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拾い物は王子さま  作者: 藤咲慈雨
王都編
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49.荒れる舞踏会


 バルドロイ元帥がレティシアとエルバートに近づくのを、ベルティーナは玉座から見ていた。親しく話す二人を見て、唐突に思い出す。


「アマーリア……」

「え?」


 隣から聞こえてきた言葉に、アルフレッドは驚いた。懐かしい言葉を聞いた。社交界からも、愛する妻からも聞くことがなくなった懐かしい名前。

 ベルティーナの視線の先を追えば、一人の少女の姿があった。隣にはエルバートが付き従っている。

 見たことのない姿だ。エルバートがエスコートをしているということは、貴族の令嬢なのだろうが……。

 微笑むその姿が誰かを思い出させる。古くなった――幼いころの記憶が刺激された。


「彼女は……」

「まぁ、陛下。可憐な蝶に見惚れていらっしゃるんですか? 妬けますわね」


 頭の片隅に何かがよぎったとき、隣に居たベルティーナが拗ねた口調でそんなことを言った。

 その瞬間、アルフレッドは頭の中にあった考えが吹き飛び、隣で甘えたように微笑むベルティーナの腕を取る。


「まさか! 私がお前以外を見るわけがないだろう?」

「ふふ。どうかしら。わたくしも歳を取りましたもの……」

「歳を重ねても、君は相変わらず美しいよ。私の愛する宝石」


 熱心にベルティーナを見つめ、まるで恋を知ったばかりの少年のように口説く王の姿に、そば近くに控えていた近衛兵や側近たちはため息をこぼした。

 王の、王妃に対する愛の泉水は未だ枯れることなく、むしろ年々大きくなっている。こうして口説くことは珍しいことではなく、もはや日常の風景と言えた。

 アルフレッドとしては心の奥からあふれ出る言葉をベルティーナに届けているだけである。しかし30年近くそれを間近で聞いていた側近たちにとっては、耳にたこどころではなかった。

 ベルティーナは悪戯っぽく微笑んで、アルフレッドから自分の腕を取り戻す。それを見て、アルフレッドは、自分の妻が仕掛けてきたゲームに気が付いた。


「どうやら私は、君にこの思いを伝えなくてはいけないみたいだね?」

「まぁ、どうやって伝えてくれるのかしら?」

「私と一曲踊ってくれますか?」


 アルフレッドはベルティーナのほっそりとした腕を取ると、その手の甲に懇願のキスを送る。

 ベルティーナはキスを受けた腕をアルフレッドの腕に絡ませると、二人は滑るようにダンスフロアに進み出た。

 王と王妃の登場に、パーティの参加者たちは速やかにスペースを作る。それはレティシアたちの周りに群れていた者たちも同じだった。

 国王夫妻のダンスを見るため、誰もがダンスフロアを振り返る。人垣がなくなったのを見て、レティシアはようやくホッとする。


「怖かった……」

「大げさだ。別に取って食われるわけじゃないだろ?」

「気分は飲み込まれそうだったよ……」


 げっそりと項垂れるレティシアに、エルバートは小さく笑った。

 それからダンスフロアで優雅に踊る国王夫妻を見る。父王の王妃に対する愛の深さは相変わらずのようで、エルバートは肩をすくめる。


「それにしてもなんで急に離れたんだろう?」

「あぁ、それはほら。あれ」


 エルバートが指さす先を見て、レティシアは分かりやすく目を輝かせた。

 そんな反応があるとは思っておらず、目を丸くする。エルバートは思わずレティシアの顔を覗き込んだ。

 今日のような舞踏会に出ることを拒否していたレティシアである。ダンスにも興味がないと思っていた。


「素敵。すっごく優雅で美しいのね」

「ダンスに興味があったのか?」

「ううん、興味ない。見てる方がいいよ。麗しいお姫様と王子様のダンスをね」

「お姫様と王子さま、ね……」


 目の前で踊るのは4人の子持ちで、自分の両親だ。エルバートはレティシアの表現に、ちょっと複雑な気分になる。

 ベルティーナは優雅に微笑みながら、意味深な笑みをエルバートに送ってきた。その微笑みを見て、背筋に寒気が走る。

 エルバートはさりげなくレティシアの腰元を引き寄せると、そのままバルコニーの方に誘った。


「エルバート?」

「疲れただろう。少し休もう」


 二人は連れ立ってバルコニーに出る。冷たい夜風がレティシアの火照った頬を撫でた。

 エルバートは飲み物の入ったグラスを給仕からもらうと、それをレティシアに渡す。


「これは?」

「シードル。のどが渇いただろう?」


 指摘されて、のどが渇いていたことに気づく。一口飲んで、ホッと息を吐く。ようやく人心地ついたような気がした。

 レティシアはバルコニーから広い王都を見下ろし、その美しい風景に目を細める。改めて自分が、国の中心に位置する場所にいることを実感した。

 レティシアは自分の頬が緩むのを感じる。それはエルバートにも見えたのか、首を傾げた。


「何か面白いことでもあったのか?」

「ううん。そうじゃなくて。なんだか変だなって」

「変?」

「だってこの間まで下町に居たんだよ? それなのにこんなところに居るなんて……」


 本当に夢でも見ているみたい。その言葉は声にならず、レティシアの喉の奥に消えた。

 エルバートはそっとレティシアの隣に並んで立つ。こんな風にここから王都を見下ろすのは、久しぶりのことだった。

 あの時はここに立つことすら苦痛だったな……。そんなことを思って、胸の奥がうずく。

 二人は無言で並んでいた。穏やかな空気があたりに満ちる。


「閣下~。こんなところに居たんですか~!」


 そんな穏やかな空気を壊す声。エルバートが呆れた顔で振り返れば、妙にご機嫌なオーウェンがこちらに向かって歩いて来ていた。

 どうやら程よくお酒がまわっているらしい。でも着飾った姿のおかげか、酔っぱらっていてもかっこよく見えた。

 思わずレティシアが見惚れれば、オーウェンがにんまりと笑う。


「あれ、お姫さん! 俺に惚れちゃった?」

「え?」

「まぁ、俺がかっこいいのは否定しないからな! 遠慮なく惚れてくれても――へぶっ!」


 陽気にレティシアを抱きしめようとしたオーウェンは、背後から思いっきり脳天を殴られた。その衝撃で目が覚めたのか、オーウェンは幾分、顔が引き締まった。


「閣下……」

「お前、何か用事があったんじゃないのか」


 とげのある声で聞かれ、オーウェンも当初の目的を思い出した。


「あぁ、そうだった財務総監の侯爵さまと建築監督官の伯爵殿が話があるとかって探してる」

「建築監督官? なんでだ?」

「さぁ……。とにかく話を聞きに行ってください」


 行きたくないって顔に思いっきり書いてあるが、エルバートは渋々バルコニーから離れた。オーウェンもその後をついていく。

 レティシアはバルコニーに一人、取り残される。レティシアは残りのシードルを飲んでため息をこぼした。

 こんな夢の空間ももう終わりかな。そう思っていたとき、ドレスの裾を軽く引かれた。


「え?」


 びっくりして下を見下ろすと、そこには金髪の美少女がレティシアを見上げていた。


「……お姉ちゃま」

「…………うん?」


 なんだか聞きなれない言葉が、レティシアの鼓膜を震わせた。







 

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