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追加注文

「ふむ……」

「悪く……ねぇな」


 なんて牛頭さんも馬頭さんも言ってるけど、二人とも瞼がピクピク動いてますわよ?

 美味しいなら素直にそう言えばいいのに。


「美味いなぁ。馬肉の方はしっかりと弾力のある肉で、甘みが強いわ」


 ほら、玉藻さんを見習いなよ。


「それだ! こいつの肉はプリっとしてるって言うか、コリコリしててさ! それを噛むために力を入れたら、歯を受け止めながらゆっくり潰れていきやがってよ! その過程で甘い肉汁を出しやがるんだ!!」


 見習えとは言ったけどさぁ。

 ちょっと勢いが凄いね、大丈夫かな?


「牛肉の方はしっとりした柔らかさで、肉汁は馬肉ほど甘くは無いわな」

「そうだ! こいつの肉は跳ね返すような弾力こそないが、それでも柔らかく歯を受け止めやがる!! そうして受け止めながら絞り出された肉の汁は、舌を奇麗に覆って旨味を直に感じさせやがるんだ!!」


 あとさぁ、ナチュラルにこいつの肉って言うのやめて欲しい。

 今後馬肉や牛肉を食べる時に、あなた達の顔がチラついちゃう気がしてならない。


「次はパンに乗せて食うてみや」

「ぱん?」

「こいつの事か?」


 と、玉藻さんに促され、スライスしたライ麦パンにタルタルステーキを乗せ。

 パクリ。

 ……どうなる?


「おお……」

「米にはあまり合わないと思っていたら……」

「んー、美味し」

「「ぱんとやらに合う!!」」


 口にあったか、ホッとするわ。


「このぱんとか言う食べ物凄いな!! どっしりとした存在感で、肉の旨味にちっとも負けてねぇ!!」

「香草たちの香りも、このぱんから香る小麦の匂いと喧嘩してねぇしな!!」

「そこにビールを流し込むんよ」

「なるほど!!」


 玉藻さん、ちゃんと食べ方の手ほどきしてる。

 こういう所の面倒見はいいんだよなぁ。


「くぅ~~~!! この発泡の刺激と苦み、喉越しの良さが相まって肉の美味さが倍増だぜ!!」

「限界と思うまで冷えているのもいいな!! 口の中の熱気を覚ましつつ、仕事終わりの渇いた体を潤してるみてぇだ!!」


 あ、ヤバい。

 ビールのレビューはやめてくれ。

 俺に効く。

 ……仕事終わったら俺もビールで一杯やろう。


「お代わり!!」

「俺もだ!!」

「はいはい」


 牛頭さんと馬頭さんが差し出したジョッキにビールを注ぐ玉藻さん。


「昇、瓶ビール追加やで」

「ほいほい」


 そんな玉藻さんにビールを供給する俺。


「ほな最後にマスタードも乗せて食べてみ?」

「ますたぁど……」

「これの事だよな……?」


 と、箸で皿の隅に乗っているマスタードを突く牛頭さん。


「こうしてパンに乗せて、その上にマスタードを少し。これが最高にビールと合うんよ」

「なぬ!?」

「びぃると合うなら試さねぇ手はねぇ!!」


 という事で、玉藻さんに倣ってマスタードを付けてパクリ。

 結果は……。


「ん゛っ!? は、鼻に来るのか……」

「からしみてぇな感じだな。……あと、この粒が結構刺激がつえぇ」

「いわゆる洋カラシって言われるもんや。海の向こうのカラシっちゅー意味やな」

「ほー、日ノ本以外にもからしが……」

「確かに肉に合う。このますたぁどの辛さが、肉の甘みを膨らませているな」

「肉の脂のくどさを軽減してるようにも思える。そしてそれらを包んでの見込めるぱんの美味さよ」


 マスタードも大丈夫そうだね。

 まぁ、ワサビやからしは昔からあるみたいだし、そっち系の刺激は慣れてるんだろうね。


「んぐっ! グッ! ぐっ! プハーっ!! 酒がうめぇ!!」

「ヤバいな、止まらんぞ!!」


 という言葉通り、タルタルステーキをパンに乗せ、マスタードを乗せて食べ。

 咀嚼し、直後にビールというローテーションが完成。

 結局そのまま、タルタルステーキが無くなるまでその動きを繰り返し。


「むぅ……」

「あっという間だったな……」


 と、アルコールが回ったか、顔を赤くさせた二人が名残惜しそうに最後のワンサイクルを終え。


「ほい、これで終いや」


 玉藻さんが、ビール瓶をひっくり返して最後の一杯を注ぎ、それを飲み干して完食。

 ……そういや、どっちが美味いか、なんて争ってたはずだけど、多分もうそんな事どうでもよくなってるな、うん。


「昇」

「なんでしょう玉藻さん」

「握りが食べたいわ」

「肉寿司を作れと?」


 終わったかな? なんて思ってたら、何と玉藻さんから追加注文。

 肉寿司ねぇ……。酢飯から作らなきゃじゃん。


「寿司?」

「今からか?」


 ほら、牛頭さんも馬頭さんもなんで? みたいな顔してるし。

 寿司はやめときませんか?


「寿司なんて、魚と米とを腐らせた奴だろ?」

「それを肉でやるのか?」


 ……あー。

 そっか、昔の寿司って言えばそっちか。

 熟れ鮨(なれずし)ね。

 鮒寿司とかが有名なやつ。

 ……確か、今の握り寿司の原型が出来たのは江戸時代だっけ。

 牛頭さんも馬頭さんも知らないわけだ。

 じゃあ作るしかないか。


「その鮨とは違うんで、まぁ見ておいてください」


 米をおひつに移し、米酢と砂糖と塩を混ぜ合わせてすし酢を作り。

 米に回しかけてしっかり混ぜる。

 両方の肉を柵のように切り、厚みを考えてスライス。

 馬肉の方は弾力があるからやや薄め。

 牛肉の方は馬肉よりちょっと厚め。

 後は握るだけっと。

 別に修業したわけでも無いから、形がある程度整ってれば多分いいはず。


「昇、離れとき」

「へ? ……うわっ!?」


 握り終わって声をかけられたと思ったら、急に寿司から炎が出て。

 一瞬で肉を炙って火が消える。


「狐火出すなら言っておいてくださいよ」

「声はかけたやろ?」


 突然の玉藻さんが出した狐火に驚かされたものの、炙り寿司にして貰えたので良しとしよう。

 後は、馬肉の方に刻み生姜、牛肉の方に擦ったわさびを乗せて完成。


「炙り肉寿司です」

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