如月という女
幼い頃に両親を亡くした如月凛。裏の社会に潜む彼女は、危険に晒されながら、自分自身の人生を知っていく。
頼むから同情などしないでくれ。私は自分の思う最善の選択をいつもしてきた。両親は物心付く前に死に、叔母に預けられた。私の人生に口出しをする権利は誰にもない。ただ、少し孤独を味わい過ぎたような気もする。
世の中には、影に隠れているものが山ほどある。子供の頃は皆、警察官や、スポーツ選手に成りたいと一度は思っただろう。私もそうだったのかもしれない。だが、今私は生活の手段として臓器売買の売人をしている。皮肉なものだ。警察を志していた者が取り締まられる側になるとは。臓器売買の収入は高い訳では無い。仕入れてくる臓器の数には勿論限りがあり、私自身も淫売婦として体を売り、生まれた子の臓器を取引に出している。これでも全く生活の足しにはならない。売上は臓器売買を統制しているマフィアに「手数料」としてほとんど納めている。家などあるはずもなく、フィレンツェの路上で生活をしている。売人だけが危険にさらされ、たとえ売人が捕まったとしても、マフィアの実態は決して見えることはなく、人々の暮らしに溶け込んでいる。私も捨て駒として利用され、やがて霧のように、この世から去っていくのだろう。だが、最も恐ろしいことは、私自身、自分の行為に嫌悪感を抱いていないことかもしれない。