本日最後のお客様
「さて、お子様ランチにはデザートが付き物。当然、大人様ランチにもデザートがあるわけや」
「そ、そうなの!?」
玉藻さんが俺を見ながらそう言えば、花子さんも視線を俺に向け、爛々とした目でめっちゃ見つめてくる……。
「アイスクリームがありますよ」
用意したの、玉藻さんなんだけど。
「アイスクリーン? ……って、あたし食べたことあるわよ?」
「アイスクリーム、や。アイスクリーンより後に出て来た食べ物やな」
「どう違うのかしら?」
「そら、食べてからのお楽しみやろ」
えぇっと、アイスクリーンていうのは確か、アイスクリームよりも前に売られてた氷菓子的な?
というか、そっちよりも……。
「アイスキャンディーの進化系みたいなものですね」
こっちの方が馴染みがある名前だよね。
「そうなの!? は、早く食べてみたい……かも」
との事なので、早速アイスクリームとご対面。
……まぁ、カップアイスなんですけどね。
「……これが……アイスクリーム?」
「そやで。昇、スプーン」
「はいはい」
カップアイスの中ではちょっとお高めの、アメリカ発祥のアイスクリームメーカーの商品。
玉藻さん、それしか食べないからなぁ。
必然用意されてるのもそれという事になる。
「中に何か入っているわね」
「ふふ、うちの大好物なんよ」
ラムレーズンね。
好き嫌い別れるフレーバーだよね。
俺は正直あまり好んでは食べないかな。
アイスが食べたいときに、それしかなかったら食べる程度。
アイスはクッキー&クリームが至高って思ってるんで。
チョコミント? 嫌いじゃないよ。歯磨き粉とも思わないかな。
で、蓋開けてじっと見つめてると溶けちゃいますよ?
まぁ、ちょっと溶かした方が好みって人も全然いるだろうけどさ。
「本当に食べて大丈夫よね?」
「大丈夫ですって」
何を疑っているのやら。
あ、もしかしてアルコールの事?
どうやら、そのサイズのラムレーズンは個人差はあるけど二桁個数は食べなければ、酒気帯び運転にすらならない程度しかアルコール入ってないらしいですよ?
だから安心ってわけでもなさそうだけど。
「ん~、これやこれ」
ほら、玉藻さんとか普通に食べてるし。
まぁ、玉藻さんお酒大好きだし、比較というか、毒見には全く適さないんだけどさ。
「うぅ……」
なんか尻込みしてるな。
玉藻さん、魔法の言葉で背中を押してあげてくださいな。
「これぞ大人の味、やな」
「あ、あたしだって!!」
効果てきめんですねぇ。
こういう子は扱いやすくていいわぁ。
まぁ、そう言いつつもスプーンで掬ったのはほんのちょびっとだし、口に入れるのも恐る恐るなんだけど。
さてさて、反応は?
「っ!? 何この香り!?」
「ラム酒言うてな、お酒の一種やで。もとはサトウキビやったな」
「おさ、お酒なの!?」
「せやよ? だから大人の味なんやないの」
花子さん、スプーン持った手がわなわな震えてるけど……大丈夫そ?
「あ、あたし……」
「?」
「あたし……捕まっちゃう!!」
いきなりそう言って立ち上がったかと思えば、
「ご、ご馳走さまでした!!」
一目散に駆けてお店を出て行ってしまった。
未成年なのにお酒を摂取したっていう罪悪感に負けたみたい。
可愛いねぇ。……そもそも妖怪に未成年とかって概念あるのか?
「ふふ、アイス余ってもうたな。食べるか?」
「流石にもう少し営業時間あるので、今は食べませんよ」
「ほうけ」
だから、営業時間終わってから食べようと思い、冷凍庫に入れようとしたらさ。
玉藻さん、俺の横から掠め取っていくんだもの。
しかも、
「ほなうちのや」
なんて勝ち誇ったような顔で見てくるし。
……さては、ここまで見越して自分だけで二個食べるために。
おのれ、策士め。
「人聞きの悪い、偶然や、偶然」
とか言いつつ、ニッコニコなんだよなぁ。
絶対計算尽くだよ。
*
「そろそろ最後のお客さんやねぇ」
「今日はなんだか疲れましたよ……」
とか言ってるけど、嘘。
毎日疲れてるよ。相手が妖怪だしね。
こう、直視すると怖い見た目の妖怪とか居るし。
下手すりゃ、人ですらないものも居たしね。
「お、噂をすれば、最後のお客さんの登場や」
という言葉に店の入口へと視線を向ければ……。
「すまんが、入らせてもらうよ」
入ってきたのは布切れ一枚。
という事は……、
「一反木綿さん……ですね?」
だよね?
ちなみに疑問形なのは、マジで布だから。
こう、某有名妖怪漫画みたく、手が生えてたり、顔があったりしない。
マジでただの布にしか見えない……。あと、別の妖怪に化ける妖怪なんてのも当たり前に居るし。
「そうさ。他に居ないだろう? こんな妖怪は」
で、ニュッと。
マジでいきなり。何の前触れもなく、腕が生えて顔が出現。
この時、悲鳴をあげなかったことを褒めて欲しい。
というか、不意打ちやめて。
心臓に悪い。
「む、驚かなかったか。ならば巻き付いて……」
「心臓縮みましたよ。やめてください」
「昇に危害加えたら、許さへんよ?」
「ほっほ、怖い怖い」
俺にとっちゃああんたのが怖いよ……。
「ほいで? 何をご所望や?」
「そうさなぁ、この間と同じく、この店で出せる、一番軽い食べ物。それも、あの空に浮かぶ雲みたいな食べ物がいいなぁ」
その注文なら絶対に綿菓子だと思うじゃん?
でもさ、
「同じ注文でこの前食べたあの甘いフワフワしたやつ以外で頼む」
二度目なんだなぁ、この布来るの。
しかも前回は最初から顔とか手とか出てたわけで……。
俺が驚いた理由、分かってくれた? 布から妖怪になるビフォーアフターなんて、誰が驚かないんだって話。
にしても、綿菓子以外で雲みたいな食べ物か……。
何作るか……。




