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今日も疲れた……

「これが……寿司?」

「俺たちが知る寿司じゃあないぞ……」

「握り寿司と言って、作り方は見ていただいた通り」


 まぁ、当然だけど、寿司握ってる――というか、米とすし酢を合わせたあたりからずっとガン見されてた。

 ……ちょっと形が歪んでる所があるけど、初見の牛頭さんや馬頭さんにゃ分からんでしょ。

 内緒内緒。


「と、とりあえず食べてみるか……」

「このまま食べられるんだよな?」


 と確認してきた牛頭さんと馬頭さん。

 う~ん……江戸の寿司って言うなら酒を煮飛ばした炒り酒で食べてたらしいんだけど、肉寿司だしなぁ。

 やっぱり、肉には醤油でしょ。

 というわけでこちらお醤油です。


「これに付けてどうぞ」

「? この黒いのにか?」

「香りは悪くなさそうだが……」


 ちなみに現代で使われているような醤油も江戸時代に出てきた物。

 それまではたまり醤油だったりしたらしいね。


「結構塩辛いので、付ける時は少量で」

「わ、分かった」

「それじゃあ……」


 というわけで肉寿司を箸で掴んだお二方は、シャリの方に醤油を付けまして。

 醤油にご飯粒を落としながら、肉寿司を口へ。


「うぉ!? うめぇな!!」

「炙ったのと生じゃあ全然違うじゃねぇか!!」


 あ、そんな反応なんだ。

 でもでも、タルタルステーキも美味しかったでしょ?


「さっきの料理だと、肉の臭みを消すために色々混ぜられてたが、これにはワサビのみ」

「こっちもショウガだけだが、そのショウガが肉の旨味や甘みを引き立てやがる!!」

「う~ん、美味し。火が通ると肉汁も溢れやすくなるしな。この香ばしさもたまらんわ」


 結局さ、ワサビと生姜さえあれば、肉の臭みはどうとでもなる。

 ……嘘です。ちゃんとした下ごしらえと熟成をしてくれてた玉藻さんのおかげです。

 

「はい、おしぼり」

「お、気が利くやんか」


 んでまぁ、肉寿司を手で食べてた玉藻さんにおしぼりを差し出せば、そんな言葉を。

 おしぼり欲しくて食べた手をあっちこっちに右往左往させてたの誰ですか全く。


「その……これは手で食っていいものなのか?」

「はい。箸じゃなくても大丈夫です」

「ついでに食べ方も教えとくわ。まず寿司を横に倒して、ネタとシャリを掴んでやな」

「ほうほう」

「ひっくり返して、ネタの方に醤油を付けてそのまま口の中や……美味し」


 おしぼり渡して手を拭いたと思ったら、すぐに寿司に手を伸ばすんだから……。

 なお、この説明を聞いたお二方はやりたくてたまらないのか目を輝かせている模様。


「えーっと? こうして寿司を倒して……」

「ネタを醤油に付けるだったな……」


 ほら、早速言われた通りに手で食べ始めた。

 玉藻さんのおかげか上手に出来て、心なしか満足感も得てますねコレ。


「手で食うってのはちょっとこう……」

「行儀が悪い気がするが、こうして食うと確かに美味い」


 気にするなよ。

 地獄の獄卒が行儀とか。

 ていうか今更だけど箸の使い方上手かったなおい。

 もしかして実はしっかりした育てられ方してんのか?


「酸い飯ってのも不思議な感じだが、しっかりと肉にあっている」

「初めてだったが、お前の肉は美味かったぞ牛頭!!」

「お前の肉も抜群に美味かったぞ馬頭!!」


 だからぁ! お前の肉とか言うなって言ってんの!!

 今後食べる時にチラつくでしょ!! あんたらの顔が!!


「満足したけ?」

「おうよ!! 今後こいつにむかつくことがあったら、ここにきてこいつの肉を食う事にすらぁ!!」

「こっちの台詞だ!! というか、ここに来るなら声掛けろ!! 行くから!!」


 仲いいなぁ。

 結局立ち上がった時にふらつきながら、お二方は肩を組んでご機嫌に出ていきましたわ。


「ん、そろそろ時間やし、店閉める準備してええよ」

「了解です」


 さて、次のお客さんは? と身構えてたら、玉藻さんからそんな事を言われた。

 もうそんな時間か。


「洗い物はこっちでやるんで、掃除をお願いします」

「先に賄い作りや」

「ハイハイっと」


 で、本日使った食材の残りを使って、俺の夜? 深夜? 朝ごはんを作っていく。

 ……って言ってもなぁ、こんだけの食材あったら、マジで何でも作れちゃうんだよなぁ。

 まぁ、玉ねぎ、ジャガイモ、牛肉で肉じゃが作って、馬肉はそのまま馬刺しで。

 カボチャどうしようか……きんつばにでもしちゃうか。

 俺の晩餐用の瓶ビールもちゃんとあるし、米はまだあるっと。

 豆腐もあったけど冷ややっこで食べましょ。

 ショウガ乗せて、上から醤油ではなく塩をかける。

 俺は冷ややっこには塩派なのだ。多分少数派。


「毎度豪華やなぁ」

「玉藻さんがそれまで加味して買って来てくれますからね」

「感謝しとるならきんつば寄越し。うちの大好物なんよ」

「いいですよ、はい」

「いけずやなぁ。あーんしてや」


 急に何言いだすんだこの九尾。

 口開けたままずっとあーん待ちだし。

 舌を動かすな舌を。

 ……ったく。


「あーん」

「あ~ん」


 結局負けてかぼちゃのきんつばを玉藻さんへとあーんして食べさせてやった。

 

「ふふ、勝てるはずあらへんやん」


 読むな、心を。


「美味いなぁ、このきんつば。控えめな甘さが最高やわ」

「お茶淹れましょうか?」

「よろしゅう」


 結局、この後賄いを食べてビールを――玉藻さんにお酌して貰いながら飲み。

 洗い物や掃除を終えて、店を閉める。

 その頃には、町からは妖怪一体すら消え失せており、同じくこの場所に囚われた何人かの人間が、同じく店を閉めている様子が伺えて。

 朝日が昇ってくるのを背中に、俺は家に戻って布団に潜り込むのだった。

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