どのお客さんも癖が強い……
雪女。
白い着物を着た女性であり、冷気や寒気を操る……。
うん、世間一般の雪女のイメージって大体こうよね。
でもね? このお客さんとして来た雪女さんはちょっとだけ違ってて……。
「あの、熱いんですけれど、もう少し店内の温度下げられますか?」
極度の暑がりなのである。
「あんたに合わせると人間の昇が凍死するからな……ちょい待ち」
ちなみに室温は22度くらい。
これで着物だけなのに暑いって言うんだぜ?
ちなみに一度だけ、玉藻さんに唆されてどれくらいまで温度が下がれば暑がらないかを検証したら、マイナス五度まで下がったところで俺がギブアップした。
もちろんそんなに冷やす冷房とかがあるわけも無く、雪女さんの能力と玉藻さんの力でそうしたわけだけども。
いやぁ、あの日は毛布にくるまって寝たね。
「ほら、これでどないや?」
「多少はマシになりました」
で、玉藻さんが何やらしたことで、雪女さんは温度については何も言わなくなる。
前に説明受けた時は、
「雪女の周りの空気を出来るだけ冷やして空間ごと固定化しとるだけや」
とか言ってたっけ。
まるで意味が分からないけど、つまりはそういう事なのだろう。
「ほんで? 前回来た時は美味しいデザートやったよな?」
「はい。お出しされた氷菓、とても美味しかったです」
ちなみに前回出した氷菓とは、かき氷に練乳やカットフルーツを混ぜた、いわゆる『白熊アイス』って奴。
長崎だかの発祥で、フルーツがカラフルだし、美味しいしって事で提供してみた。
絶賛してたんだけど、結構短いスパンで来られますのね?
「ほんで? 今日はどないしたん?」
「実は……」
やや俯きながら。
そう話し始めた雪女さんの話は……中々に下らなかった。
「いつも遊んでおりますご友人と話していましたら、すぅぷがとても美味しいお店の話題になりまして」
「へぇ、スープが」
どこだろう? あと、どんなスープなんだろう?
普通に気になる。
「なんでも、新しい出汁を使ったすぅぷとかで、ご飯にもよく合うとか」
ん? ちょっと俺の思うスープとかけ離れたような言葉が……。
「具材にはゼンマイや豆腐が使われているとの事で……」
あ、これ味噌汁の話だ。
ミソスープね、なるほどなるほど。
いやスープて。
普通に汁物でいいじゃないのよ。
「気になったんやろ? そっちに行けば良かったんやない?」
「もちろん行きました。ですが……」
「ですが……?」
「――私に嫌がらせでもしているかのように、熱すぎるすぅぷをお出しされて……」
あー……納得。
俺らが普通に生活しているこの温度ですら、暑すぎると文句を言う雪女さんだもん。
同じように、俺らが普通に飲める温度の味噌汁でも、雪女さんには熱すぎるか。
「それで? でも冷めるまで待ったんやろ?」
「はい。……でも、言うほど美味しいとは思えなくて……」
そりゃあなぁ。
味噌汁は温かい状態で飲むものでしょ。
冷や汁とかなら分かるけど、味噌汁はそもそも冷めた状態で飲むことを考慮された味付けしてないし。
「なので、こちらで美味しいすぅぷを頂きたくて」
「なるほどな。待たずに飲めて、その上で美味しいスープやな?」
「はい!」
極度の暑がり、猫舌? な雪女さんが待たずにすぐ飲めるスープねぇ。
まぁ、そんなオーダーされちゃあ、作る料理なんて一つだと思うけどな。
一応冷蔵庫を確認っと。
……まぁ、そうですわよね。
それ作れって事ですよね。
「じゃあ、作っちゃうので少々お待ちください」
「はい!」
さて、と。
それじゃあまずはじゃがいもの皮むきから。
「ちなみに玉藻さんも飲みますよね?」
「当たり前やろ」
二人前か。
……五個もあれば十分かな。
じゃがいもの皮を剥いたらお次は玉ねぎ。
皮剥いて、頭と髭を切り落として、と。
「またいいバターを買って来てますね」
「折角やし、ええもん揃えたかってん」
なんて言いつつ、熱したフライパンにバターを惜しみなく投入。
バターが溶けたらじゃがいもと玉ねぎを投下し、まずは玉ねぎがしんなりするまで炒めまして。
炒めたら、水を入れ、ジャガイモが柔らかくなるまで煮込んでいく。
しっかり固形コンソメを投入し、あとはじっくりと火を通しまして。
箸を刺し、抵抗なく刺さるくらいにまで柔らかくなったら一度火を止め。
ここで登場するのはミキサー!
こいつでさっきまで煮ていたじゃがいもたちを撹拌撹拌。
「わ、わ! 凄い! なんですかその絡繰り!!」
絡繰りじゃなくて電化製品ですね……。
というか絡繰りって言葉が発せられたの、初めて聞いたかもしれない。
「後はこれをフライパンに戻して、牛乳を入れて味を調えたら完成ですね」
そう言いつつ中身をフライパンに戻し、牛乳を適量。
弱火で加熱し、塩コショウで味を調えて。
沸騰寸前で火を消して、後はキンキンに冷やして完成!
だーけーどー?
普段なら粗熱を取って、容器に移してから冷蔵庫にぶち込みますが?
目の前には雪女さんが居りますし?
「雪女さん、申し訳ありませんけど、これを凍る寸前まで冷やして貰っても?」
「昇、お客さん使うんは感心せんなぁ?」
「あ、大丈夫です。すぐですので」
玉藻さんから鋭い視線で見られるけど、雪女さんは俺のお願いを快諾してくれたし。
そのまま、フライパンに向けてふーふーしたら……凍った。
マジで秒で。カキンッて、ゲームみたいな効果音も鳴って。
「あ」
「せやから言うたやろ……」
冷やし過ぎて温度を下げるどころか凍らせてしまった雪女さんは、ヤッベみたいな顔してるけど。
ため息をついた玉藻さんがその凍ったスープを一瞬で溶かし。
「次からは、真っ先にうちを頼りや?」
怖い笑顔で俺にそう言うと、乗り出した体をゆっくりと椅子に戻す。
……うん、次からは玉藻さんを頼ります。
「気を取り直して、容器に移したら完成ですね」
移す容器は、大きいワイングラス見たいなカップをチョイス。
二等分に注いだら、上からパセリを散らして完成。
「というわけでビシソワーズです」
雪女さんと玉藻さん、それぞれに提供し、反応を見る。
果たしてどんな反応だろうか。