチェックを行った。
そのおかげか、動画のミスはこちらで把握できるものは無かった。……俺が気づかない細かいミスはあるかもだけれど。
そして、肝心の視聴者の反応はというと……。
《まさかの新企画きた!》
《さてぃふぉ好き×マジテマオンライン好きの俺、歓喜》
《もう新企画ないと思ったから、おじさん涙が出るほど嬉しいよ》
《ルールあんまり覚えていなさそうなの可愛い》
《さてぃふぉ×カードゲームは神企画の予感しかしない》
コメント欄は予想以上の盛り上がりを見せており、そのほとんどが好意的な意見だ。
その反応を見て、俺はそっと肩をなでおろす。
「はぁー、良かったー」
そんな安堵の気持ちから、つい心の声が外に漏れてしまった。
「何が良かったって?」
「ぐえっ!」
「なんだ、その一機減ったみたいな反応は」
「……なんだ。七山か」
「そうだぞ。お前の大好きな七山だぞ。ところで、何がそんな良かったんだ?」
「……あ、ああ。ほら、昨日のさてぃふぉちゃんねる。良かったなって」
本当のことである。とんでもない隠し事が含まれているが。
「確かに良かったよな! ついにさてぃふぉの時代が始まった感じ!」
「ずっと始まっているけどな」
「それな~」
親友に認められている感じがして、鼻高々である。
「あん? 何、にやけてるんだよ、二宮」
「えっ、にやけてた?」
「バチバチににやけてたぞ」
どうやら顔に出てしまったようだ。気を付けないと。
「もしかして、一ノ瀬さんと!」
「何言ってんだ!」
奇跡的なニアミスが起こり、俺の心臓はジェットコースターに乗った時のようにひゅんと浮いた。
七山は時折、こういう鋭いことを言うから侮れないんだよな。
「……私がどうかした?」
「「ひえっ⁉」」
振り返ると、いつの間にか背後霊の如く一ノ瀬さんが俺と七山の後ろに立っていた。
「「なんでもありません……」」
「……そう」
俺と七山が声を揃えると、一ノ瀬さんは素っ気ない態度で自分の席に着席し、いつもの如く机に突っ伏した。
学校ではやはりツンドラのように冷たい一ノ瀬さん。
昨日、料理を笑顔で振舞ってくれたあの子と本当に同一人物なのか疑いたくなってくる。
「とりあえず……俺はここでドロンさせていただくぜ」
一ノ瀬さんにビビってしまったのか、七山は逃げるように俺のもとから去っていった。
隣を流し見ると、一ノ瀬さんは虚ろな目で机に寝そべりながらスマホをいじっている。
と、俺のスマホにポンと通知が鳴った。
《一ノ瀬御世:動画の反応見た?》
《今さっきみたよ》
《一ノ瀬御世:めっちゃ良かったよね! 神動画ならぬ神社動画!》
《神社動画はもう神社の動画なのよ》
《一ノ瀬御世:今日もよろしく、裏方さん》
《裏方、頑張ります》
《一ノ瀬御世:あー、早くやりたいなー、『マジテマオンライン』》
《ハマってくれたようで、何より》
《一ノ瀬御世:早くやりたすぎて、禁断症状でそう》
《そこまで⁉》
《一ノ瀬御世:よっちゃんオレンジ、早く飲みたい》
《それは、あなたの平常運転です》
表ではあんなクールなのに、文面上ではめちゃくちゃ明るく話す。
何度も言うようだけれど、このギャップが彼女の素晴らしさなんだよなあ。
と、キモオタの如く、一ノ瀬さんについて心の中で熱く語っていると、予鈴が鳴った。
授業中も、考えることはさてぃふぉの動画のことばかり。
とりあえず、彼女のモチベーション的にも長期的にやってくれそうで良かった。これで大きな軸が一つできたので、ひとまずはネタ切れに困る心配はない。
あとは二の矢、三の矢を考えることが出来れば、さてぃふぉちゃんねるは盤石となる。
いいぞ、いいぞ……。
「何にやけているの、二宮君?」
「へっ?」
隣でゲームをしていたはずの一ノ瀬さんは、いつの間にか俺の方を見ていた。
また俺の顔がにやけてしまったらしい。
どうやら俺はすぐ感情が顔に出るタイプらしい。十六年間生きてきて、初めて気づいた。
「夜から強い雨が降るらしいから気をつけろよ」
さてぃふぉちゃんねるのことばかり考えていたら、あっという間に放課後になっていた。
担任の先生が生徒に一言言って、教室を去る。
学校の全工程がここで終了。
……よーし、今日も裏方頑張るぞ。




