雰囲気が……
「来ませんねぇ……」
「せやなぁ」
蛇骨婆さんが出て行って、いつもならそんなに待たずにお客さんが来るのに。
今日は全然入って来ない。
まぁ、暇なら暇でいいんだけどね?
と言うわけで片付けやら、冷蔵庫内の材料の整理やらをしていたら、背中に寒気が。
振り返って玉藻さんを見て見たら、こう……獣感が増してた。
普段は耳と尻尾くらいしか妖狐を感じられる部分が無いのに、未だと顔も凄く狐顔に……。
あれだ。ケモナーが好みそうなって言ったら語弊があるかもだけど、ベースが動物の獣人種みたいな見た目。
こう……癖が詰め込まれてる感じ。
「なんや失礼な事思ってへんか?」
「滅相もありません」
にしても、急にどうしたんだろ?
今までそんな事無かったような……。
「ん、お客さんや……で――」
で、ようやく来たお客さんも、何やら玉藻さんの様子がおかしく。
お店の入口には、……トイレの花子さんくらいの見た目の女の子が。
珍しいな。同一妖怪で容姿の違う感じか? と思っていたら。
「姉さん。準備、出来たよ」
と、その女の子は玉藻さんの方へ顔を向けてそう言って。
「……ほうけ。ようやく……ようやくか」
玉藻さんも玉藻さんで、うわ言って言ったらアレだけど、ぼんやりと繰り返し。
「とりあえず座りや。メニューはカレーライスでええんやろ?」
かと思えば、女の子を席に促し、注文を聞く前に決めつけてしまっている。
流石にそれは……と思うも、
「そうだね、カレーライス。食べてみたい」
女の子から正式に注文されたので、カレーライスを作ることに。
――にしても、
「玉藻さんの妹さんなんですか?」
「そうだよ。私は『さとり』よろしく」
尋ねた質問に返ってきたのは、思いもよらない妖怪名。
さとり……ぬらりひょんとかと並んでボスイメージ強い妖怪だなぁ……。
妖狐とかもボス枠のイメージあるけど。
「ん? でも玉藻さんは妖狐ですよね?」
「妖怪に血縁関係とかほぼ無いで。ただ、うちとサトリは姉妹ってだけや」
はーん? 凄くざっくり言うなら、二人同時に産まれた、とか?
気にしてもしょうがないか……。
「もしかして、妹にさとりが居るからたまに俺の心を読めた、とか?」
玉ねぎを刻み、皮を剥いた人参をカット。
ジャガイモも皮を剥いてカットして、玉ねぎはあめ色になるまで炒める。
その間に辿り着いた思考を口にすれば、
「姉さんはボクほど心が読めないからね。たまにしか読めなかったのかな?」
「せやよ。可愛い妹の専売特許盗るんは、姉としての美学に反するわ」
ダソウデス。
なんと言うか、常に心を読めない事を誤魔化そうとしてる感じがするな。
「そんなことあらへんよ」
ほら、こうしてちゃんと心読めてますよアピールが怪しさを増長させる。
さとりさんが隣でくすくす笑ってるのがその証拠だ。
「ええやん、妹の前で位ええかっこさせてや」
「それくらい正直な方がいいですよ」
……あと、サラッと流したけどさとりさんボクっ娘だったな。
妖怪ボクっ娘妹さとりとかキャラ詰め込み過ぎじゃない?
「やめた方がいいかな?」
あ、大好物です。ぜひそのまま貫いてもろて。
「ふふ、そう。分かったよ」
思考読んで貰えるの、楽かもしれん。
ただ、絶対に読まれない方がいい思考もあるだろうから……。
つまり何が言いたいかと言うと、今の時間だけは邪念を捨て去れ……。
「ふふ、面白い人間だね」
「せやろ? からかい甲斐があって退屈せぇへんのや」
鍋にサラダ油を引き、牛肉を炒める。
牛肉に火が通ったら人参とじゃがいもを投入し、水を入れ。
玉ねぎを炒めつつ、アクを丁寧に取って……。
じゃがいもと人参に箸が抵抗なく刺さるまで柔らかくなったらば。
炒めていた玉ねぎを追加し、ここで各種調味料。
焼き肉のタレ、ケチャップ、ウスターソース。
追加でパックのコーヒー牛乳を投入し、そこからルゥを投入。
ルゥがしっかり溶ける様にかき混ぜたら、完成。
……カレールゥが辛口しかなかったけど大丈夫かな?
玉藻さんが用意したわけだし多分大丈夫だろうけど……。
「ボク、辛いの苦手かも」
完成キャンセル。ここから甘口になるよう努力しますわぞっと。
まず定番の蜂蜜! こいつを回し入れて……。
リンゴをすり下ろして、しっかりかき混ぜる。
ここまでやれば大丈夫そうか?
「食べてみんと分からへんやろ」
「姉さん、こういう時はボクに意地悪するんだよ? 酷いと思わない?」
……何も考えるな。
ちょっとその気持ち分かるとか考えちゃダメ。
こう、意地悪したくなるようなビジュアルしてるとか間違っても考えちゃダメだぞ……俺。
「考えてる……」
「カカカ、昇もこっち側やったな!」
僕は無実です。
さてさて、お皿にご飯を盛り付け――、
「チーズいります?」
「もちや」
「貰おうかな」
注文があったのでとろけるチーズを乗せまして。
出来上がったカレーをたっぷりかけて、完成。
と言うわけでカレーライスです。
「ありがとう」
「昇、念のためお冷を用意しとってや」
「あ、はい」
玉藻さんに言われて、お冷のお代わりを用意。
そうだよね、いくら蜂蜜やリンゴをすって入れたとはいえ、どれだけ辛さが抑えられてるか分からないもんね。
ではでは、ご注文のカレーライス、おあがりよ!




