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トライアングルレッスン:U2

作者: 各務 史

「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」内の企画

”トライアングルレッスン:U2(ユニフォーム・パートⅡ)” へ参加投稿した一編です

たくみ:赤紙が来た

突然、たくみがゆいこの家に来てそう告げた。

ゆいこは息をのむ。

たくみ:行く前にだから、ゆいこを嫁さんに欲しい。絶対に帰ってくる。約束する。

だからゆいこ、俺のとこに来て欲しい。

ゆいこは肯いた。

ゆいこ:私を奥さんにしてください。そして、絶対に戻ってきて。

慌ただしく祝言を挙げて、慌ただしく旅立ったたくみ。

別れを惜しむ隙すら、涙を流すいとますらもなかった。


たくみから届いた手紙には陸軍に配属されて飛行訓練を受け始めたことが

したためてあった。とても事務的な内容なのは、検閲のことを考えると致し方なかった。


暫くして、便りが途絶えると、別の報せがもたらされた。

曰く、たくみが英霊になったと。おめでとうございますと。

ゆいこもたくみの母親も泣くことは許されなかった。二人は歯を食いしばった。


その報せと前後して、今度はひろしがゆいこに会いに来た。

ひろし:ゆいこ、俺にも招集が掛かった。たくみにゆいこのこと頼まれてたけど

俺も行かなきゃならなくなった。ごめん。

ゆいこ:謝らないでよ、ひろし。ひろしは全然悪くない。

英霊なんかにならないでいいよ。帰ってきてね。

ひろしは肯いてからちょっと躊躇うと

ひろし:ゆいこ、もし、俺が無事帰って来られたら…

いや、なんでもない。行ってきます。

と敬礼して帰って行った。


鳴り響く空襲警報、誰もが必死に防空壕を目指す。が

ゆいこ:お義母さん!何やってるんですか!逃げますよ!

家の中、仏壇の前でへたり込むたくみの母親を無理やり引っ張った。

義母:ゆいこちゃん、私はもう… たくみもいなくなってしまったし

ゆいこ:あれはきっと誤報です。たくみは絶対戻ると言いました。

約束は守る人でしょ?帰ってきます。そのときにお義母さんがいなくてどうします!

支え合うようにして家を出たそのとき、目の前で焼夷弾が爆発した。


ゆいこの言ったとおり、たくみの戦死は誤報だった。

たくみの乗るはずの飛行機は最後まで離陸できなかったのだ。

戦争が終わって、ゆいこの元に帰ってきた。筈だった。

でも、たくみを迎えてくれるはずの家も家族も炎が焼き尽くしてしまったという。

幼馴染みのひろしの乗った船も沈められてしまったと聞いた。


目の前にあるのは、風が渡る廃墟だけだった。



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― 新着の感想 ―
さみしい、ではすまない喪失感ですね。 三人それぞれの気持ちと、生きた軌跡に胸が痛くなりました。 平和を祈ります。 心が揺れ動くストーリーを読ませていただきありがとうございました!
戦時中の軍服ストーリー。 悲恋すぎていたたまれないです。 来世では、仲良くトライアングルレッスンしていてほしいですね。
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