おませちゃんですこと
「すごっ!? 外はサクサクしてるのに中のお肉は柔らかくて……。これ、何の肉よ!?」
「豚肉ですよ」
「豚肉ってこんなに柔らかいのね」
お、流石妖怪の中では新参者。
豚肉は知ってるか。でもとんかつは知らないっと。
まぁ、とんかつも出てきたの時代で考えれば最近だしなぁ。
案外、とんかつと花子さんは同程度のタイミングで出て来てたりして。
「この麺料理も美味しいわね!!」
「ナポリタンですね」
「あたしこの味好き!!」
と、元気に口の周りを赤く染めながらナポリタンを食べてらっしゃいますね。
とても微笑ましい。マジで子供のソレだけどね、見た目。
「昇、タバスコ取ってや」
「いつ言い出すかと身構えてましたよ」
玉藻さんに言われたのでタバスコを手渡す。
まぁ、大人のナポリタンって言ったらこれでしょ。
あとは言われてないけど粉チーズも。
満足そうに受け取ってたから、欲しかったんだろうね。
「今のは?」
「ふふ、大人の調味料、や」
「あ、あたしも!!」
玉藻さんが煽るから……。
「辛いので少しずつかけてください」
とか俺が言ってるそばで、玉藻さんは何振りもナポリタンにかけてるんだよな。
マジで真似するなよ? 初めてなんだろ?
「うっ……」
タバスコをかけ終わった玉藻さんから、タバスコを受け取った花子さんは。
まずはタバスコの匂いを嗅いでみて。
鼻の奥にツンとくる匂いに、思わず持っていた手を顔から遠ざける。
「お、美味しいの……これ?」
「慣れると病みつきになるで?」
と、粉チーズを振ってナポリタンをよくかき混ぜ。
フォークに巻いて、一口。
「んふ。ピリリと来る辛みがたまらんわぁ」
なんて、見せつけるように言うんだもの。
花子さんも意を決してタバスコをナポリタンへと振りかけた。
……違うな、振って無いしかけてもいないな。
こう、傾けて先端に溜まった一滴を、ナポリタンに触れさせた、ってのが表現として多分正しい。
つまり、俺とか玉藻さんから見たらほぼ誤差の量のタバスコを使用した……って感じ。
「あたしは大人、あたしは大人」
あのー……別にタバスコかけて食べたからって大人認定はされないと思うよ?
というか、別に大人でもタバスコ使わない人普通に居るし。
「あむっ! ……な、なんだ。何とも――ひっ!」
えーっと、お冷でいいか。
はいどうぞ。
「か、か、からひっ!」
舌出してお冷の中に沈めてるよ。
お行儀悪いぞ~。
「かっかっか、まだまだタバスコは早かったみたいやね」
「べ、べふにこのふらいらんともらいわよ!!」
だったらお冷から舌を引き抜きなさいな。
可愛い可愛い小さな舌を。
「ふ、ふぅ。大した事無かったわね!」
どんな強がりやねん。
どう見ても大したことあったようにしか見えんぞ。
「ふふ」
「あによ!?」
やめとけー?
玉藻さんに喧嘩売っても絶対に勝てんぞー?
「ほら、まだご飯が残っとるで」
「……そうね」
というわけで最後はピラフ。
結構自信作なんですけど……どうです?
「あ、美味し!」
「せやろ?」
あの、作った人いず僕。
玉藻さん、違う。
「なんて言うのかしら? お出汁……とは違う味だけど、とっても美味しい味がご飯に沁みてるの!!」
「言うなれば洋風の炊き込みご飯みたいなもんやからな」
「違うと思いますけど……」
ピラフはどっちかというとチャーハンみたいなもんじゃない?
少なくとも、炊き込みごはんとは違うでしょ。
「例え話やないの」
「そうよ! それに、あたし、ちゃんと作ってる所見てたから、その説明で分かるもん!!」
もん!! って。
もう子供にしか見えませんぞ~。
「一通り食べたみたいやけど、どうや? 大人様ランチは」
「楽しい! もちろん美味しいけど、色んな料理が食べられるもの!!」
「ふふ、大人様ランチもこれ一つやない。次来た時には、また別の大人様ランチが出てくるかもしれんなぁ」
「そ、そうなの!?」
こっち見ないでもろて。
まぁ、トルコライスだけで見ても、とんかつが牛カツだったり、ピラフがカレーピラフになってたりするみたいだし?
これだけがトルコライス――大人様ランチとは言えんわな。
「まぁ、違うかも知れないですね」
「大人って凄いのね……」
何をどう納得したんだ……。
まぁ、いいか。
なんか噛み締めるようにとんかつ食べ始めたし。
ピラフモリモリ食べてるし。
ナポリタンは……かなりおっかなびっくりで、手のすぐ近くにお冷のグラスを用意してるけど……。
あ、食べた。
タバスコがかかったところはさっきの一口で食べきってたんだろうね。
辛くないって事が分かって目を爛々と輝かせてるや。
「ナポリタンも美味しい!」
「よかったよかった」
まぁ、玉藻さんはもう既に食べ終えて、口の周りをしっかりと吹き終わってるんですけどね。
言わずもがなで全然汚れてないみたいだけど。
さてさて、花子さんが口周りを拭いた時の反応が気になりますねぇ。
「ふぅ、ご馳走様!!」
「口周り、汚れとるで」
「なっ!?」
めっちゃ俺を見てきたので、静かにおしぼりを手渡して。
急いで口周りをごしごしと拭いた花子さんは。
「ち、違うの! これは……」
案の定、口周りに付いていたトマトソースで赤く染まったおしぼりを、恥ずかしそうに隠しながら。
「だって、食べるの初めてで……」
それはもう子供のように、必死の言い訳をしながら顔を赤くしていくのだった。




