国の代表とご主人様(?)になっちゃった
『今月の代表者は楠原真人に決まりました』
「……ほぇ…?」
俺は楠原真人、正直言って、キラキラネーム一歩手前の大学三年生。
今日一月一日、俺は平凡な大学生から日本代表ににジョブチェンジしたらしい。
テレビの中の総理がそう告げた。
「…何言ってくれてんだぁぁぁ!この、クソ総理がぁぁ!」
俺は求めていない非現実に足を踏み込んでしまったらしい。
翌日
ピーンポーンっとインターホンがなった。
頭をよぎるのは、昨日の総理の一言。
俺は恐る恐るドアのちっちゃいやつを覗き込んだ。
そこにはスーツをビシッと着こなしているクール系美女(まな板)がいた。俺はこんな人知らない。十中八九昨日のことが関係しているだろう。
正直、逃げ出したい。しかし、逃げ出せるわけないのだ。昨日のテレビで実名だけに飽き足らず、顔写真や身長体重も公表されている。プライバシーってやつはどこいったのかな?政府が守らないとかおかしいよなぁ
はぁ…俺は大人しく覚悟を決めた。ドアに一応チェーンだけかけといてドアを開ける。
「なんでしょうか?」
目の前の女は笑顔で言った。
「私たち、進化会に参加しませんか?」
「おぅ……そっちか…」
思わぬ存在との遭遇で狼狽えてしまったが、俺は知っているのだこういう奴らの話は聞かない方がいいと。
「参加しません!」
俺はこの場から逃げない一心で、拒否と共にドアを思いっきり引き込んだ。
しかし、ドアはぴくとも動かない。何か異常な力によって固定されているかのように。
そのとき最悪の仮説が頭をよぎる。この目の前の女は俺と同じく代表者であり、能力者であるのではないか?という仮説だ。それが事実なら俺は、なすすべもなくやられるだろう。俺はまだ自分の能力を知らないのだから。
「…ふぅん?危機管理能力はぼちぼちって言ったところかしら。進化会ってのは嘘よ、私は2056年三月の代表者、笹部鏡花。これ証明ね」
そう言って彼女は、手帳を取り出して開いて見せる。
ちなみに俺は2058年一月の代表者だ。認めてないけど。
そこには、異能課第三班隊長、笹部鏡花と書いており顔写真と国家の印鑑までついていた。
「そうなんですね。楠原真人です」
笹部は少し驚いたような顔をしていった。
「真人って本当にそう読むんだ…珍しいね」
ひ、人が気にしてることを堂々と言いやがってコイツ…笹部とは仲良くなれなさそうだな。マジで!
「…は、ははっ、そうなんですよ」
「どうしたの?そんなに顔引き攣って?」
このクソアマ…中学時代の悪しき思い出を掘り返すような真似しやがって、おっぱい揉むぞこら!あっ…揉むおっぱい、ないわ……
中学時代、真人は別に何もしていないが新人煽り?をされていた。それもいじめとかじゃなく、ただのからかいだったため誰も止めず、本人も止めようとしても悪化するだけだった。真人はこの時から少しずつ捻くれ始めたのだ。
てか、俺が代表者って間違いだろ。そうだよ、そうに違いない。だったら今日は休みだし早く二度寝をしなきゃな。
「…体調が良くないんですよ。俺部屋戻ってもいいですか?」
笹部は慌てて真人を引き止めようとする。
「ちょっと、すぐ済むから、ね、ここにサインだけもらえたらいいから。はい書類」
「はぁ…どうも」
明らかにすぐ読めるような厚みではなかった。五十枚ほどの紙の束と、一枚の契約書、そしてペンを渡してくる。
いや、これなんの考えも無しに契約したら不味くね?これにサインしちゃったらもう代表決定ってこと?だめだよ、俺はそんな危険なところ行きたくないし。とりあえずこれを読んでからってことにして今日は切り抜けよう。
「これ、ちょっとすぐには読めないので、明日でいいですか?」
「だめ。今日中にお願い」
はぁ?ふざけんな。こんな大事な判断すぐできるわけないだろ!
「いや、それはちょっと…」
「なんでよ?別に拒む必要もないわよね?」
こいつ、本気で疑問に思ってやがる。拒む理由なんてありまくりだわ!誰が異界に行きたいんだ!そんなのはもう厨二病の奴らに行かせろよ!
「…わかりましたよ。じゃあ二十四時に取りに来てください。それまでには書いときますから」
なんてな、この女がどっか行った瞬間に夜逃げしてやるわ。死んでも異界なんて行きたくないんでね。
「あなた逃げないって約束できる?」
「……当たり前ですヨォ……そんなことするわけ無いじゃないですかぁ…」
「…図星って顔してるけど」
…クッソ!なんでこんなに感がいいんだよ。俺の完璧な計画が通用しないなんて…はっ!まさかこれが代表者の力なのか?(そんなわけ無い)
笹部は少し悩んでから言った。
「…あなたが描くまで私もここにいるわ」
「…へ?…いやいや、そんなのは近所迷惑なんでやめてくださいよ」
「うん、だから入れて?」
笹部は俺の部屋を指挿して言った。
だめに決まってんだろ。代表者なんぞ家に入れたらどうなるかわかんないわ!でも、入れなかったらそれもそれで怖いな。
別に国家権力に屈しただけだからな!お前が怖いわけじゃ無いからな!
