でっかいお魚
「ちょい待ち。なにしとるん?」
「何って、後は焼くだけですけど……」
オーブンを閉めようとしたら玉藻さんから止められて。
ジェスチャーで、スズキのパイ包みをこっちに寄越せと手招き。
お? 焼いてくれるのかな?
「竹串一本」
「へ?」
「はよ」
と思ったけど、要求されたのはまさかの竹串。
何する気だろうと思ったら、
「大体、でっかい魚を所望されとるんやろ? ほな、形を魚にせな」
と言ってパイの表面に竹串を使って鱗の模様を描き始め。
「面白そうニャ!」
猫又さんも参加して、二人でパイを魚に見える様にメイクを開始。
……今の内にソースを作っちゃうか。
まずはエシャロットを細かくみじん切り。
続いて白コショウを袋に入れ、綿棒で細かく砕いていく。
強く……荒く……躊躇わず。最後まで砕き切ってっと。
こんなもんか。
「ん、大作大作」
「満足!!」
どうやら二人もお絵かきが終わったらしい。
ほな焼いていきますか。
「あ、ちょい待ち」
と一瞬玉藻さんに止められたものの、すぐに解放され。
なんだったんだ? と思ったけど、
「パイが少し柔らかくなっとったんや。せやから手っ取り早く冷やしといたで」
だそうです。
へいへいどうも。
んじゃあ焼いていきますか。
オーブンの予熱は200℃。焼く前に忘れてた卵黄液を表面に満遍なく塗りまして。
まずは十五分……いってらっしゃい。
「焼き上がりが楽しみニャ」
「せやね」
なんて言ってる二人に見守られながら、ソースの用意を進めていく。
潰した白コショウとエシャロットを鍋に入れ、その鍋に白ワインとエストラゴンって言うハーブ入りのビネガーを入れて弱火で煮詰める。
水分がほとんどなくなるまでガッツリと。
そうなったらボウルに移し、お湯を沸かして別のボウルに。
このソース、湯せんしながら作るんだよね。ちなみに沸騰するような温度だと高すぎるから、沸騰から少し前くらいのお湯を使う。
「なんか面倒くさそうなことをしてるニャ」
「面倒な手順がある程、料理はおいしくなるもんよ?」
そうとも限らん。
単純な事しかしないのに美味しい料理もいっぱいあるよ?
ただ、注文された料理が面倒な工程があるってだけ。
気を取り直して続けよう。
エシャロットや白コショウの入ったボウルに卵黄を入れ、塩一つまみを入れて混ぜ合わせ。
湯せんしながらかき混ぜる。
卵黄にじっくり火が通ってくるから、とろみがついてきたら溶かしたバターを少しずつ入れてかき混ぜる。
おっと、卵が固まりそうだった。
そうなったら湯せんから外して温度調整。
卵が固まったり、バターを一気に入れすぎたりすると分離しちゃってソースとしては失敗になっちゃうからね。
これを繰り返し、マヨネーズくらいの固さになったら完成。
このソースを漉して、エシャロットと白コショウを取り除いてっと。
「焼けたで」
「はいはい」
玉藻さんに焼き上がりを教えて貰ったけど、まだなんだよね。
まだパイに焼き色が付いたに過ぎないから、今度は温度を180℃に落として約十分。
もう一度行ってらっしゃい。
その間にソースを仕上げるわぞ~。
イタリアンパセリをみじん切りにし、先程漉したソースに混ぜまして。
お次はトマト。こいつを湯むきしたのちタネの部分を取って粗みじん切り。
鍋にオリーブオイルを垂らし、トマトを加えて弱火でじっくり。
塩を少量入れ、トマトから出る水分で煮詰める事数分。
煮詰める事でトマトは煮崩れして、しっかりとしたソースになる。
このトマトソースを先程のソースと混ぜ合わせてようやくソースの完成ですよ。
「こっちも焼けたで」
再び玉藻さんの焼けたよ報告が入ったのでオーブンを開ければ。
うん、しっかり焼けてるね。
すぐには取り出さず、しばらくオーブンを開けたままで放置して、余熱を入れていきまして。
その間に食器類を置いときますわね。
取り皿と、ナイフとフォーク、どうぞ。
「ワインはあらへん?」
「買って来てないなら無いですね」
「さっきソース作るのに使ったやろ」
「調味料としての白ワインでしょう? 折角なんだから有名な銘柄の白ワインでも買っといてくださいよ」
俺も仕事終わりに飲みたいし。
「ま、今回はええわ」
イインカイ。
……よし、そろそろかな?
「というわけでお待たせしました、スズキのパイ包み焼きになります」
完成したパイ包み焼きをお出ししたけど、見た目あれだね。
凄く大きなたい焼きみたいな。
中身は正真正銘の魚なんですけどね。
「ニャー-!! でっかいニャ! お魚にゃ!!」
身を乗り出すと危ないですよー。
料理提供まで座ってお待ちください。
「ソースはそれぞれに用意しましたので、好きにつけて食べてください」
「ほいよ」
というわけでまずはパイ包み入刀です。
……玉藻さんは頭の方から、猫又さんがお尻の方から、か。
なんか子供の頃、たい焼きをどこから食べるか的な心理テストあった気がするなぁ。
……背びれから食べるって言ったら変わってるね、の一言で終わりだった気がする。
美味しいじゃん、背びれのカリカリしてるところ。
「それじゃ、いただくわ」
「いただきますニャ!!」
自分の分を取り皿に移し、ソースを思い思いにかけまして。
猫又さんご注文、でっかい魚、いざご賞味あれ。




