この事故物件、オススメはベランダです!
東武線竹ノ塚駅徒歩1分の場所に、事故物件専門仲介不動産会社『ワープルーム』はある。
「聞いて下さいよ! また社長から課題出されて……もう、あの鬼っ!」
俺は情けない声を出しながら、タブレット画面を先輩同僚に向けた。
「ああ、それ出る物件の方でしょ?」
この会社の取り扱い物件は大きく分けて二種類。
①幽霊が出るルームシェア専用の物件
②幽霊が出ない代わりに異世界へ通じる物件
そう、なかなかヤバい会社なのだ。
俺も元々はお客として訪れたはずなのに、なぜか社長に気に入られ、契約書にサインしてしまい、社員にさせられてしまった……不本意!
「『お前だったらこの物件をお客様になんて言ってオススメする?』って言われたんですけど……どう思います?」
じっと画面の間取り図と睨めっこ。
1LDKの築浅マンションで相場の10分の1の家賃。
そしてベランダには、はっきりと✖️マーク。
ここで、過去、何かがあったのだ。怖っ!
彼女はタブレット画面を眺め、そっと指し示す。
「いいですか? 不動産営業は相手のニーズにいかにお応えするか、そして言葉でお客様の心をくすぐるんです」
「ふむふむ」
事故物件を求め訪れるお客様も三パターンに分けられる。
社長の言葉を借りるなら①貧乏人②メンヘラ③修行クソ野郎のどれか。
「①貧乏な方には家賃の安さを②メンヘラな方には『ルームシェアが出来て寂しくありませんよ』と明るくお伝えします」
ベランダにいる存在をルームシェアと呼んでいいのだろうかとも思ったが、今ツッコミを入れるのはとりあえずやめた。
「じゃあ③修行野郎には?」
俺の言葉に彼女はタブレットをスワイプしながらニコリと微笑む。
「ズバリ、お客様の闘争本能を煽るんです!」
「煽る?」
「この物件のオススメポイントは、ベランダの彼女! 怒らせると長い黒髪を伸ばし、こちらを締め殺しにきます。その波状攻撃を避けるのは至難の業……今のところ全戦全勝、無敗の猛者。戦うには申し分ないお相手! 鍛錬の場には好条件! さぁ、いかがでしょう? って感じかな?」
社長が入力した掲載情報の注釈文を元に、彼女なりの営業トーク例を教えてくれる。
だが、脳内にリアルに想像してしまった俺は悲鳴をあげた!
「いやーー! そんな物件怖すぎーー!」
「あらあら、これくらい言えなきゃ、また社長のお小言くらいますよ?」
そう言って、彼女は笑った。
だが後日、この物件に借り手が付いたと聞き、俺はただただ目をひん剥いたのだった。