第15話 企画、見つかったかも
「いやー、見たか二宮。さてぃふぉの昨日の動画」
「……ああ」
翌朝。
登校早々、七山が既に俺の席に陣取り、昨日の動画のことを聞いてきた。
さてぃふぉちゃんねるの昨日の動画と言えば、俺が裏方として関わった動画である。何か言われるのではないかと、嫌な汗をかき始める。
「毎度おなじみの《クリオカート》だったが、面白かったな!」
「そっか、良かった~」
七山の言葉を受け、胸をなでおろした俺は、ついそんなことを口走ってしまった。
「良かった、って何だよ」
「あ……いや! 間違えた!」
「お前、疲れているんじゃないか? 休んだ方がいいぞ」
「おお」
七山は自分の席に戻っていく。
どうやら、何とか誤魔化せたようだ。
隠し事が増え、なんだか肩身が狭く感じてしまう。
「……おはよう」
「おはよう、一ノ瀬さん」
そうこうしていると、一ノ瀬さんが登校してくる。
一ノ瀬さん特に俺と話すことなく、机に突っ伏して睡眠を開始。
昨日の出来事が嘘のように、クールな一ノ瀬さんに逆戻りしている。
……とにかく、企画考えないとな。
そう。今日から俺が企画を考えないといけない。編集だけの昨日とは違い、責任感は桁違いだ。
プレッシャーで早くも圧し潰されてしまいそうだ。
そういえば……。
俺が編集した昨日の動画、一ノ瀬さんと確認したっきり見てないな。コメント欄の反応はどうなっているのだろうか?
気になった俺は、もうすぐ授業が始まるというにも関わらず、急いでスマホを開き動画をチェックする。
《さてぃふぉのクリオカートは神!》
《最後で爆発するさてぃふぉの平常運転》
《早めに見れて幸せ》
《メンタル落ちていましたが、この動画を見て救われました》
コメント欄はいつもの如く大盛況。良かった。編集には誰もツッコんでいないようだ。
……と、思ったのだが。
《あれ、微妙に編集変わった?》
↑《確かに。なんか違うかも》
それに気づく猛者がコメント欄に現れていた。
……マジか。編集がいると気づかれるのは、さてぃふぉにとっても不利益だろう。よりさてぃふぉっぽい編集を心掛けないと。
そんなことを思って考えていたら、ポンとスマホに通知音が鳴った。
《一ノ瀬御世:コメント欄は上々だね》
《一部、編集のことにツッコまれていたけどね》
隣にいるのに、メッセージ上で会話することになるとは。
まあ、事情が事情なだけに、仕方ないのだが。
《一ノ瀬御世:で、今日の企画は決まったの?》
《いや、まだ》
《一ノ瀬御世:今日も投稿しないとなんだけど、間に合いそう?》
《頑張ります》
はーあ、キャパオーバ―でおかしくなってしまいそうだ。
つい、ぼーっとして、スマホを眺めていると、
「おい、二宮。授業始まっているぞ! スマホしまえ!」
「す、すみません……!」
俺はこの先、大人気チャンネル、さてぃふぉちゃんねるの裏方をやっていけるのだろうか……。
☆
「二宮、今日どうしたんだよ? らしくないじゃねえか」
休み時間。
俺のことを心配してくれた七山が話しかけてきた。
結構強引なところはあるけれど、七山はやはりいい奴だ。
相談したいのは山々だが、この件は七山には口が裂けても言えない。
……俺が話してしまいそうな波動を感じたのか、一ノ瀬さんがいつの間にか睨みを利かせている。
「なんでもないって」
「なあ、一ノ瀬さん、お前を睨んでないか? もしかして痴情のもつれとか⁉」
「そんなわけあるか!」
全力で否定する。が、一ノ瀬さん絡みであることは間違いない。
「おーい、七山! デュエルしようぜ!」
「おけ! 今行くぜ! じゃあな、二宮!」
反対側の席にいるオタクグループが、七山をカードゲームに誘っていた
。
……いいなあ。呑気にカードゲームやって。
こちとら今日までにさてぃふぉちゃんねるの企画を考えないといけないんだぞ。
ん? 待てよ、カードゲーム?
そういえば、最近、彼らがやっているカードゲームのアプリ版がリリースされて流行っているのだっけか。
七山がこの場から居なくなったことにより、今ここには俺と一ノ瀬さんしかいない。
ということで、俺は一ノ瀬さんに直接話しかけることにした。
「一ノ瀬さん、話いいかな?」
「うん」
「企画、見つかったかも」
「ほんと?」




