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注文した料理は……

「実は……」


 首を普通の人間の長さに戻し、口を開いたろくろ首は。


「つい先日、魚の骨が喉に刺さってしまって……取るのに凄く苦労したんです」


 なんと言うか、ツッコミどころ満載の話をし始めて。


「それ以来、どうも喉を傷めてしまったらしくて……」


 蜂蜜か水あめでも出してやりたい衝動をグッとこらえ、話を聞いていると。


「なので、喉を通りやすいような料理があれば、それをお願いします」


 ようやく、料理に対しての具体的な注文が聞こえてきた。

 ……喉を通りやすい料理が具体的かどうか、という疑問はもちろんあるだろうが、過去には――、


「なんか美味しいの」


 や、


「私が好きそうなの」


 と言った、ほぼ無限択からの選択を強いられた料理もあるので、それらに比べたら遥かにマシ。

 なお、その注文をしてきた妖怪たちは、本人の名誉の為に明かすことは無いが。


「喉を通りやすい料理、ですね。すぐお作りしますので少々お待ちください」


 正直今の所なんの料理も浮かんでないが、そう言って冷蔵庫を確認。

 一体どんな力なのか、玉藻さんはその日に使う材料をピッタリと仕入れてくる。

 という事は、仕入れされた材料から逆算し、料理に辿り着くことが可能。

 ……ん~と?

 エビ、マッシュルーム、玉ねぎ、牛乳、バター……?

 ――何となく言わんとしてることは分かるけど……。

 チーズ、無いのか。

 てことは原初のレシピって事か。

 じゃあまずやることは……。


「確認ですけどエビを食べられないとかは……?」

「無いです。というか大好きです! エビ!」


 うん、食べれるならいいや。

 鍋にお湯を張り、塩を入れてエビを塩茹で。

 その間に、先程炊いたご飯をフライパンに入れて、バターを入れてバターライスを作っていく。

 ついでにソースも作ろう。

 フライパンに牛乳を入れ、バターと小麦粉を同じ重さで少しづつ入れてかき混ぜ、入れてかき混ぜ。

 バターライスは完成。

 こいつはそのままグラタン皿へ。


「茹で上がったで」


 という玉藻さんの声を合図に、すっかり赤くなったエビを引き上げ、熱い内に殻を剥いて行く。

 剥き終わったエビを新しいフライパンに入れ、マッシュルーム、玉ねぎを刻みまして。

 ……涙が出ちゃう。人間だもの、のぼる。

 ――バターと共に炒めていく。

 マッシュルームに火が通ったら、こちらにも牛乳。

 そして固形コンソメを溶かし、小麦粉をちょっとずつ加えてエビのクリーム煮を作っていく。


「見たことない料理ですー!」

「ええ匂いやなぁ」


 調理風景を覗き込む二人の視線を感じつつも、出来上がったエビのクリーム煮をバターライスの上からグラタン皿に入れまして。

 仕上げにさっき作ったホワイトソースをかけ、そのままオーブンへ。

 後は焼き上げれば完成と。


「一体なんという料理ですか?」

「ドリア、という料理です。あるホテルのシェフが、体調不良のお客さんに食べやすいようにと調理したのが始まりと言われています」


 いわゆる日本で初めて作られたドリアの話。

 当時のドリアはチーズを乗せなかったんだってね。

 チーズを乗せるようになったのは、ドリアを開発したシェフの弟子だとかなんとか。

 今じゃあトマトソースやカレーのドリアなんかもあるし、チーズだけじゃなく半熟卵とか乗ってたりする。

 材料もエビだけじゃなく、ホタテやイカも入ったシーフードドリアに、鶏肉を使ったチキンドリア。

 更にはビーフシチューを使ったドリアまであるし、こう考えるとドリアの広がりって凄いね。


「香ばしい匂いが漂って来たなぁ……」


 ちなみに玉藻さんの分も作ってある。

 理由は簡単。

 この人……九尾? 仕入れ量が毎回二人分なんだよな。

 だから必然その量で作るんだけど、注文するお客さん以外に誰が食べるのかというと……。

 俺がお客さんの前で、お客さんと一緒に食べる訳にもいかず。

 結果として、この玉藻さんの方へと流れる事になる。

 絶対そこまで計算づくだよこの九尾。


「ちなみにチーズを買って来なかった理由は?」

「チーズを乗せて焼いたやつは食べやすいようにと開発されたドリア違うやろ?」

「でも乗せた方が美味しいですよ?」

「ろくろ首の注文は『喉を通りやすい料理』や。その範囲でなら美味しさを追及してかまへんけど、離れるようなもんは仕入れるわけにはいかんなぁ」

「さいですか」


 チーズがあればもう少し早く閃けたのになぁ。

 何より、このドリアの開発話を思い出すのがもう少し早かったかもしれない。

 どうしても俺の頭の中にはチーズを乗せて焼いたドリアしか存在しなかったからさ。

 なんて言っていると、焼き上がったことを知らせる音がオーブンから聞こえて来て。

 鍋掴みを装備し、じふじふと、表面が沸騰したような動きを繰り返すドリアを取り出して。


「お待たせしました。熱いので気を付けて食べてください」


 と二人の前にスプーンと一緒に差し出して。


「これが……ドリア」

「ええ香りやね。ほな頂くわ」


 俺の調理風景やフライパンの中。

 更には焼いているオーブンの中を見るために伸ばしていた首を引っ込めたろくろ首さんは。

 玉藻さんと一緒に手を合わせ、初めてのドリアへとスプーンを入れるのだった。

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