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レアな妖怪

「ほ~、こら珍しいわ」


 と、ご機嫌に油淋鶏とハイボールを楽しんでいた玉藻さんが声を上げると。

 店の扉が開き、入ってきたのは……。


「スマンねぇ。開いてるかい?」


 顔は人間に近く、嘴が曲がっており。

 身体は蛇。背中には羽が生え、足は鳥の物という物凄く不気味な姿であり。

 正直、俺にはなんて名前の妖怪か分からなかった。

 ――まぁ、玉藻さんは分かってるんですけどね。


「姿現すの久しぶりなんちゃう?」

「最近は儂の出る幕が少なくなってなぁ……」


 なんて話してますけど、あの、説明を。


「昇、こいつは以津真天(いつまで)言うてな。無残に死んだ者たちの怨念が集まった姿や」

「最近じゃあ飢えや戦で死ぬ者たちも少なくなって、やっと隠居出来そうなんだよぉ」

「嘘いいや。隠居する予定の奴が来ないな場所に来るかいな」


 ……妖怪にも隠居とかあるんかな。

 ありそうではあるけど。


「ほいで? 何を欲してここに来たんや?」

「そりゃあ、もちろん美味しいものをね」

「他には?」

「なるべく動物を使ってない食べ物がいいねぇ」

「ヴィーガン食ですか」

「精進料理でも食っとけばええやろ」

「そんな事言わないでよぉ。精進料理はもう散々食べたから、まだ食べたことのない料理がいいのさ」


 フーム……。

 何を作ろうか。

 面白そうなのは……。


「天ぷらとかやったら楽やねんけどなぁ」

「ですねぇ」


 玉藻さんがああ言うって事は、天ぷらではない、と。

 んじゃあ何にしよう……?

 大豆ミートとかあれば大豆ミートハンバーグとか言えたんだけど。

 ――お、いい感じにレシピが降りてきたかも。

 それ作るか。


「決まったみたいだねぇ」

「ええ、コロッケを作りますよ」


 というわけで選んだのはコロッケ。

 まずはじゃがいもの皮を剥き、塩茹でにしまして。

 その間に玉ねぎをみじん切りにし、追加でエリンギもみじん切り。

 玉ねぎが透き通るまで炒め、炒め終わったらエリンギを投入して火を通す。

 塩コショウで味付けしたら、ジャガイモが茹で上がるまで放置。

 その間に登場するのは普通は絶対に使わないであろうトマト!

 こいつをまず半分に切り、ヘタを取って中のゼリー状の部分をスプーンでくり抜き。

 そろそろじゃがいもが茹で上がったかな? ……うん、大丈夫そう。

 ザルに上げ、水分を飛ばす目的でこっちも少しだけ放置。

 その間にトマトの下処理を終わらせまして。

 炒めた玉ねぎたちをじゃがいもと一緒にボウルに入れ、ジャガイモを潰しながら混ぜていく。


「見たことない食材が多いねぇ」

「せやろ? 昔の精進料理と今の精進料理、全然ちゃうで?」


 という言葉を聞きつつ、コロッケのタネを仕込み終えましたら。

 そのタネを、先程中をくり抜いたトマトに詰めていくっと。

 詰め終わったトマトはもう片方とピッタリとくっつけ、見た目は一つのトマトに戻しつつ。

 ここに小麦粉をまぶし……。

 って、そう言えば卵液使えないのか。

 んでもここまでやっちゃったしなぁ……。

 よし、ここでオリジナルチャート発動。

 薄くごま油を塗り、そこにパン粉をまぶしていく。

 不味くはならないから大丈夫でしょ。

 んで、後はこれをサラダ油で揚げるだけっと。


「ふふ、よぉ思いついたな?」

「何の事です?」


 玉藻さんには卵液が使えなくて焦った事を見透かされてるっぽいけど、ここはとぼけておくよ。

 だって、以津真天さんは俺がそんな事になってるなんて露知らずだし。

 コロッケを盛るお皿に千切りにしたキャベツを盛り付け、ご飯とすまし汁も添えまして。

 あとはコロッケを盛り付けたら、ヴィーガン用コロッケ定食の完成ですわ。

 すまし汁の出汁には昆布と干ししいたけの戻し汁を使ったし、大丈夫なはず。


「そろそろええで」


 という玉藻さんの言葉に頷き、コロッケを引き上げ。

 一度バットに取り、余分な油を落として盛り付ける。

 本当は半分に割りたい所なんだけど、これはかぶりついた時に反応して欲しいし我慢ガマン。

 外側のトマトの赤が映えて、かなり見栄えいいんだけどね。


「お待たせしました、コロッケ定食になります」

「なぁる程、知らない料理は心が昂るねぇ」


 と言って以津真天さん、羽から生えた手で器用に箸を掴むと。

 コロッケに箸を突き立て、一口!

 ……持てるんだ。かぎ爪で。


「ほぉ!! このざっくりとした食感と、中の食材の瑞々しさ!! その中から出てきたホクホクとした食べ物は、どれもこれも儂の知らない食材ばかり!!」

「塩コショウがやや強めに振られとる分、何も付けんと美味いなぁ」


 一口食べた感想だけど、これは絶賛としていいんじゃないか?

 玉藻さんだけ、肉は入ってへんのか、とか思ってそうな表情だけど。


「思ってへんわ」


 思ってないそうです。

 というか読むなっての。人の思考を。


「その言い方だと普通は何かを付けて食べるのかい?」


 あ、玉藻さんが余計な事言ったから。

 どうするよ、ウスターソースもとんかつソースも魚介エキスとか入ってるから以津真天さんには出せないんだぞ……。


「えーっと……人それぞれやけど、ポン酢とかどうや?」


 ……ポン酢? コロッケに?

 俺はしないけど……。

 あ、ポン酢は基本的に動物性食材使って無いから出せるってこと?

 自分が窮地に立たせたから救いの手を差し伸べた感じ?

 知ってます? ほぼマッチポンプですよそれ。

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