記録000:プロローグ
思い返せば、あれが始まりだった。
あのとき、扉は静かに、けれど確かに開いた。
地上にいる誰もが知るはずのない、高次の領域――神界。
空に浮かぶ島々が、夜空の星のように散らばっていた。
島一つひとつが、それぞれ異なる時間軸と理を持ち、独立した小さな世界を形成していた。
俺たちが立ち入ったのは、まさに時空の狭間。
絶えず移ろいゆく幻想の海に浮かぶ、神々の棲み処。
それは同時に、光と影の神がかつて争い、そして消えていった“戦の痕跡”でもあった。
本来なら、そこに人間が立つことなどありえなかった。
けれど――
俺たちは、立ってしまった。
光神を倒したことが引き金だった。
それは勝利ではなかった。扉を開けた、ただの“始まり”だったのだ。
さとると俺は、神界に入るための“特殊な条件”を満たしていた。
他の仲間たちは、その力を持っていなかった……
いや、持たせなかったのかもしれない。
彼らには、それぞれ別の使命が与えられた。
分断された旅路、交わらぬ足跡。
それでも、俺は信じていた。どこかでまた、道が繋がることを。
けれど、あのときの選択が、俺たちの未来にどんな影を落とすのか――
このときの俺には、知る由もなかった。
それからの旅路は、記憶の海に沈んでいく断片のように、今でも夢に現れる。
あの島で見た光景。
あのとき交わした約束。
あの戦いで落とした、何か大切なもの。
今、すべてが崩れ落ちようとしている。
だからこそ、もう一度、語らなければならない。
あのとき、俺たちは何を見て、何を選び、何を失ったのかを――