第16話 カードゲームデビューだね
一ノ瀬さん宅なう。
そういえば、これからほぼ毎日のように、一ノ瀬さんの家に通うことになるんだよな。これが通い妻ってやつ?(多分違う)。
現在、一ノ瀬さんの部屋でテーブルをはさんで向かい合わせに座っている。これが企画会議ってやつか! なんか動画配信者っぽくていい!
目の前に座っている一ノ瀬さんは相変わらず、よっちゃんオレンジをがぼがば飲んでいる。
これだけ毎日飲んでいる姿を目の当たりにすると、彼女の健康面が心配になってくる。
ちなみに俺は昨日散々よっちゃんオレンジを飲み、飽きてしまったので、一ノ瀬さんに断ってお茶が入った水筒を持参した。
「それで、企画は?」
「うん。企画というよりは一ノ瀬さんにやってもらいたいゲームがあるんだけど」
「なに?」
「一ノ瀬さんは、『マジック・テイマーズ』って知ってる?」
「うん。最近人気のカードゲームだよね。私、カードゲームあんまりやらないからよく分からないけれど」
「それで最近アプリ版がリリースされたこと知っているかな?」
「あー、なんかちょくちょく配信者がやっているの見かけるかも」
「そーなんだよ」
「二宮君はやっているの?」
「まだやっていないんだよね。興味はあるけどね」
「それを私に動画でやってもらいたいってことかな?」
「話が早いね。その通りだよ。PC版もあるみたいだから、デスクトップを録画するだけ大丈夫そう」
「あんまりカードゲームやったことないから自信ないけど、そんなこと言っている場合じゃないしやってみるよ。カードゲームデビューだね」
「さてぃふぉのカードゲーム、人気になる気しかしない」
「そうと決まれば、早速ダウンロードするね」
一ノ瀬さんはPCデスクに座ると、PCを起動する。
「タイトルなんだっけ?」
「『マジテマオンライン』だったかな」
「おっけ」
一ノ瀬さんは検索窓に『マジテマオンライン』といれ、検索を開始。
ブラウザに検索結果が表示される。一番上にある公式サイトと思しきページに飛ぶ。
「このダウンロード開始ってボタン押せばいいのかな?」
「そうみたいだね」
「無料なの助かる」
「一ノ瀬さんの財力なら、有料だろうが問題ないでしょ」
「当たり前じゃん。私を誰だと思っているの?」
「ここまで清々しく言われると、逆に嫌味が無くなるんだね」
「課金あるんだよね?」
「うん」
「よしっ。課金しまくろう」
「財力をふんだんに使う気だ、この人」
そんな会話をしながら、待つこと十分。
デスクトップに『ダウンロード完了しました』の通知。
「よっし、プレイしてみよう」
「待って。動画撮らなくていいの?」
「そっか。なんか普通に友達とゲームやる感覚になっちゃった」
「おーい、大丈夫かー、動画配信者」
「そうだった。私は大人気動画配信者、さてぃふぉ。あらゆるゲームを動画に収めねば!」
一ノ瀬さんと動画関係なく一緒にゲームをやるのも楽しそう、と、そんなことを考えてしまった。
「二宮君。私、カードゲームに関しては無知だから、聞くけど、カードゲームの実況動画って、開封や対戦動画を撮る感じであってる?」
「そうだね。主にこの二つだと思う。俺もそこまで熱心に見ているわけではないから、確信は持てないけど」
「だったら動画外で予め、すぐに開封&対戦が出来るところまで進めた方がよくないかな?」
「普通の配信者はそれでもいいけど、さてぃふぉちゃんねるの場合、さてぃふぉ自体を見に来る人が多いと思うんだ。俺も主にその一人だし。だからカットせず、全部流した方が視聴者は喜んでもらえるんじゃないかな」
「確かに、それはそうかも! 凄いね、二宮君! すっかり裏方さんだ!」
「急な褒められ、慣れてないから照れるな。でも、ありがとう」
「せっかくだから、二宮君もこれを機に始めようよ」
「確かに。せっかくだから、始めて見ようかな。俺はスマホ版でダウンロードするよ」
スマホのアプリストアを開き、『マジテマオンライン』をダウンロード。
「これでお互い『マジテマ』デビューだね」
「うん。まあこれから『マジテマ』のゲーム実況をする一ノ瀬さんと、裏で適当にやるだけの俺とはえらい違いだけど」
「二宮君も実況動画あげてみれば? 自分のチャンネルもあるんでしょ?」
「あるけど、もう諦めたし、それにさてぃふぉちゃんねるの裏方で忙しいから物理的に動画を撮る時間はとれないかな」
「なんだかごめん。二宮君の時間奪っちゃって」
「いやいや。推しの裏方が出来るなんて、これ以上の幸せないから!」
「シ、シアワセ……⁉」
動揺しているのか、一ノ瀬さんの声が裏がっている。中性的でクールな一ノ瀬さんの声も好きだが、裏返って声が高くなった一ノ瀬さんも可愛らしくて素敵だ。
……というか、今俺わりと凄い発言してしまったような。
これ暗に一ノ瀬さんと一緒に来て幸せって言っているようなものなのでは?
そう考えると、急に恥ずかしくなる。
「変な事言ってごめん、一ノ瀬さん! 忘れてくれ!」
「うん、分かった。ところで、二宮君のチャンネルってなんて名前なの?」
「一応チャンネル名は『56チャンネル』だよ」
「えっ……」
その時、なぜか一ノ瀬さんは固まった。




