また曖昧な……
「む? さっき食べたのとは乗ってる具材が違うな」
「そもそも色合いから全然違いますよ?」
「わーい! 新しいピザだー!!」
シーフードピザを眉を挙げて確認するかまいたち夫婦。
子供みたく、出された料理に純粋に喜べばいいのに。
「エビにイカ……随分ご馳走じゃねぇか」
「アサリも乗っていますわよ」
「早く食べようよ~!!」
ほら、観察ばっかりしてるから、子供が我慢出来なくなってる。
……主にその原因は、隣でさっさと美味しそうに食べてる玉藻さんのせいだろうけども。
「お、おう」
「ごめんなさい、すぐに食べましょうね」
子供の言葉に観察をやめた夫婦は、俺からピザカッターを受け取ると。
「ぬぅいっ!!」
掛け声と共に一閃。
ただそれだけで、ピザが奇麗に六等分に切り目が付いていた。
「父ちゃんカッコいい!!」
「素敵ですよあなた!!」
「へへ、よせやい」
……うん、誇らしげにしてるところ悪いんだけどね。
どうやって一回の素振りで六等分にしたのかな~?
最初は両手でピザカッターを持ってたのに、振った後は片手になってた理由は?
あと、左手が背中の鎌に伸びていたのは気のせいですか?
……家族の目は誤魔化せても、俺の目は誤魔化せないぜ。
――誤魔化せなかったところでどうもならないけども。
「!? これも美味しい!!」
「牛乳の味が微かに……」
「ねっとり絡みつくような美味さで、エビやイカに纏わりついてやがる!!」
まぁ、シーフードピザもそりゃあ美味いよな。
俺は照り焼きの方が好きだけど。
「うちはデザートピザなんかも好きやけどなぁ」
「デザートワインとかと一緒に、ですね」
デザートピザ、好きなんだよなぁ。
……自分で作ったやつしか食べた事無いけど。
この場所、ピザ屋とか無いし。
「エビはプリプリ、イカはシャッキリ。アサリも噛むといい出汁を出しやがる」
「お肉とちぃずの組み合わせも合ってましたけど、海鮮系にもよく合いますのね」
「僕こっちも好き―!!」
かまいたち親子がチーズを伸ばしながら食べておりますわ。
これあれだな。多分玉藻さんがよく伸びるチーズを選んで買って来てるんだ。
銘柄とかは俺は詳しくないけど。
「乗ってるキノコも美味いな!」
「あまり見ない形ですよね。あと、このお野菜のシュッとした香りや辛みがまた」
「マッシュルームに玉ねぎですね。どちらも海外の物になります」
玉ねぎは今だと凄く身近だけどね。
実は江戸時代の終わりくらいまでは、一般的な食材じゃなかったらしい。
日本に輸入された当初は観賞用だったって話だし。
「珍しい食材があるんだな」
「ちぃずもとても珍しいですわよ?」
「でも全部美味しいよ?」
「そうだな」
結局、こういう時の子供の純粋さって最強だよね。
というわけで、かまいたち親子、綺麗にピザを完食っと。
「ふぅ、美味かったわ。ごっそさん」
玉藻さんもピザ二枚完食と。
一応かなり小さく作ったけど、それでも二枚完食は凄いよ。
お粗末様でした。
「たまには、切れねぇものがあってもいいのかもしれねぇな」
かまいたちのご主人が立ち上がりながらそう言えば。
「そうですね。ちぃずのように美味しいものでしたら、その通りかもしれませんね」
同じくかまいたちのご婦人が立ち上がりながらそう言って。
「たまには切れないものがまた食べたくなっちゃうかも!!」
最後に子供が勢いよく椅子から飛び降り、夫婦の間に入っていく。
「今日はいい勉強になった! ご馳走さまだぜ!」
「また何か思う事があれば、寄らせていただきますね」
「次はもっと別のピザがいいなー!!」
と、店を出ていくかまいたち親子を見送り、お辞儀をし。
「次は照り焼きなんてどうです?」
「お、ええな。ビールでキューっとやりたいわ」
なんて玉藻さんと会話をしていたら。
ポツリ、ポツリと雨が降ってきた。
「雨ですね」
「まぁ、たまに降る分には困らへんからな」
なんて言いつつ店の中に戻れば。
カツン、カツンと勢いのいい下駄の音が近付いてくる。
……これは。
「悪い! 入らせてくれ!!」
そうして、勢いよく店の扉を開けたのは……唐笠お化け。
足は一本、目は一つ。
今では見る事が珍しい、唐傘が体なそのお化けは。
その唐傘から生えた、意外に太い腕で自分の身体に付いた雨粒を拭うと。
「すまん、気分が晴れるような料理はないか?」
早速料理の注文をしてくるのだった。
……せっかちかな?
*
「いやぁ……遊んでたら急に降ってきやがってよぅ」
「通り雨……と呼ぶには降り続けとるな」
注文を受け、冷蔵庫の中身と相談中。
玉藻さんと唐笠お化けさんの会話に聞き耳を立てつつ、メニューを考える。
そもそも、気が晴れるような料理いず何?
何か食べて、「あー、気が晴れたー」なんて感想持った事無いが?
注文難し過ぎない?
「ほんで? 気が晴れるっちゅー料理はどんな料理や?」
あ、玉藻さんナイスパス。
「なんつーか、食べて今みたいに雨でしとしとした気分じゃなくてよぉ。もっとこう……カラッと晴れ渡る様な料理が食いてぇんだよ」
……う~ん……分からん。
「つまり、カラッとした料理でええか?」
「そうだなぁ……まぁ、そう言えるか」
カラッとした料理……?
また辛い系? と思ったけど、あまりピンとこない……。
――ん? マジで? まさか過ぎない?
カラッとって、それでいいの?
んじゃあ作る? カラッとした料理。
居酒屋の定番、のん兵衛のツマミ。
鶏のから揚げ……作っちゃう?