ふわふわ柔らか
……ふむ。
冷蔵庫にある材料を考えたら、玉藻さんが俺に作らせようとしてるのはこれか。
何度かしか作った事無いから、うまく出来ると良いけど。
「では、調理に取り掛かりますね」
「今回は何が出てくるか……楽しみだねぇ」
というわけで一反木綿さんに見られながら、調理開始。
まずは粉ゼラチンに水を加えてふやかしまして。
鍋にリンゴジュース、砂糖を入れて加熱。
熱されるまでの間にクッキングシートを取り出しまして。
クッキングシートに、コーンスターチを振っておく、と。
あと、後で使う事になる絞り袋も準備をば。
「それは? もしかしてリンゴの果汁かい?」
「ですです。よくご存じですね」
リンゴってそんな昔からあるのか。
そういや、考えたことも無かったな。
「って言うても、あんたの知っとるリンゴと違うよ?」
「そうなのかい? ……あまり違いは分からないかもしれないねぇ」
「海外から伝わって来たリンゴから絞った果汁やからね。あんたの知っとるリンゴとは品種が違うんよ」
なんてリンゴ談義が開始されましたとさ。
って事は、少なくとも日本に古くからリンゴは存在した、と。
おっとっと、危ない危ない。
危うく火にかけてるリンゴジュースを焦がすところだった。
沸騰したら、ふやかしていた粉ゼラチンを投入し、しっかりと溶かしまして。
ここからはスピード勝負! まず登場するのはハンドミキサー。
こいつで今しがた火から降ろしたリンゴジュースINゼラチンを泡立てていく。
徐々に固まり、もったりとしてきたら、今度は即座に絞り袋へ。
早くしないと固まっちゃう、急げ急げ。
「なにやら慌ただしくなって来たねぇ」
「完成マ間近やで」
「もう出来ちゃうのか!?」
「あんた、綿飴の時も同じこと言うとったで」
絞り袋に入れ終わったら、先程クッキングシートの上に振ったコーンスターチ目がけて絞っていく。
一口大の大きさを目安に絞り、離し、を繰り返し。
固まったら、周りにコーンスターチを浴びせる様にまぶして完成。
「お待たせしました、生マシュマロです」
「全然待ってないけどね」
というわけで作っていたのは生マシュマロ。
ちなみにマシュマロとは作り方が違うよ?
マシュマロはメレンゲを使ったりするからね。
今回はメレンゲ無しで果物のジュースを使った作り方をしてみました。
「おぉ! 確かに雲のように軽いし、とても柔らかい」
なお、出した直後に希望に沿った物なのかを、早速持ち上げて確認された。
でも、意外と自信あるぞ、今回。
流石に綿飴よりは重いけどさ。
それより軽い料理はちょっと思いつかないね。
「では早速、いただきます」
律儀に手を合わせ、生マシュマロを口へと放り込んだ一反木綿さんは。
「おお! 口の中で溶けてなくなったぞ!!」
と、若干興奮気味に食レポを開始して。
「確かに風味や味はリンゴのそれだけど、知っているリンゴとは違うね」
「どう違います?」
「なんだろうね、酸味が控えめで甘みが強いかな」
と言いつつ二個目。
どうやら気に入って貰えたっぽいぞ。
「口に入れた瞬間に泡のように――いや、雲のように消える。初めてだなぁ、この食感」
「柔らかさはしっかりあるわ。その上で、歯で噛むとそこからシュワっと消えてまうんよね」
「とても美味しいよ。こんなに軽いなら、いくらでも食べられてしまいそうだ」
なんて言いつつ、玉藻さんと合わせてポンポン口の中に放り込んでいく。
「う~ん、美味しいなぁ」
これで最後の一つ。
ものすごい速度で生マシュマロを平らげた一反木綿さんは、満足そうにお腹――であろう場所を擦り。
「満足満足」
とご満悦。
「雲のように軽い料理、いかがでしたでしょうか?」
「とても美味しかった。また食べたいねぇ」
「それ、綿飴の時も言うとったやないの」
「そうだったかな?」
言ってましたね、覚えてますよ。
……なのに今回は前回食べたやつ以外とか注文しましたもんね。
次――もあるのかなぁ。
もしそうなったら何出そう……帰ってから調べといたほうがいいかも。
「それじゃあ、美味しかった。ご馳走様」
「気を付けて帰りよ?」
「もちろん、もうすぐ日が昇る。それまでには家に着かないとね」
という言葉を残し、お店から出て行く一反木綿さん。
ふぅ……今日も終わりか。
「ほんで?」
「何がほんで? なんですか」
「賄い作るんやろ?」
……この人? 妖怪? あれだけ食べておいて俺の賄いも食べる気だもんなぁ……。
別にいいけど。
「野菜たっぷりのピザ、とんかつ……は重いので無しにして、後はイカ墨パスタ食べたいですね」
「ほな、豚肉は細かく切って焼いた後にピザに乗せり」
「あ、それいいですね」
「お酒はどうするん?」
「ハイボールを」
「ほなうちも。はよ作ってや」
というわけで、二人分のピザとイカ墨パスタ、ハイボールを作りまして。
ピザとハイボール、イカ墨パスタにもハイボールで気分はご機嫌テンション上々。
その勢いのまま、洗い物を済ませて後片付け。
「あかん、もう入らん」
とか言って机に突っ伏した玉藻さんを労わる――ことも無く、清掃を任せて店を閉めた。
「ちょっとくらい労わってくれてもバチは当たらんよ?」
なんて言われたけど、食べ過ぎて動けなくなっただけでしょ。
自業自得。




