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妖怪……?

 かぼちゃの冷製ポタージュを受け取った二人? 二体? はそれぞれ別の動きをし。

 スプーンを受け取った雪女さんは、不思議そうに周りをキョロキョロし。

 そんな雪女さんを気にも留めず、玉藻さんはスプーンでスープを掬って口へ。

 スプーンの動きは手前から奥。

 ……この人、どこでこういうマナーを学んだんだ?

 ――まぁ、奥から手前でもそれはそれでマナーなんだけどね?

 ここは日本だし、フランス式でもイギリス式でも文句はないよ。

 ……日本だよね?


「あ、そうして飲むのですね」


 ここで、スープの飲み方が分からなかったらしい雪女さんも動いた。

 玉藻さんの真似をするように、手前から奥へスプーンを動かし。

 スプーンの縁に口を付け、音を立てずに口の中へと流し込む。


「ふわぁ……」


 口に入れた瞬間そんな声出したら、何かあったかとびっくりするじゃん。

 でも、表情から見るに問題があったわけじゃあ無さそう。

 目を見開いて、輝いた目でスープをガン見してるもんね。


「えらく甘いかぼちゃやね」

「調達してきたのは玉藻さんのくせに」

「私、驚いてしまいました!」


 玉藻さんがニヤリと笑い、さらにスープを一口。

 ちなみに雪女さんの手はほとんど止まることなく口へスープを運び続けていたりする。


「こんな水菓子のような甘い南瓜、初めてです!!」


 あ、カボチャ自体は知ってたんだ。

 でもまぁ、今手に入るかぼちゃと雪女さんの時代のかぼちゃ、どっちが美味しいかって言ったら恐らく今だよなぁ。

 品種改良万歳。


「舌触りは滑らかなのに、濃厚で口一杯に風味が広がって……。まろやかな滑りに思わずうっとりしてしまいます」

「味吸ったクルトンもええわ。やっぱスープにはクルトンやね」

「……くるとん?」

「パンを炒めたりしたやつの事です。スープに入ってるそれですね」


 クルトンについて説明してあげたら、いそいそとスプーンでクルトンを掬って、口へ。


「カリッとした食感と香ばしさが、すぅぷの甘さと見事な調和をしていますね!!」

「パセリの香りもええし、今日のスープは両方ともええ出来やわ」


 ……う~ん。

 玉藻さん、他の料理の時はこうして褒めてくれるんだけどなぁ。

 悲しいかな、まだいなり寿司で美味いと言わせたことないんだよなぁ……。

 何がダメなんだろ。


「冷ます必要のないすぅぷ……いえ、冷たくて美味しいすぅぷ、ご馳走さまでした」

「満足できたか?」

「はい!!」


 気が付けば、ビシソワーズのカップは空、かぼちゃの冷製ポタージュのお皿も奇麗に空っぽ。

 大層満足してくれたらしい雪女さんは、笑顔で手を合わせてごちそうさま。

 鼻歌を歌い、軽い足取りでお店の出入り口へと走っていき。


「本当にご馳走さまでした!」


 そう言ってもう一度笑顔を向けた雪女さんを見送り……十秒後。


「昇」

「はい」

「暖房付けてや」

「よく我慢しましたね」


 冷え性の玉藻さんから、冷房を暖房へと変更せよと指示が来た。

 でしょうね。

 にしても、雪女さんの近くに居て寒かったろうに、よく途中で言い出さなかったよ、うん。


「温かい緑茶です」

「お、気が利くやん」


 と、少しだけ震える手で緑茶の入った湯呑を受け取ると。


「はぁ……温かいわぁ……」


 両手で握りしめるように湯呑を持ち、暖を取り。

 そのままゆっくりと湯呑を傾け、飲んでいく。


「ちと苦いわ」

「自分で買って来た茶葉に文句言わない」


 この一言が無ければなぁ……なんて考えていると、玉藻さんの顔が急に店の入口へと向き直り。

 何事かとそれを追えば――何やら入口から聞こえてくる。

 ……端的に表現するなら喧嘩。

 しかも、結構激しめだ。


「見てきますか?」

「……ええやろ。どうせここに入ってくるで」


 という言葉のまま、待つこと数秒。

 勢いよく店の扉が開けられ、入ってきたのは……。


「何回言わすんだ馬鹿が!! お前の方が不味いに決まってるだろうが!!」

「うっさいんじゃこのノロマ野郎が!! どう考えてもお前が不味いだろうが!!」


 ……体は筋骨隆々、頭は牛。

 いわゆる牛頭と呼ばれる地獄に居るとされる極卒。

 そして当然もう一人は……。

 頭は馬。馬頭ですねくぉれは。


「じゃかあしいわ!!」


 なお、大声で言い合いながら入って来た二体も、玉藻さんの一喝の前に大人しくなる。

 冷えて機嫌悪いからな、気が荒くなっておられる……。

 というか、妖怪が来るんじゃないの?

 牛頭馬頭は妖怪ではないと思うんですけど……。


「差別したらあかんで?」


 だから心読まないでもろて。


「ほんで? なんで二人は喧嘩してたん?」


 何故に心を読まないので? 当たり前に俺の心しか読んでませんねあなた?


「いや、この馬鹿がよぅ――」

「このノロマがさぁ――」


 二人一緒に喋り出しては、お互いに相手を貶す言葉から始まるの……さては仲いいなあんたら。


「理由だけ簡潔にいいや」

「馬の方が美味いって話をしやがってさ」

「牛より馬の方が美味いよな?」


 ……? 共食いの話をしてらっしゃる?


「はぁ……頭痛なってきたわ」

「狐頭さん的にはどう思います?」


 ――あの、ほんの出来心だったんです、許してください。

 爪、喉に刺さってます……。


「次言うたら首無しの料理人が明日から厨房に立つことになるさかいな?」

「はい」


 ……さて、驚かすのはこれくらいでいいか。

 え? ヤダなぁ……全部計算通りですよアハハ。

 これで大人しくなった二人から話が聞けるってもんよ。

 ……死ぬかと思った。

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