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黒くなりけり

 冷蔵庫にて存在感を放っていた、新聞紙に包まれた何か。

 ちょっと中を覗いたら――何という事でしょう。

 イカとバッチリ目が合ったではありませんか。

 ……しかも高級なアオリイカだし。

 毎回、どこで仕入れてくるんだよ。


「パスタ麺に墨を練り込めば歯が黒くならへんらしいけどな?」

「食べると歯が黒くなるから作るんでしょうに。それに、今から麺を作ってたら食べられるのは明日になっちゃいますよ」


 たまに訳分からん事を言い出すんだよな、玉藻さんって。


「あの……連れてきましたけど……」


 なんて言ってたら、お歯黒べったりさんがお友だちとやらを連れて来たらしい。

 ……お歯黒べったりさんみたいに一目で妖怪と分かるような見た目の人たちじゃあないな。

 どちら様とどちら様で?

 玉藻さん、解説よろしゅう。


二口(ふたくち)絡新婦(じょろうぐも)やな」

「あー……」


 どちらも聞いたことくらいはあるな。

 二口ってのは確か、後頭部に口がある妖怪だったよね。

 髪の毛を自在に動かして獲物を捕らえ、後頭部の口に運んで食べる、みたいな。

 絡新婦もネームバリューだけなら中々なんじゃないか?

 俺は名前以外には、蜘蛛の妖怪って事しか知らんけど。


「なんであーしらまでここに来なくちゃだったん?」

「そうそう、おはちゃんだけで行く言ってたじゃん」


 ……こう、妖怪に年齢とかの概念があるかは分からないけどさ。

 この連れられてきた二人、そこはかとなくギャル感あるな。

 大丈夫なのか?


「その……玉藻さんからの提案で……」

「あー、たませんせーが言ったならしゃーないや」

「だねだね」


 ……たませんせー?

 玉藻さん、先生なんて呼ばれてんの?


「なんか言いたい事でもあるけ?」

「ナンニモゴザイマセン」


 似合わねー。

 ……いやでも、眼鏡付けて髪とかまとめて上げて授業とかして欲しい気持ちはちょっとあるな。

 別に俺にそういう趣味とかないけど。


「ほら、はよ作る」


 あ、はい。

 玉藻さんに急かされたので、イカ墨パスタ、作っていきましょう。

 まずはイカの解体。

 胴体に包丁を入れ、綺麗に開いて甲を取り出し。

 薄い膜があるから、細心の注意を払ってそこに包丁を入れ、開く。

 そしたらここからは素手。墨袋を破かないように剥がしていくっと。

 だから細心の注意を払ったんだよね。万が一にも墨袋を破くなんてあっちゃダメだから。


「すっげ、イカってそうなってんだ」

「ちょっと生臭さするくね?」

「でも……イカなら食べた事ありますけど……」


 なんて覗き込んでる三人の視線を受けつつ、イカの身体から墨袋を剥がし。

 最後に、身体と繋がっている所を包丁で切って、一旦ボウルへ。

 そしたら、イカの内臓とかを洗っていく。


「ちなみに、イカとタコの墨の違いは何か知ってるか?」

「えー、知らなーい」

「たませんせー教えてー」


 のんきな会話ですわね。

 気にせず行きますわよ。

 洗い終わったらゲソと胴体に分けまして、今回ゲソは使わないからキッチンペーパーでしっかり水分を取ってから冷蔵庫へ。

 もちろん、新聞紙で包んでからね。


「タコの墨は煙幕……要は、外敵の目くらましの為の墨や。この墨は粘り気が無くてサラサラしとる。水中やと広範囲に広がるんやな」

「へー」

「対してイカの墨は囮。粘り気があって水中でもある程度形を保つんや」

「それで囮? でもイカは白くて墨は黒いっしょ? それで魚騙せるの?」

「ほな、墨が美味しかったらどうや? イカを追わずに、墨だけで満足させれば立派な囮になるやろ?」

「……え、じゃあ今日はイカの墨食うの!?」


 女の子が食うとか言うんじゃないよ全く。

 お歯黒べったりさんを見習いなさいな。

 前のめりに俺の様子を観察してるぞ。

 ……目はないけど。


「日本やと珍しいんやけどな。南蛮とかやと、料理に使ったりするんや」

「へー」


 玉藻先生の座学を聞きながら仕込みの続き。

 エラと皮を取り除き、さらに薄皮を包丁でこそぎ落としまして。

 薄皮まで向けたら、一度塩水に潜らせて洗いますと。

 それを食べやすい大きさにカットすれば、これでイカの下準備は完成。

 続いて麺。

 鍋にお湯を沸かし、塩一振りとオリーブオイルを少し垂らし。

 固まらないよう、捻りを加えてパスタを投入。


「今の何!?」

「うちらで言う米やな」

「米茹でんの!?」


 米ちゃうわ。パスタやわ。

 って事で、茹でてる間に待望のイカ墨の準備ですわぞ~。

 まずオリーブオイルをフライパンに入れ、そこに刻んだニンニクをドン!

 弱火でじっくり香りを出していくー。

 香りがしっかりと出てきたら、そこに切ったイカを投入しまして。

 しっかりと炒めたら、白ワインを投入。

 アルコールを飛ばしますぞ~。


「今のは!?」

「酒やね」

「お酒料理に使うの!? ヤバッ!!」


 いやいや、みりんとか普通に日本料理でも使うやろがい。

 というか日本酒ですら調味料としてポピュラーだろうに。

 ワインのアルコールが飛んだら、刻んだ固形コンソメと塩、ブラックペッパーで味を調えて……。

 ここで登場! 取り出したイカ墨!!

 もちろん袋を破いてボウルに絞り出しておりますと。

 これをスプーンで掬っておよそ二杯……多分こんなもん。

 それを全体にしっかり馴染む様に混ぜていくっと。


「ヤッベ、一気に真っ黒じゃん!?」

「それ本当に食えんの!?」

「……」


 二口さんや絡新婦さんが好奇心を見せている中、不安そうにこっちを見つめているお歯黒べったりさん。

 いや、口しかないけど多分こっちを見つめてるはず。

 大丈夫ですって、安心してください。

 麺が茹で終わったので一旦ザルに引き上げまして、こいつをイカ墨のフライパンにドーン!!

 麺にしっかり絡めて完成!!

 マジで見た目真っ黒のパスタですわよ。

 全然セピア色じゃない。まぁ、セピア色ってイカの体色の事らしいし。

 あとはお皿に盛りつけて完成!!

 盛り付ける時は立体感を意識して、高さ出してけ出してけ~。

 最後に粉チーズをしっかりと振り、


「お待たせしました、イカ墨パスタです」


 さぁさ、おあがりよ!

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