表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/38

手毬寿司実食

「これが……手毬寿司?」

「そや。名前の通り手毬の形になってるやろ?」


 そう言えばそうなのか。

 そもそも俺の子供の頃にすら、毬ってのは遊んだ事無いからなぁ。

 昔は蹴鞠なんて遊びがあったみたいだけど、今じゃあサッカーだし。

 思えば、手毬とか見た事無いかも。


「……炒り酒などは?」

「あ、お塩ならあります」


 確か、江戸前寿司では炒り酒でお寿司を食べてたんだよね。

 醤油が誕生する前、って注釈は付くけど。

 ……そう言えば親戚に日本酒で素麺を食べる飲兵衛が居たな……。

 周りから奇怪な目で見られてたけど、炒り酒が過去に寿司に付けられてたって考えると、そこまで不思議じゃないのかも。

 ……炒ってすらない日本酒で素麺すすってたけども。


「いただきます」


 そう言って手毬串を一つ掴んだ口裂け女さんは、髪をかき上げ一口目をパクリ。

 最初は鯛か。


「!? 凄く美味しいです!!」

「昆布締めの鯛ですね」


 まぁ、鯛と言えば、ね。

 ありがたい事に利尻の昆布を買って来てくれてたから、シャリを作る間に昆布の上に乗せてましたわよ。

 昆布締めをし過ぎると鯛自体の味が殺されちゃうし、俺は浅く昆布の味が浸透しているくらいが好き。


「こんな高級魚、私初めてかも……」


 口元に手を当て、鯛を咀嚼し。

 そんな感想を漏らす口裂け女さん。

 チラリと玉藻さんを見れば、静かにゆっくり頷いて。

 多分、天然物の真鯛なんだろうなぁ。

 しかもちゃんと寝かせて熟成させてる。


「身は薄いのにねっとりとした身の旨味と昆布の香りがたまりません!」


 まだ一つ目の手毬寿司なのに、凄くいい反応するじゃん。

 作った甲斐があるってもんよ。


「こちらは……イカですか? あむ」


 二つ目はイカ。

 ……一応ね? 俺もそんなに知識が無いなりに、寿司の順番くらいは意識してる。

 味の濃い……というか脂が濃い魚が後ろにくればいいんでしょ? くらいの感覚だけど。


「このイカも美味しいです!! ねっとりしていて!」

「数滴垂らされたレモンがきいとるな。アオリにして正解や」

「?」

「イカの種類です。アオリイカって種類が居るんです。イカの中でも特に強いうま味が特徴ですね」


 お寿司屋さんとかだと、イカとアオリイカが分かれてたりするよね。

 コウイカとか、ケンサキイカと区別されるぐらいには味が違うってこと。

 もちろん、お値段もね。


「大葉の爽やかな香りも素晴らしかったですし、れもん? の酸味もよく馴染んでいました!」

「こうして串に刺さった手毬寿司っちゅうんも、食べてておもろいな。花見とかで食べたいわ」

「いいですね! 本物のお団子と、この手毬寿司とで団子重なんて」

「おもろそうやねぇ」


 ……どうせ作るの俺なんだよなぁ。

 盛り上がってらっしゃいますけど?


「次はエビか」

「紅白の柄がお祝い事を想像させてて気分が上がりますわよね」


 一本目最後の手毬寿司はエビ。

 塩茹でした……らしいよ?

 いや、だって茹でられた奴買って来てるんだもん玉藻さん。

 しかも伊勢海老とかじゃなく、ウチワエビだったし……。

 味的には伊勢海老より上って言う人もいるらしいけど、果たしてどうだか。


「~!! 噛むと溢れる美味しい汁が、酢飯によく混ざりますわ!」

「旨味も強くて甘みもあるな。あと、プリッとした歯ごたえも最高やわ」


 美味しいみたいです。

 ……いいなぁ、俺も食べたい。


「一本目完食。ただやっぱ、握りと違うてシャリは固いな」

「そもそも握ってませんし、串に刺して形が崩れない事を考えたら固く絞る以外ないですよ」

「精進が足らんなぁ」

「すみませんねお寿司屋さんじゃなくて」


 無茶言うよなぁ。

 こちとら握り寿司とか数えるほどしか作った事無いぞ?

 ……大体が玉藻さんのリクエストだけど。

 俺が経験豊富なのと言ったらいなり寿司くらいなもんだ。


「お次の串は……赤身ですか」


 手前からサーモン、マグロの赤身、中トロとなっております。

 んで、流石にガリのお代わりを追加。

 赤身の時ほどガリを食べるだろうし。


「昇、あっついお茶を貰えるか?」

「へいへい」


 あがりですね、分かります。

 ちなみにお寿司屋さんのお茶が熱い理由。

 あれ、口の中に残った魚の脂を洗い流すため、らしいよ?

 肉と違って魚の脂って融点が低いんだってさ。だから、ぐらぐらに沸いたお茶を飲むと、その熱で脂が溶けちゃうらしい。

 ちなみに口内温度でもじんわり溶けるとかなんとか。

 だから、リポーターさんとかが、口の中で溶けたって大トロとか食べて言うのはあながち間違ってないんだそうな。


「赤身……」


 ん? どうして口裂け女さんは赤身串を食べようとしないので?


「大丈夫や、うちが保証するわ」

「……はい」


 ? なんか意を決してみたいな感じでサーモンを食べたけれども……。


「あ、美味しい」


 せやろ? サーモンは美味しいんよ。


「うちの口調真似するなや?」


 あ、はい。

 にしても、何を躊躇っていたのか。


「これ……鮭ですよね?」

「まぁ、ですね」

「ごめんなさい、鮭を生で食べるのに抵抗があって……」


 あー……。なるほど?

 確かに、鮭って寄生虫がどうとかで生食出来ないんだっけ?

 対してサーモンは同じ鮭ではあるけど取れる海が違う。

 そして、輸入の時に冷凍なりを経てるから生食が可能。

 生食の可否で鮭とサーモンとに分かれる、みたいなのを聞いたことがある。


「でも、食べてみてびっくり。こんなに美味しかったんですね!」

「ちゃんと生で食べられるよう手が施されとるけどな」

「人間って凄いですねぇ……」


 と言ってガリを食べ、お茶を飲む口裂け女さん。

 まぁ、また今度はマグロを前に、食べるのが止まるんですけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