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店名の由来

「マジで食えんの?」

「間違いあらへんよ」


 まぁその……なんだ?

 ビジュアルが知ってるご飯とかけ離れてるらしく、全然手を付けようとはしてくれない。

 玉藻さん、ここは一つ皆さんの先陣をですね……。


「えっ!? マジ!?」

「すっご……」


 とか思ってたら、何とお歯黒べったりさんが意を決したように一気にイカ墨パスタを頬張って。

 ……めっちゃ頑張って咀嚼してる……。

 ちなみに玉藻さんを除く三人にはお箸を渡してあって、玉藻さんにはスプーンとフォークを渡した。

 結局箸さえあれば何でも食えるからね。


「どう?」

「どだった!?」


 で、友達二人……どころか俺も玉藻さんも注目する中。

 お歯黒べったりさんが出した感想は……。


「これ、美味しいです!!」


 口元を手で押さえ、感嘆の声を届けてくれました。

 それを聞いて顔を見合わせるギャルズたち。

 そして、


「はむっ!」

「あむっ!」


 ほぼ同じタイミングでパスタをパクリ。

 ……ちなみに、三人ともパスタを音立ててすすってるんだよね。

 ここでは良いけど、ちょっとお高めのレストランとか行ったら気を付けな?

 パスタはすするもんじゃない。ましてや、音なんて立てちゃダメよ。

 まぁ、日本人? 妖怪? なら、間違いなく音立ててすすって食べた方が美味いよ、うん。


「これうっめぇ!!」

「マジやべぇ!!」

「全然味わったことのない旨味が口の中に広がりますね!」

「若干生臭さって言うの? それは感じるけど、そんな事どうでもよくなるくらい美味いし!!」

「イカ墨マジ美味いじゃん! なにこれ! うめー-っ!!」


 ギャル二人が騒ぐ中に、お歯黒べったりさんもちゃんと混ざれてる。

 さて? それではそろそろ種明かし。

 なんで俺がこの料理を作ったでしょうか!!


「ふふ、二人とも、歯、黒なっとるで?」

「え!? 嘘!?」

「マジじゃん!!」


 笑いを隠し、指摘した玉藻さんの言葉に反応し、手鏡を取り出したギャルズは。


「マジじゃん!!」

「あーしらお揃!?」


 イカ墨で、自分の歯が黒くなってることを確認。

 すると、お歯黒べったりさんと肩を組み、お歯黒べったりさんにその黒くなった歯を見せるように強調し。


「わ、私も……真っ黒」


 と、照れながらお歯黒べったりさんがニッコリと返す。


「おはちゃんいつもと変わんねー」

「つーか歯なんて食べたものでこんな簡単に変わるんね」

「その食べ物も、えらい美味かったやろ?」

「マジで最高!! こんな料理初めて食ったもん!!」


 うんうん、笑顔で食ってくれるのは嬉しいぞ。

 だけどな? 女の子が食ったとか言うなっての。


「この変な麵も美味いよね。米の代わりになるってのも納得だわ」

「思ったけどこの料理洒落てね?」

「分かるー。ていうか、こんな料理食べたことあるのあーしらだけじゃね?」

「分かる! 他が食べてたら絶対に自慢してるもんね」

「おはちゃんさ、明日あーしらで自慢しようぜ。ここでこんな美味いもん食ったって」

「えっ!? ……うん!!」


 まぁ、何とも嬉しい笑顔を作ってくれちゃって。

 そんな表情出来るなら、もう大丈夫でしょ。

 えーっと? 歯が黒い事が気にならない料理だっけ?

 その原因は歯が黒い事を弄られたからで、その弄った張本人たちは歯を真っ黒にしながらお歯黒べったりさんと仲良くしてるし……。

 大丈夫よね?


「ふぅ、ご馳走さまでした」

「ごちそーさまでしたー!」


 あらま意外。

 ギャルズはご馳走さまとか言わないって勝手に思っちゃってたわ。

 人は見かけで判断したらダメだね、妖怪だけど。


「とても美味しかったです」

「マジで美味かった! 明日からお客さん押し寄せたらゴメンね?」

「この後みんなで短歌詠みに行かね?」


 なんて言いながら退店していく妖怪三人。

 ……短歌?


「あんたらで言うカラオケやな。ナウでヤングな若い妖怪たちは、短歌読むのにハマっとるんよ」


 ……あの、玉藻さん?

 ナウでヤングなんて、今日日聞きませんよ?

 ほぼ死語ですけど……。


「にしても、アンチョビあるんやから使いや? コンソメのおかげでどうにかなっとったけど、本来はアンチョビ入れるもんやろ?」


 気恥ずかしいのか料理にダメ出しまでしてきて……。

 まぁ、言ってることは一理あるか。


「そう言えば、友達に自慢するとか言ってましたけど、大丈夫ですかね?」

「ん? 何が?」


 フォークにイカ墨パスタを巻き付け、上品に食べていた玉藻さんへ一つ質問。

 その質問に、あまりピンと来てない様子だけど……。


「いや、ここに押し寄せられたら、厨房は俺一人なんですから捌ききれませんよ?」

「なんや、そんな事かいな」


 そんな事て。結構死活問題だと思いますけれど?


「安心しぃや? この場所は、そもそも必要な妖怪以外には見えへんからな」

「……見えない?」

「そうや。もう少しで現代に出て行ってしまいそう、そんな瀬戸際の妖怪たちが最後に縋るのがこの場所や。名前見てみぃ。わざわざ『せまきもん』なんて付いとるんはその意味やで?」


 確かに、ずっと気になってはいたんだよな。

 この店の名前。おおよそ食事処とは思えないし。


「この店を見つけるのも狭き門。この店の料理を食べて、それでも現代に出て行くのはさらに狭き門。せやから、『せまきもん』なんよ」

「なるほど。てっきり、鬼門と何かが掛かっているのかと思ってましたよ」


 なんて軽口を言ったら。


「まぁ、それもあるわ」


 とか言われた俺の気持ちを答えなさい。

 正解は、冷や汗が出てきた、でした。

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