わがまま……
「だからぁ! 子供だと思われないような料理が食べたいって言ってるでしょ!!」
と、俺に向かって叫んでいるのは、トイレの花子さん。
恐らく、日本で一番知名度がある妖怪……は言い過ぎかもしれないが、絶対に知名度で言うと上位だと思う。
切り揃えたおかっぱヘアーに、白い服。赤い吊りスカートという、見た目はおそらく誰もが想像する花子さんなのだが。
本人の要望は子供だと思われない料理、という何とも曖昧な注文で。
――というか、曖昧な注文多いな、と思いつつ玉藻さんにアイコンタクト。
うるか、なめろう、塩辛とかどうでしょう?
「ダメに決まっとるやろ」
「ぁん?」
ダメか。
食べてたら絶対に子供だとは思われないはずだけど。
あと、この花子さん、ガラ悪くない?
思春期? キレる10代?
「んー……でも大人っぽい料理ですと……」
「ちゃうやろ、子供に思われへん料理やで」
「そうよ」
大人っぽい料理と子供だと思われない料理ってイコールなのでは? と思う今日この頃。
にしても思いつかんなぁ……。
冷蔵庫の中の材料見てれば閃くか?
……思いつかないなぁ。
凄くありきたりな材料しか入ってないし……。
「お子様ランチがあるなら大人様ランチがあるんじゃないの? 名前だけならあたし、知ってるんだから!」
……ふむ?
お子様ランチを名前だけ知ってる。
って事はどんな料理……というか、物なのかは知らないわけだ。
そして大人様ランチ、ねぇ。
面白いじゃん。とすると出来るのは……。
「トルコライス、ですかね」
「ええな」
「???」
トイレの花子さんはピンと来てないみたいだけど、俺と玉藻さんとでの疎通は終わり。
トルコライス……ピラフ、とんかつ、パスタをお子様ランチよろしく一つのプレートに乗せて提供する長崎のご当地料理。
乗ってる料理も、見た目のボリュームもまさしく大人様ランチってわけ。
「デザートはどうします? お子様ランチにはゼリーとか付きますけど」
「買って来とるで」
と言われたので冷蔵庫を確認。
……デザートっぽいものは見受けられないけど?
「そっちちゃう。冷凍庫や」
との事なのでそちらを確認。
……なるほど、ラムレーズンのアイスね。
確かに大人のデザートって感じ。
「じゃあ、食後にはこれで」
「頼むわ」
というわけでトルコライスの調理に着手。
まずは一番時間がかかるピラフ作りから。
人参と玉ねぎをみじん切りにし、ベーコンも一口サイズにカット。
これらを火が通るまで炒めまして、そこに生米を投下。
追加でバターを落とし、米にバターがコーティングされ、米が半透明になるまで炒めていく。
半透明になるまで炒めたら、水、顆粒コンソメ、オリーブオイルを入れて、塩で味の調整。
ザーッとかき混ぜ、蓋をしてこのままおよそ十五分。
その間にトンカツとパスタも作っていかなきゃね。
豚肉は両面叩いて繊維をほぐし、筋切りをして、塩コショウを振り振り。
小麦粉、卵液、パン粉の順番で付けたら、油の中に入れてきつね色になるまでこんがりと揚げます、と。
「そ、そんなに作るの?」
って驚かれたけど、まぁ、トルコライスだし。
これくらいは普通かなって。
「まぁ、こんなもんですよ」
「手際とか……凄いいいじゃないの……」
……こう、ツンデレを好む層の考えが分かるかもしれない。
いや、違うな。ツンデレというかギャップ萌えか?
ガラが悪い相手から尊敬のまなざし向けられるの、滅茶苦茶気分いいな。
……気を取り直して、最後にパスタね。
お湯を沸かして麺を茹で、その間にソースの準備。
ピーマン、玉ねぎ、ソーセージをそれぞれ切って、オリーブオイルで炒めておく。
まぁ、炒める前にニンニクだけをオリーブオイルで炒めて香りを出しておくんですけどね。
で、炒めの仕上げにバターを少し落とすことで濃厚な仕上がりになりますよって。
炒め終わった具材にトマトピューレを絡め、茹で上がった麺を投入してよーく馴染ませまして。
カツをひっくり返し、ピラフの蓋をずらして湯気を逃がす。
さてさて、盛り付けていきますか。
まずはお皿に……大急ぎで用意した千切りキャベツを盛り、そのキャベツに負けないくらいに高さを出してナポリタンを盛る。
その反対側に完成したピラフを盛り付け、最後に揚がったカツを切ってから盛り付ければ完成。
カツにはデミグラスソースが一般的なトルコライスらしいんだけど、今日はとんかつソースで。
俺のせいじゃないよ? 玉藻さんが用意してないのが悪い。
「これが……大人の食べ物……」
あ、これキレる10代じゃないね。
ただ大人に憧れてるだけの子供だわ。
多分思春期。
「昇、ナイフ取ってや」
「何に使うんですか」
「ふふ、内緒や」
で、フォークとスプーンだけでいいだろうと思ったら、まさかの玉藻さんからナイフの注文。
言われた通りに渡しましたけども。
何に使うんだろ。
「あ、あたしも! ないふ!!」
真似して花子さんもナイフ要求してきたし。
……ん? まさか?
と、思って花子さんを確認したら、やっぱり。
玉藻さんの動きをじーっと観察してる。
んで、当の玉藻さんはというと、とんかつをナイフとフォークで切り分ける真っ最中ですわよ。
やった事無いだろ、そんなこと。
いつも通り箸でつまんでザクリでいいのよ。
「えーっと……こう?」
まぁ、花子さんはそんな姿を必死に真似しようとしてるんですけど。
……あ、
「ふふ、ナイフとフォークの持ち手が逆やで」
「!!?」
うん、ご指摘の通り。
っていうかこれあれか? 花子さん、玉藻さんに憧れてる説あるな?
だから真似してる……と。
「い、いただきます」
さて、初めてのナイフに悪戦苦闘してた花子さん、ようやく一口サイズにトンカツを切り分けられまして。
さてさて、大人様ランチが一つ、先鋒はとんかつ。
お味の方はいかがでしょうか?




