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第13話 あれ、もしかして腹減っちゃった系?

「ひやー、いつ飲んでも美味いや! センペル美味いや! あれ、何だ今の言葉」

「さてぃふぉ語録誕生の瞬間に立ち会えるとは、ファン冥利に尽きる!」


 貴重な体験をすると、よっちゃんオレンジの美味さ二倍増し。


「そうこうしているうちに、19時!」

「あら、最近30分経つの早いな。これが年か」

「我々16とかですよねー?」

「よし、じゃあ再生するよー。準備は良いかい、裏方ー」

「別にいいけど裏方って呼ばれるのなんかシュールだな」

「行くぞー、再生! ポチっとな」

「当たり前だけど、制作側も一般視聴者と同じ視聴方法なんだな」


 スマホを横画面に傾け、最新版さてぃふぉちゃんねるの動画を再生する。

 ついに俺が編集した動画が、ネットの海にばらまかれるのか。そう考えると、ゾクゾクするな。

 普段通りのさてぃふぉちゃんねるの《クリオカート》実況動画になっているだろうか。


『ヤバいよ~、このままじゃ負けちゃう! 一発逆転のアイテム来い!』


 さっき収録時に聞いた時と同じものが流れる。こうやって動画になっているのか、と少し感動。


 注目の編集は……いかに。

 うん。違和感ないな。多分……。

 違和感なく流れる中、急に変なカットが流れる。


「うん、何だ今の?」

「ちょっと、動画チェック班しっかり~」

「動画チェック班……居ません」

「なにー! 人手不足の職場だなあ」

「万年一人だった人が良く言うよ~」

「今まで一人でやっていたと考えるとゾッとするよ。来てくれて、ありがとね、二宮君」


 顔をグイっと近づけて、一ノ瀬さんはそんなことを言ってくれた。


 多分、僕の顔は自然と赤らんでしまっている。

 そうこうしていると、動画は終わった。


 基本的にいつものさてぃふぉちゃんねると変わらない出来栄えになったと思うけど、編集カットのミスだけが気がかりである。


「編集ミス、コメント欄で叩かれたりしないかな~」

「叩かれるのも華だからね~」

 

 何という器の大きさ。

 これが登録者十万人超えの貫禄というやつか。


「どうだった、今日一日やってみて? できそ? 私の裏方」

「色々迷惑かけるかもだけど、一ノ瀬さんが良ければ今後ともよろしくお願いいたします」

「やったぜ! 裏方ゲットだぜ!」

「人をモンスター扱いしないで」


 そうこうしていると、「ぐぅ」と情けない腹の虫が鳴った。


「あれ、もしかして腹減っちゃった系?」

「腹減っちゃった系だな~」

「よし、じゃあ料理作ってあげる」

「本当にいいのかい?」

「だって、そういう契約でしょ?」

「あざっす!」

「急に体育会系の部活みたいな返事だ。よし、じゃあリビングにいっくよ~」

 

 そう言って、一ノ瀬さんはとてとてと階段を下っていく。

 学校で見せるクールな姿とは正反対の活発な様子にギャップ萌えしそうになる。


 バカみたいにでかいリビングで、一ノ瀬さんはゲームキャラクターが描かれたエプロンを着て、オープンキッチンに立っている。

 その様子をじっと見守る俺。これもう夫婦じゃん。


 いつの間にか、一ノ瀬さん家の猫ちゃん、さてぃが主の周りをうろうろしている。

 一ノ瀬さんは、じゃがいもとにんじんを器用に切っている。

 カレーだろうか? 肉じゃがだろうか? はたまたポテサラだろうか?


「一ノ瀬さん、本日のメニューは?」

「ズバリ、肉じゃがだー」

「おお、そっちの方ね」

「そっちって?」

「肉じゃがかカレーかポテサラの二択かなって」

「おー、名探偵」

「何か手伝った方がいい?」

「ううん。そこで待っていて大丈夫だよ。だって、これは裏方さんの報酬だからね」

「助かる」


 じゃがいも、人参に加え、こま切れ肉、玉ねぎを切り、ボウルに入れ、熱したフライパンに投入する。

 大きなダイニングテーブルに一人ポツンと座る俺の方にも、香ばしい匂いが届く。


 一ノ瀬さんは慣れた手つきで、フライパンで炒めている。こうしてみると、本当に料理が得意らしい。

 つまりさてぃふぉは料理が得意ということである。全く生活感が掴めないさてぃふぉの意外な一面である。


「せっかくだから味噌汁も用意するよー」

「マジか! 至れり尽くせりだ!」


 貧乏なうちは、食卓に味噌汁が並ぶことなんてほぼない。

 一ノ瀬さんは冷蔵庫から豆腐とネギを取り出し、棚から乾燥わかめを取り出した。


「二宮君は豆腐とわかめの味噌汁好きかな?」

「一番美味いやつ!」

「ふふっ。まるで子どもみたいだね、二宮君」

「なんだか恥ずかしくなってきた……」

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