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スープすぅぷ

「なるほど! 最初から冷たいすぅぷなのですね!」


 ビシソワーズの入ったグラスを握り、雪女さんが嬉しそうに言う。

 まぁ、本人に冷やして貰ったわけだし、そこまで驚きもないよな。

 やり過ぎだったのはご愛敬という事で。


「海外の料理で、夏バテとかの時に飲むもんらしいわ」


 玉藻さんが補足説明をしてくれるけど、まぁ、そうだよね。

 少なくとも、冬にこれを飲みたいとは俺はならないかな。

 

「そうなんですね! 早速いただきます……」


 そう言って、小さくグラスを傾け、一口口に含んだ雪女さんは。


「美味しぃ」


 すぐにグラスを戻し、口元を手で隠し。

 キラキラした目で、ビシソワーズを凝視。

 いや、味わい方がまんまワインなんよ。

 スープだから、それ。


「じゃがいもの滑らかな舌触りと、濃いめのコンソメがええ感じやね」

「こんそめ……と言うのは?」

「色んな具材から煮出した出汁に近いものですね。コンソメスープだけで飲む場合もありますし、こうして料理に使う事もあります」

「? でも、そんなに色々と入れてませんでしたよね?」

「そこが人間の知恵っちゅうもんでな? この塊に、コンソメをぎゅっと凝縮しとるんよ」


 そう言って、玉藻さんがポッケから取り出したのは固形コンソメ。

 ……って、厨房の中にあった固形コンソメが消えてるし。

 手品か。


「そう言えば、そのようなものを入れていたような……」

「本来のコンソメっちゅうのは時間がかかる代物やからな。そこまで客を待たせられんと、こうして固形のコンソメを使わせてもろとるわ」


 俺もね? 料理を作る人間の端くれとして、言ったのよ。

 固形コンソメなの? って。

 そしたら玉藻さん、


「日替わりで何人来るかも、何を注文するかも分からん客相手にコンソメ煮だしてたら陽が出てまうで?」


 だってさ。

 日が暮れてしまう、はよく聞くけど、陽が出てしまう、は初めて聞いたな。

 営業時間的にそう表現するのが正しいんだけどさ。


「冷えたすぅぷ、こんなに美味しいものがあるなんて」


 雪女さん、ビシソワーズがだいぶ気に入ってもらえたらしい。

 大事そうにチビチビとグラスを傾けて飲んでるよ。


「クルトンも欲しなるなぁ」

「買って来てない玉藻さんが悪い」


 なお、玉藻さん。

 というか、俺は玉藻さんが買って来た材料でしか作れないんだから、そう言うんなら仕入れて来てくださいって話。

 まぁ、スープにクルトンはセットなイメージあるから、作ってて俺も思ったけどね。


「ふぅ。美味かったわ」

「さよで」

「こんなに美味しいのに、そんなに早く飲んでしまっては勿体ないですわよ?」

「ええのええの。……あ、せや。どうせならもう一杯作ってや」

「えぇ……ビシソワーズをですか?」

「嫌そうな顔せんの。ビシソワーズやのうて、他にも冷たいスープくらいいくらでもあるやろ?」


 そう言われて今日仕入れられていた材料を思い出す。

 ……まぁ、出来そうなのはあるけど……。


「雪女も飲むよな?」

「え? あ、はい。いただきます」

「ほら、注文入ったで」

「……かしこまりました」


 ズルいよなぁ。

 自分から誘導しといて、注文入った、だもんなぁ。

 どっちかと言うとねじ込んだ、でしょ。

 全く。

 カボチャと生クリームを取り出し、玉ねぎも続投。

 玉ねぎは皮を剥き、薄くスライスして。

 カボチャは種を除き、同じく可能な限り薄くスライス。

 スライス後に皮を切り落として、まずはバターをフライパンに投入。

 玉ねぎを入れたら、弱火でじっくり炒めて玉ねぎの甘さを引き出していく。


「かぼちゃ……ですか?」

「せやね。煮物とかで使っとったか?」

「ですね。大きくて甘くて、ご馳走でした」


 とまぁガールズ? トークを聞きつつ、作業を継続。

 塩を振って玉ねぎが炒め終わったら、水とカボチャを入れてじっくりと煮る。

 カボチャが柔らかくなるまで煮込んだら、またまた登場ミキサー。

 洗うの大変なんだよね。ハンドブレンダー買いませんか? 玉藻さん。

 撹拌が終わったらボウルに移し、生クリームを加えまして。

 氷水に当てながらキンキンに冷やして完成!!

 ……玉藻さんが、うちの出番は? と言った顔でこちらを見ている。

 どうしますか?

 頼る →お願いする


「玉藻さん、これ、さらに冷やして貰えます」

「しょうがないなぁ」


 あんな表情しといてしょうがないもクソもあるか。

 これで頼らなかったら適当な嫌がらせが飛んでくるんだぜ?

 トイレに入った瞬間電気が消えるとか、シャワーが突然お湯から水になるとか。

 やれることは凄いのにやることはせこいんだよな、あの九尾。


「誰がせこいって?」

「何も言ってませんが?」


 だから思考をナチュラルに読むな。

 マジで覚だろ、この九尾。


「ほら、冷えたで」

「ありがとうございます」


 こちらは普通にスープ皿でご提供。

 お皿に移したら、上から静かに生クリームを回しかけて完成。

 これにこそクルトンが欲しかったよなぁ。


「ほれ」


 で、当たり前に玉藻さんから渡されるクルトンっと。

 いや、あるんかよ。

 さっきまで無い雰囲気出してたじゃん。


「ありがとうございます」


 まぁ素直に受け取りまして、スープに散りばめまして。

 本日二杯目の冷たいスープの完成。

 甘さを引き立てるように作ったから、デザート感覚でどうぞ。


「かぼちゃの冷製ポタージュになります」


 スープ用のスプーンを添えてのご提供。

 どうぞお召し上がりを。

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