「……わかりました…どうぞ」
「能力も解くね。そのままじゃ動かせないでしょ」
「……ウッス」
やっぱりおまえか原因かよ。じゃあチェーンとかあっても意味なかったじゃん。どうせサイコキネシス的なアレだろ。
やべぇ、めちゃくちゃ今汚いわ部屋。てか、昨日のオカズそのまま机の上に置きっぱじゃね?クソ、シコって悪い記憶なくしてた弊害が今来たのか?
「ちょっとまっ……」
呼び止めようとした時、すでに彼女は俺のオカズを直視していた。
やらかした。彼女の手にはハードSMの本が収まっていた。それも彼女はそれから目を離そうとしない。
「……こうゆうのが好きなんですか?」
「…………はい」
不思議な空気が漂ってきた。初めて会った女性に自分のオカズ事情を知られることほど、困るものもないこの時すごく強く思った。
笹部は慌てて本を目に入らないように端に置いた。そして俺に早く資料を読んで書くように行った。そして、俺の顔が見れないのかずっと下を向いたり、ソワソワしている。
はぁ、最悪だぁ。代表者にもなりたくないし、さらに逃げれる雰囲気でもなくなったし、趣味バレたし。もうなんでもええわ。
そのとき、俺に天啓が舞い降りた。
はっ!セクハラ発言したらこの女逃げ帰ってくれるんじゃね!(ガバガバ理論)
物は試しっていうしな、当たって砕けろだ!
「笹部さん」
「……はい」
彼女は一切俺の方を向かない。これはいける。俺に圧倒的なまでに嫌悪感を持っているに違いない。
「…あんたが俺の女になるなら、サインしてもいいぜ」
言っちゃったあぁぁ!これで後戻りはできない。しかし、失敗の可能性はゼロよ!ゼロ!これでOK言う女なんていないぜ!変態以外はな!
「…じゃあ…お願いします。ご主人様」
「……へ?」
彼女は慌てて額を床に擦り付けて言う。
「私をご主人様のものにしてください!」
えぇ…(困惑)、そうゆう疑問じゃないのよ。言い方が気に入らなかったとかじゃないから。なんなのコイツ。クール系とか誰が言ったんだよ。
「実は私ドMなんです。でも、みんな私をかっこいい人だと思ってるし、私もそう振る舞わなきゃならないのかなってずっと思ってました。けど今日、この部屋に入ってあの本を見たとき運命を感じたんです」
「…運命…」
運命と来たか…これはやべーわ、マジでやべー。
「はい!ご主人様の本が私の愛読書だったんです」
ファ!まじかよ。別に自分で買ったわけじゃないのになぁ。あのクソ野郎、次あったらエロ本置いていく癖やめさせなきゃ(使命感)
「だから私はあなたの女になります」
「よし。よくわからんけど、とりあえずご主人様呼びはやめようか」
「えっ…もしかして私のこと嫌いになりましたか?」
笹部は目をうるうるさして言う。なんだよなコイツ、顔がいいからせこいわ。
「いや、外出たときさ…なんかわかるでしょ?」
「……すみません、私じゃご主人様の崇高な考えは分かりません」
「だから、やめろっていってるだろおおぉぉぉ!」
ご主人様とか呼ばれてみたいとか考えててすみませんでした!童貞丸出しの考え方してて悪かったです!こんな童貞クソ野郎のこと忘れて、どっか言ってください!
「じゃあ、真人様?」
…うわぁ。様付けとかもちょっと憧れてたけど、自分の名前が微妙すぎてなんかやだ。てか、もう帰ってくれ。
「様付けも禁止で」
「……じゃあ、真人くん?」
ズキューン!
ぐはぁ!なんで破壊力だ。ツラが良すぎて今までのマイナスが弾け飛んだぞ。
「…それでいいよ」
「わかったわ。真人くん」
可愛い子にくん呼びってされるのええなぁ(ほっこり)
誰がこの魅力に抗えるよ!中身が洗面台に絡み付いた髪の毛より触りたくないような奴でも、ほっこりするんじゃあぁぁ!
「真人くん…」
笹部は少しもじもじしながら顔を赤らめる。視線は俺の腰へと向かっていた。
ふっ、俺の最終兵器も準備万端らしい。くん呼びでただの美女認定されたようだ。胸はないが。
「あぁ…ベッド行こうか。笹部さん」
「鏡花って読んで…」
「…鏡花、いくぞ」
そうしてなんやかんやあって、とりあえず卒業は済ませた。
なんで鏡花ってここ来たんだっけ?