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食べた感想と新たなお客さん

「あっふ」

「熱いからきぃつけ言われたやろ……」


 出来立てで湯気の上がるドリアをスプーンに乗せ、一口。

 それはもう、躊躇いなく。

 ……俺、ちゃんと注意しましたよね?


「ごめんなさい。出来立ての料理を食べるの、初めてだったもので……」


 ……出来立てを食べたことが無い?

 ――えーっと?


「でも、熱いけど美味しいです!!」

「ほうけ。なら良かったわ」


 俺が考えてたら、ろくろ首さんはそう感想を伝えて来て。

 玉藻さんが、コップに水を注いでろくろ首さんに渡してくれてたよ。


「凄い! 瑠璃細工の湯呑ですね!!」


 で、それを見たろくろ首さんの反応。

 ……瑠璃細工とは?


「玉藻さん」

「なんや?」

「瑠璃細工って?」

「ガラス製品の事やろ」


 はへー。そう表現することもあるんだ。

 ……んで、待ってくれよ? そういう表現をする人、失礼だけど結構昔の人じゃない?

 人というか妖怪というか。


「この牛乳の味が濃いのがとても美味しいです! それに、お米も私が知っているお米より美味しい気がします!!」

「そういう牛乳の感じがあって美味しい事を、クリーミィっちゅうんやで」

「くりぃみぃ。……覚えました!」


 んで、当然そういういわゆるカタカナ言葉というか。

 外来語は知らない、と。

 あと、出来立てを食べたことが無いってのは恐らく身分の高い人だったからでは?

 暗殺とかを考慮して、作った後に毒見が食べて無事を確認してから食事をしてただろうし。


「エビも凄く大きくて、身の弾ける感じが美味しいです!!」

「バターのコクがええわ。しっかりとエビのクリーム煮を支える土壌になっとる」

「ばたぁと言うのは?」

「最初にご飯と一緒に炒めてたものです。これも牛の乳から作るんですよ」

「そうなのですね!!」


 こう、未知なる食材を味わって目を輝かせてる妖怪さん達の姿を見るのはいいな。

 情報マウントって言ったら語弊があるけど、結局『知る』って行為はいつの時代もどんな人間も欲している事だからな。

 俺はそれをこうして実食できるように提供している訳であるし。

 その結果喜んでくれるってんなら、作った甲斐があるってもんよ。


「お米と牛乳が合うなんて思っても見ませんでした」

「ミルク粥……牛乳粥なんてのもありますからね」


 じんわり甘くて、優しい味で好きなんだよね、ミルク粥。

 ブラぺにチーズ、ベーコンを入れたらなんちゃってリゾットになるし。


「きのこも美味いやろ?」

「……? キノコ?」

「この茶色いのや。――南蛮の方に生えとるキノコやな」

「これキノコだったのですか!? 独特な歯ごたえとうま味で、一体何なのかと不思議に思っていました!!」


 マッシュルームも分からない、と。

 あと、玉藻さんが外国を説明する時に南蛮って言ってたし、やっぱり結構昔の方なんだな、ろくろ首さん。

 江戸時代よりは前って感じか。


「本当に、あっと言う間に食べてしまいました」

「どや? 注文通り、『喉を通りやすい料理』やったか?」

「はい!! ご注文通りで、しかもとても美味しい料理でありました!」


 いや本当にあっと言う間に食べちゃったな。

 

「お水も美味しく、提供して頂いた料理は未知で美味。このお店を紹介された時は半信半疑でしたけれど、実際に来てみて食べてみて、噂通りでしたわ!!」

「噂?」

「はい! 最近妖怪たちの間で、この場所に来れば心の穴を埋める事が出来るとまことしやかに囁かれているのです」


 心の穴、ねぇ。

 ようは欲求や憧れ、なんかだろう。

 もちろん、人間たちのいる現世に対しての。


「ふふ。いつもはここまで足を運びませんけれど、他の悩んでいるお友だちにもお伝えしますね。噂は本物でしたよ、と」

「自分の来たい時に来るよう言うとき。ここはそういう場所や」

「はい! では、ご馳走になりました。……お勘定は?」

「気にせんでええ。()()()()場所や」

「はい!!」


 そうして、コップの水を飲み干したあと、俺と玉藻さんにお辞儀をしてろくろ首さんは帰っていった。

 ――ただ、首だけが伸びて先に行ってしまい、慌てて体が追いかける、と言ったコントのような一幕があったが。

 ……にしても、


「お金取らないのはどうかと思いますけどね?」


 見返りくらいは貰ってもいいのでは?


「? 仕入れはうち。生活費も渡しとるし、寝床も食事にも困ってへんやろ?」

「そりゃあまぁ……そうですけど」


 ちなみに言っておくとヒモではない。

 多分。

 そもそも俺、この場所に来るまでの記憶が無い。

 気が付けば玉藻さんに手を引かれ、この場所に居たんだ。

 そして、家を用意され、家具を用意され。

 店を用意され……こうして仕事を用意された。

 玉藻さんの事は、九尾以外の事は知らない。

 俺にとってどんな関係なのか、何故俺をここに連れてきたのか。

 何一つ知らされていない。


「ん、次のお客さんやで」


 ただ一つ、玉藻さんから伝えられたことは。

 この仕事は、()()()()()()()()という事。


「いらっしゃいま……いっ!?」


 そして、玉藻さんの声に反応し、店の入口へと挨拶をしようとして。

 俺は思わず変な声を出してしまった。

 店の入り口に居たのは……火車。

 葬式や墓などから死体を持ち出してしまうという妖怪は。

 名前の通り火が体に付着? しており。

 近付くだけで燃えてしまいそうな妖怪――なはずなのだが。


「どうしたん?」


 その体には、火という存在は見受けられず。


「はぁ……」


 聞いている方が落ち込むほどの深い、湿ったため息をついた火車は。


「火がよ。燃えねぇんだわ」


 見たら分かる事を、もったいぶって説明し始めた。

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