初めての卵スイーツ
「……熱いかい? 熱そうじゃない? 熱そうだよ」
「まぁ、猫舌には辛いやろな」
……蛇って猫舌なのか?
変温動物だから、寒い所が苦手ってのは理解してるけどさ。
熱いのも苦手なのだろうか……。
「大丈夫だよ。甘く見るな。ちょっと冷まそう」
……何と言うか、強がってることが分かるの不憫な気がする。
本人頑張って取り繕うとしてるのに、蛇が正直に言っちゃうみたいな。
「い、いただくよ。いただきます。まだ熱いよ?」
と言うわけで最初の一口。
箸で上手に掴んで、ラーメンみたいに引き上げて。
ちょいとふーふーして、そのままずぞぞ。
パスタは音を立てて食べたらマナー違反なんだけどね。
まぁ、この場には俺らしか居ないし、別に目くじら立てる程の事でもない。
それに、前にも言ったけど日本人――日本妖怪なら音立ててすすった方が美味しいと感じちゃうでしょ。
「濃厚な卵の味だね。とても美味しい! 美味しい!!」
「美味いなぁ。安定の味やわ」
まず蛇骨婆さんが卵の濃厚な味に感激し。
遅れて食べた玉藻さんが安定の味だと感想を漏らす。
……何と言うか、カルボナーラとミートソースって、パスタソースの中で二大巨塔感あるよね。
ナポリタンとか、ボンゴレとか、一応他にもあるっちゃあるけど。
子供から大人まで、とりあえず人気なのはその二つなイメージがある。
「凄く濃厚な味だね、卵以外に何を使っているんだい? 教えて。教えてー」
……気のせいか? 一口食べてから、蛇の方の語彙力飛んでない?
まぁ、大丈夫か。
「チーズ……牛乳から作ったコクのある製品を削った奴を入れてますね」
「この舌先が痺れるような刺激のやつは? ピリピリする! ピリリー!」
「黒胡椒です。多分昔からあると思いますけれど……」
「昇、昔からあるけど胡椒は薬として用いられとった。調味料として用いられるのはもうちょい先や」
「へー、そうだったんですか」
黒胡椒って元々生薬扱いだったのか……。
だから、日本の先祖様達はスパイスだの香辛料だのを生薬認定し過ぎだって。
……そりゃあ、今ほど情報なかったから仕方ないんだろうけどさ。
「これはお肉かい? 何のお肉~? 豚~?」
「お、正解です。豚のお腹や背中のお肉を加工したものがそのベーコンなんですよ」
見事正解した青い蛇さんには、ウズラの卵をプレゼント。
美味しそうに丸飲みしてら。
「豚肉の塩漬けがそれや」
「だからこんなに味が出てくるのか。噛むほど~。じゅわっと~」
なんて言いながらカルボナーラは順調に食べ進められていき。
あっさり完食。
「ご馳走さまでした。ごちそうさまー。でしたー」
「ふふ、どやった?」
「美味しかった。満足ー! お腹いっぱーい!!」
……蛇さん達のお腹一杯はほぼほぼウズラの卵だと思うんだけどね。内訳。
でもまぁ、満足してくれたなら良かった。
――と思っていたのか?
「じゃあ、デザートを出しますね」
「??」
「食後の甘味や。別に作っとった料理があるやろ?」
と言う事で、オーブン、オープン!!
よしよし、しっかり蒸し焼きに出来てますわね。
「本来は冷やすんやけど……あまり冷さん方がええやろ? 粗熱を取るだけにしとくわ」
と、玉藻さんが言ったかと思えば、背筋がぞわりと変な感覚。
そして、気が付けばプリンたちからは熱を一切感じなくなっておりましたとさ。
やっぱり妖怪なんだなぁって。
いや、妖怪だから出来るとか言われても納得できないけどさ。
「昇、スプーン」
「ハイハイ」
言われるままにプリンとスプーンを渡しまして。
キョトンとしている蛇骨婆さんの前にももちろんどうぞ。
「あ、カラメル入ってませんよ?」
「ええよ。たまにはカラメル無しのプリンも趣があるわ」
なんかよく分からない事言われた。
まぁ、いいって言うならいいんだけどさ。
「……?」
「どうしました?」
「これが……甘い? 甘いの? 本当に?」
あ、卵が甘いって信じられない感じ?
安心してください。砂糖、入ってますよ。
「ええから食べてみ」
「……こくり」
と言うわけで少しだけプリンを掬って小さくパクリ。
そのままもみゅもみゅとゆっくり咀嚼して……。
「美味しい! 甘い! 甘ーい!!」
信じて貰えたようです。
「甘い卵! 美味しい!! もっと~!!」
そこからは凄かったよ。
なるだけ長く楽しみたいのか、物凄く小さく掬っては大事そうに食べ。
口の中のプリンが無くなったら凄く残念そうに残ったプリンを見つめるの。
で、何度か深呼吸して最初に戻る。
どれだけ美味しかったんだって。
「滑らか! つるつる! 柔らか!!」
そしてとうとう蛇骨婆さん本体まで語彙力が無くなったみたい。
両腕の蛇と一緒に大はしゃぎだった。
――ただ、悲しい事に終わりは当然やってくるわけで。
「最後の……一口。残念。もっと食べたい……」
怒られたの? と思う位にシュンとしちゃった蛇骨婆さんは、それでも最後の一口のプリンを頬張り、その美味しさに満面の笑みを浮かべまして。
「ご馳走さまでした。美味しかった! また作ってー!!」
手を合わせ、両腕の蛇もあごを合わせ。
完食の言葉を口にした。
「次に来た時は、今の卵の甘味を! 丼で! 土鍋で!!」
「か、考えときます」
完食してすぐ椅子から飛び降り、もう次に来た時の注文を終わらせた蛇骨婆さんは。
正直出来るかどうかわからないと悩む俺に見向きもせず、お店を出て行った。
「さて、昇? プリンはまだまだあるんやろ? 昇の分を考えても、もう一個くらいはうちに出せるよな?」
そしてここで俺は気が付いた。
この店内には、もう一人卵料理を狙う蛇が居たことに。
「妖狐や」
妖狐でした。




