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そして……

「ほな空坊に問題や。一番有名な陰陽師は誰や?」

「……安倍晴明?」

「正解。ほな他に思い浮かぶのは?」


 ……安倍晴明以外の陰陽師?

 えぇっと……なんか、ゲームとかで見たような気もする……。


「なんちゃら……道満?」

「あ、そっちが出るんだ?」


 あれ? 違った? 


「違う違う。苗字じゃなくて名前が出るんだね」

「蘆屋。芦屋道満。それが安倍晴明と、大体対に書かれる陰陽師の名前や」


 芦屋道満って言うのか。

 ……で? それに何の意味が?


「ちなみに安倍晴明……ちゅうか、安倍家は現在まで続いとる」

「あ、そうなんですか?」

「もっとも、そのまま安倍家としては残ってないんだ」

「? どういうことです?」

「苗字が変わっとるっちゅうことや」

「土御門っていう苗字をどこかで聞いたことはないかい?」


 ……あー、漫画とかで見たことあるかも?

 少なくとも、知らない苗字ではない。


「その土御門って苗字こそが、安倍晴明から続く血筋の末裔、という事になる」

「分家とか考えだしたらキリが無いから、その辺は無視するで? ……んで、気付かんか?」

「? 何をです?」

「土御門と、空木崎。()()()()()()、やで?」


 一瞬。

 ドクンと心臓が大きく跳ねた。

 元々珍しい苗字だとは自覚していた。

 記憶の中で、同じ苗字の人間と出会ったことはない。

 もし、もしそれが。

 ただ土御門家に対抗するためだけに付けられた苗字のせいだったとしたら?


「しかも名前や。昇なんて、土御門と対にした苗字に当てる名前にしては、随分と大層な名前やないの」

「相手よりも上へ、なんて考えが透けて見えるよね?」


 玉藻さんとさとりさん、二人の声が、グルグルと脳内で渦巻いていく。

 

「……ほな、百鬼夜行の目的も理解出来たやろ?」

「――分かりません」


 分かりたくもない。

 ……そんな。そんな……。


「ふふ。気付いているね? そう。歴史の表舞台から消された恨み。それを連綿と繋がれてきた君が晴らす」


 さとりさんの前に、嘘は付けない。

 何故なら、考えを全て見通されてしまうから。


「長かったよなぁ? うちらの指示より前に、現世に行かんよう引き留め続けるんわ」

「引き留めるのが……仕事だって……」

「そうだよ? だって、小出しにするより大きな波にした方が、現世は混乱するだろうからね」


 違う。

 俺はそんな為にここで料理を作っていたわけじゃあ……。


「違わへんよ? 元からそんな目的の為や。……嬉しい誤算は昇の腕やな。ここに来る妖怪の胃袋を鷲掴みにするんやもん。これでもっとうちらの言う事聞いてくれるようになったわ」


 ……玉藻さんが妖狐というのも……嘘なのか?

 妹がさとり。そして、当たり前に俺の思考も読んでくる。


「嘘やない。妖狐は妖狐や。ただ、さとりとのハーフ、やけどな?」


 ……そう言う事か。


「ほな、行くで。みんな待っとる」

「嫌です」

「無理だよ。もう君の意思は関係ないんだ。僕が炊きつけておいたからね」

「店の前には、もうズラッと魑魅魍魎が整列済みや」


 それでも……俺は。


「ほな行くで。今までこっちに閉じ込められていた分、暴れ回ったるわ」



「はい、これで物語はおしまいだよ」


 とある県、とある市、とある町。

 のどかな田舎の一軒家で、本の読み聞かせをしていたお爺さんは、静かに聞いていた孫にそう声をかける。


「えー、もうおしまい? 全然話終わってないじゃん!!」


 おしまいを告げられたその孫は、ぶーぶーと口を尖らせて文句を言い。

 どれだけページをめくっても、それ以上を書いていない本に向けて、


「あれからどうなったの!? 昇おじいちゃんは!?」


 と、返ってくるはずもない質問を投げかけた。


「昇お爺さんはね」


 そんな質問に答えるのは、先程まで本を読んでいた老人。 

 どこか懐かしむような目をしつつ、


「もしかしたら、まだ、妖怪さん達の為に料理を作っているのかもしれないね」


 そう答えると。


「え!? まだ作ってるの!?」


 目をキラキラさせ、孫が聞いてくる。

 しかし、


「でも、昇お爺さんってもうずっと昔の人だよね?」


 そう言って落胆。

 だが、


「そう。確かに私の曽祖父が昇お爺さんだが、実は一度だけ姿を見たことがあってね?」


 老人がそう返すと、


「ほんと!?」

「ああ、本当さ。とても綺麗な女性二人と一緒に、青年のような見た目だったよ」

「?? それ本当に昇お爺さん?」

「本当だとも。女性たちから昇って呼ばれていたからね」


 孫に聞かれるたびに、必死に昇の事を思い出そうとする老人。

 その記憶の中の昇は、どうやら未だ青年と呼べるような見た目らしく。


「すぐに戻らなきゃ、と言っていたが、私にお年玉をくれたんだ」

「お年玉!!」

「凄く一杯入っていたのを覚えているよ」

「いいなー!!」

「その時にチラッと、まだ料理を作っている、なんて聞いた覚えがある」

「そうなんだ!」

「ああ、その証拠に、舞も妖怪を見たことは無いだろう?」


 舞と呼ばれた孫は、何度か目をぱちくりとさせると。


「見たことない!!」


 と元気に笑う。


「じゃあ、誰かが今も妖怪をこちらの世界に来ないよう押し留めているというわけだ」

「それが昇お爺さんなのね!!」

「私はそう信じているよ」


 そう老人が言った後、舞の両親が舞を呼ぶ声が聞こえた。


「あ、お母さんたちだ! もう帰るみたい!!」

「いつでもおいで」

「うん! また来る!! じゃあね! おじいちゃん!!」


 そう言って元気に手を振った舞は、両親の車で老人の家を後にした。

 その家の表札には、しっかりと、『空木崎』という苗字が彫られているのだった。

最後のこれがやりたかっただけ()な作品でした。

最後までお読みいただきありがとうございました!!

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