なんだかなぁ……
その食べ方が漢らしいかという問題は置いといて。
それでも激辛麻婆豆腐を白米と共に少しづつ消化していく火車さん。
ちなみに俺はその食べかたはしないかな。
だって麻婆豆腐とは別に、白米の熱さも口の中に受け入れるんだよ?
俺なら我慢してヒーヒー言いながら麻婆豆腐だけ食うわ。
そもそも激辛麻婆豆腐を食べようとは思わんけど。
「か、辛い! が、辛みの奥に旨味と白米の甘さがある!!」
何だかんだ味わえてるのは凄いと思うよ。
俺なら辛さでそれどころじゃないと思うし。
「ヒーッ!! 辛い!! 辛い!!」
汗だくだし、口を割って天を仰ぎながら呼吸してるし。
……手とか痙攣してません?
本当に大丈夫?
「妖怪やし、そう簡単に死なへんよ」
玉藻さんの辛らつな言葉が飛んできた。
一応お客さんですよ? 火車さん。
「うグッ……み、水を貰えるか……」
……マジ?
水でいいんです?
「牛乳じゃなくてですか?」
「ああ、水でいい」
俺確認したよね?
ほな水渡すかぁ。
玉藻さんをチラッと見ると、また満面の笑みで反応待ってますねこれは。
激辛料理の後に水……実際にやると分かるけど、辛み成分のカプサイシンって水に溶けなくてさ。
結果、水を口に含むと辛みの刺激がさらに暴れまわることになる。
ちなみに牛乳は、カプサイシンを攫って口の中から流してくれる。
だから俺は最初に牛乳を出したわけですね。
「はい水です」
まぁ、火車さんはそんな事を知らないだろうし?
普段飲む飲み物を注文しただけだろうし?
玉藻さんも止めないし、まぁ辛い料理の後に水を飲んだらどうなるか、身を持って知ってもらおう。
「ゴクッ! ゴクッ! んぶっっ!?」
お? 暴れ始めたか?
「ぐぅぅおおおぉぉぉぉっ!! 口の中がぁぁぁっ!!」
えー百点満点のリアクションありがとうございます。
……玉藻さん?
流石にカウンターに突っ伏して肩振るわせてるのはどうかと思いますよ?
俺だって顔逸らして少し噴き出すぐらいに留めたんですから。
「はい、牛乳です」
「んげほっ!?」
咳き込みながら反応せんでもろて。
「牛乳は口の中の辛み成分を流してくれるんです。だから最初にお出ししたんですけど」
「ごっごっごっ!!」
まぁ、お出しした牛乳はすぐに飲み始めたんですけどね。
「ぶは! はぁ、はぁ、はぁ」
「落ち着きました?」
「知ってて水を出したな?」
あ、これもしかしておこ?
「でも、俺は一応牛乳じゃなくていいか尋ねましたよ?」
「何故に牛乳の方がいいかの説明がなかったじゃろうが!!」
そう火車さんが叫んだ瞬間である。
火が出た。
火車さんから。
もっと言うなら火車さんの口から。
あれ? 火車って口から火を噴くんだっけ?
「こら。お痛はあかんよー?」
ちなみに俺に向けて吐かれた火は、横から超反応した玉藻さんの扇子によって防がれていた。
……それどうやってるんです?
扇子で火が防げる道理いず何?
「……」
あれ? 火車さん固まっちゃった。
どうした?
「今、儂、火、吐いたか?」
キョトンとしちゃって。
信じられないと言った表情ですけど?
「吐きましたね」
「吐いたねぇ」
もう一度燃え上がりたい。
確か火車さんの注文はそれだったはずだけど。
「火! 吐いたな!!」
「ですよ?」
なんと言うか、本人滅茶苦茶嬉しそうなんだけどさ。
燃え上がるってのと、火が吹けるってのはノットイコールだよな?
なんと言うか、いいのかなそれで。
「なるほど! つまりこれを狙ってお宅らは儂に色々と仕掛けたわけじゃな!!」
あ、はい。
もういいですそれで。
こっちに不満とか文句が無いならそれが一番なので。
「ほら、まだ麻婆豆腐は残っとるんやから、まだまだ火が吹けるようため込んどき」
「そうじゃな!!」
と、まぁ半分くらい残ってる麻婆豆腐を、玉藻さんに煽られて、器ごと持ち上げた火車さんは。
よせばいいのに、その勢いのまま麻婆豆腐を掻き込んで。
「んごっ!? んぶっ!! んげほっ!!」
あ、この反応は多分入っちゃいけないところに豆腐かひき肉が入り込んだな。
地獄の苦しみですね? 水と牛乳どちらにします?
*
「ところどころ焦げちゃってますね」
「散々火ぃ吐いてったからなぁ。ま、明日までには直しとくわ」
結局あの後火車さんは、咳をしながら火をまき散らし。
治まるまでに約十分。その間に、店の中のいろんな所が被害にあったよ……。
天井、床、椅子、カウンター。
まぁ、俺とか、調理器具に向けられた火は、玉藻さんが全部防いでくれたけど。
それはそれとして、ちょっと焦げた匂いはするしって事で現在換気中。
玉藻さんがああ言ってるし、本当に明日までに直るんだろうな、どうせ。
「にしても、再び燃え上がりたい言うのに、口から火を吐けるようにするとはね」
「そう持って行ったのは玉藻さんでしょう? 俺はちゃんと燃えるように料理しましたよ?」
「さよか。にしても、おもろかったなぁ……」
ぷくく、と口を隠して笑う玉藻さん。
まぁ、面白い光景ではあったな、うん。
「……お、次のお客さんやで」
と言って入口を見る玉藻さん。
さっきの火車さんみたく、暴れたりしない妖怪がお客さん出来て欲しいなぁ。
という俺の思いは。
「開いてますか?」
扉が開き、その隙間から入ってきた透き通るような声と。
その声と共に入ってきた、吹雪かと思えるような爆発的な冷気。
来店した妖怪は……雪女だった。




