第17話 めっちゃ楽しいー!
「どうしたの?」
「い……いやいやいや……何でもないよ!」
何でもない動揺の仕方じゃないんだよな。
とはいえ、余計な詮索をしても申し訳ないので、これ以上の探りはいれないようにする。めちゃくちゃ気にはなるけれど。
「よっし、じゃあ収録開始しようかな」
「うん。健闘を祈るよ」
一ノ瀬さんはヘッドセットをつけて、ゲーム画面を開き、録画ボタンに手をかける。
ついに俺が企画した動画が始まるんだ。
心境としては、ワクワク半分、不安半分といったところ。
「皆、元気かー。ちっす、おっす、よーっす、さてぃふぉだよー。今日も動画配信やっていくよー。今日はね、新しい企画やってみようと思って。画面にある通り、《マジテマオンライン》やっていくよー。皆は知っているかな? 最近、流行っているみたいだよね。私もなんとなく名前くらいは知っていたけど、これを機にデビューするよ!」
相変わらず完璧な導入だ。これを台本なしでやっているのだから、末恐ろしい。こういう人を動画界の申し子というのだろう。知らないけど。
「うわっ、凄い! グラフィック凄いんだけど! めっちゃかっこいいじゃん!」
処理が終わり、『マジテマオンライン』のゲーム画面に遷移する。
異世界風の衣装を纏ったキャラクターと、かっこいいモンスターが美麗な背景に映し出されている。
画面下部にテキストが表示され、さてぃふぉはテキストを一言一句読み上げる。こう、テキストをしっかり読み込むあたり、人気配信者としての矜持を感じる。
「ふむふむ。初心者だから丁寧に行くよ。『《マジックテイマーズ》の世界へようこそ。これからあなたは召喚士となって、この世界にいる多くのモンスターをテイムします。テイムしたモンスターはテイマーの仲間となり、テイマーのために戦います。
テイムしたモンスターはカード化して、テイマーは好きな時にカードを召喚することが出来ます。こうして集めたカードで他のテイマーと戦い、勝利を目指しましょう』
だって。えっ⁉ めちゃくちゃ面白そうじゃん! テイマー・さてぃふぉとして、色々なモンスターを仲間にしていくぞー!」
ゲーム画面はチュートリアルに移る。
「なになに? カードにはテイマーがテイム出来るモンスターである『テイマーズカード』、テイマー自身が攻撃する時必要な『魔法カード』、テイマーがテイマーズを召喚したり、魔法を使うときに必要な『魔力カード』の三種類があるんだー。なんだかこんがらがりそう。
ふむふむ。三種類のカードの見方はこんな感じかー。
次は、デッキ作りのルールかー。私あんまりカードゲームやらないから、こういうのちゃんと覚えておかないと。
テイマーズカード、魔法カード、魔力カードを自由に組み合わせて、デッキを組むことが出来ると。なるほど。枚数はちょうど40枚にしないといけないんだ。多くても少なくてもダメなんだって。ピッタリってことだね。同じカードは《魔力カード》を除き、4枚までしか入れることができない。なるほど、強いカード40枚入れればいいやってわけじゃないんだね。メモメモ。
実際にやってみましょう! だって、よっし、ついにさてぃふぉの『マジテマオンライン』デビュー戦だ! かっこ、チュートリアルだけど」
チュートリアルではあるものの、対戦画面に移る。チュートリアルなので、当然相手はコンピューターだ。
「ふむふむ。最初の手札は7枚なんだね。へー、お互いに一度だけ手札を好きな枚数山札に戻して、戻した枚数分引き直すことが出来るんだ。なるほど、いわゆる手札事故ってやつを防ぐんだね。
ジャンケンで先攻後攻決めるんだ! えー、私、ジャンケン苦手だから、ヤバいなー。最後に、《スリー、ツー、ワン。レッツ・マジックテイマーズ》って宣言して、ゲーム始めるんだー! えー、めっちゃいい言葉じゃん! 座右の銘にして、これから毎朝言おうかな。《スリー、ツー、ワン。レッツ・マジックテイマーズ》! 《スリー、ツー、ワン。レッツ・マジックテイマーズ》! なんだか楽しくなってきたよ」
ゲームを始める時の掛け声を復唱するさてぃふぉ、またの名を一ノ瀬御世。全く、どちらが子どもみたいなんだか。
実際にプレイしながらなんとかルールを覚えていく。
「ふむふむ。そんな感じか……、あっ、そういうことか! えっ、めっちゃ面白いじゃん! おっ、ルール分かってきた! 飲み込み速いよ、私!
……ふー、ようやくチュートリアル終わった。よっし、ルールを覚えたので、明日から早速、テイマーズをテイムしまくるぞー! 目指せ、最強テイマーへの道! 『マジテマオンライン』、これは長期企画になりそうだ! それじゃあ、また!」
こうしてチュートリアルでルールを覚えたところで、収録が終わった。
録画ボタンを切ったところを確認し、話しかける。
配信切り忘れて、うんたらかんたら、ということが無いように細心の注意を払う。
まあ、生配信ではないので、そこまで神経質にならなくてもいいかもだけれど。
「お疲れ、どうだった?」
「めっちゃ楽しいー! 教えてくれて、ありがとう二宮君!」
収録を終えた一ノ瀬さんは目を輝かせまくっている。
まるで、クリスマスにサンタクロースからプレゼントを貰った子どものようだ。
この感じだと、高いモチベーションを保ったまま、続けてくれそうだ。
勧めて良かった、『マジテマオンライン』。




