記録005:異象の序章
地上──
リリア、アイリス、ガルムは、異変を感じ取っていた。
「これは……魔力の異常?」
リリアが眉をひそめながら呟く。
「異常すぎるわ。全く予想外のことが起きている」
アイリスも顔をしかめる。
「何か大きな力が動いているのは間違いない。……でも、こんなに広範囲だと、どう対処すれば……」
ガルムがあたりを見渡しながら言った。
「行くよ、リリア。ガルム。私たちでなんとかしなきゃ。」
アイリスが前に出ると、リリアがうなずく。
「うん。まずは避難と情報収集ですね。状況がわかれば対策が立てられるはず」
「みんな、気をつけろよ!」
ガルムが力強く言いながら、三人はそれぞれ異変が発生している場所へと駆け出す。
その頃、空にひび割れるような光の筋が走り、天候が急激に変化し始める。モンスターたちは暴走し、封印されていた遺跡が目を覚ます──それらはすべて、神界での出来事が引き起こした結果だ。
リリアたちは、それが一時的なものではなく、すでに神界と地上の間に亀裂が入った証拠だと直感する。彼女たちがこの事態を食い止めなければ、地上の世界が崩壊する可能性もあるのだ。
リリアは風を切って駆けながら、魔力の流れを感じ取る。
「どこかに、源がある……この異変の“核”が……!」
アイリスは遺跡の近くで暴走する魔物たちを氷の魔法で足止めしながら叫ぶ。
「リリア、ガルム! 封印が解けかけてる場所があるわ!そこが一番危険!」
「了解、すぐ向かう!」
リリアが応えると、ガルムが大剣を構えながら突撃する。
「派手にやるぞ、暴れてる奴らは片っ端から叩き潰す!」
激しい戦闘の末、三人は再び合流し、封印の中心地――浮遊遺跡の断層にたどり着く。そこでは、光と闇のエネルギーが渦を巻き、まるで“次元の裂け目”のような空間が開いていた。
リリアが呟く。
「これはもう……地上だけの問題じゃない。神の領域が、地界に干渉している」
すると、渦の中心に、黒く揺らめく影が現れる。
「……来たか」
重々しい声が響き、影の中から現れたのは、かつてさとるに力を授けた“影神”だった。
「この地の裂け目、我が力で一時的に封じよう。……だが、これはほんの応急処置にすぎぬ。いずれ、本格的な崩壊が訪れる」
リリアが影神に向かって叫ぶ。
「さとる……彼とレオンが原因なの?」
影神は静かに頷く。
「原因の一端ではある。だが、それは避けられぬ流れ。これは、お前たち人の子の試練でもある」
その言葉とともに、影神が手をかざすと、渦のような裂け目が静かに閉じ始めた。
地上の空は少しずつ元の色を取り戻していく。
「……助けてくれるの?」
アイリスが問う。
影神は答えず、ただ一言、残した。
「彼らに会いたければ、歩みを止めるな──いずれ、道は交わる」
そして影神は、再び闇の中に消えていった。
三人は互いに顔を見合わせ、静かに頷く。
世界の均衡は、まだ保たれている。だが、それがいつ崩れるかは誰にもわからない。
それでも、希望を捨てず進むしかない──。